二歩禁の系譜(3)(近代将棋昭和51年10月号)

本日の記事は、村山隆治氏著「二歩禁の系譜」の第3回です。
(2)から、1か月以上空いてしまいました…。
(第6図)
(3)第6図

 第6図 ――現在完了・間接型――
宗看の『無双』と共に、詰将棋古典の双璧と称せられる、宗看の弟・贈名人看寿の『将棋図巧』(『象棋百番奇巧図式』)・宝暦5年(一七五五)献上図式の第19番。
8四歩 9二玉 8三歩成 同玉 8二桂成 ㋑同馬 9四銀 ㋺7四玉 7五歩 同玉 8五飛 7四玉 6五竜 7三玉 7五飛 8四玉 7三飛成 ㋩同玉 7四歩 8四玉 8五竜まで21手詰
 変化
㋑ 同玉なら9四銀 9二玉 8三飛成 9一玉 7一竜まで。
㋺ 同玉なら9五歩 同玉 6五竜 9六玉 8五竜まで。又、9二玉なら8二飛成 同玉 7三歩成以下詰み。
㋩ 9四玉なら7四竜行 9五玉 8四竜引 9六玉 8五竜右 9七玉 8七竜まで、歩余る。
 私は中学生の頃、この比較的簡素な図で構成されている二歩禁の作品に接して、深い感銘を受けたことを憶えている。そしてこの一題が、『図巧』との出合いの発端になったのである。

(6A図は7三玉まで)
(3)6A図

 序盤で9二歩を消しておく効果は、変化において出現する。即ち、この歩を残したままで、初手直ちに8二桂成とすると、同馬・9四銀の両王手のとき、同玉と取られて9五歩が打てず、詰まなくなるのである。
 尚、6A図は6五竜に対して7三玉と逃げた局面であるが、この打歩詰を打開する7五飛寄から、7三飛成捨ての妙手も、見逃すことのできない一断面である。
 『図巧』の中で、二歩回避のテーマはこの作品しかなく、全く珍しいことと思う。




(第7図)
(3)第7図

 第7図 ――現在完了・間接型――
在野の棋客としては、幕末の久留島喜内や桑原君仲以来の斯道の名手であり、大正の末期より昭和の初期時代にかけて、『将棋月報』誌上に斬新奇抜な名局を発表した、酒井桂史氏の作品である。
 『酒井桂史作品集』の第7番、大正13年頃と推定されている。
1六金 2四玉 1五金 1三玉 1四歩 ㋑2二玉 1三歩 ㋺同玉 2四金 同玉 2五歩 同玉(7A図) 3四銀 ㋩同玉 5四飛 4四香合 同飛 同歩 3五香 2四玉 2五歩 同玉 3七桂 3六玉 2八桂 2七玉 3六桂 同玉 2六飛 同玉 1七馬 3六玉 2八桂まで、33手詰。
 変化
㋑ 1四同角なら同金 同飛 同香 同玉 1五飛以下詰み。
㋺ 2一玉なら2二歩 1一玉 1二歩 同角 同と 同玉 2四金 1八歩合 同香 同桂成 2三角 2二玉 3二角成 1一玉 1二歩 同玉 2三金 1一玉 2二馬まで。
㋩ 同歩なら1五飛 2四玉 1三飛成 3三玉 3二とまで。

(7A図は2五同玉まで)
(3)7A図

(7B図は2五同玉まで)
(3)7B図

 本局は詰方の2二歩が、ジャマ駒となっていて、あとの攻めを阻害しているのである。1六金・2四玉・2五金・同玉とした7B図と、本譜通りに進行した7A図とを比較すると、2歩を使用して2二歩を消去したことになっている。7B図で3四銀と飛をとっても以下、同玉・5四飛・4四香合(角と桂が盤面に全部配置されている関係上)・同飛・同歩・3五香・2四玉で2五歩が打てずに、それまでとなってしまう。7A図ならその心配はない。序盤の落とし穴を回避する2二歩の消滅方法と、飛を香に変換して打歩詰を見事に解決する手法は流石である。




(第8図)
(3)第8図

 第8図 ――現在完了・間接型――
『酒井桂史作品集』の第87番。
4七馬 ㋑同玉 4九竜 5六玉 4六竜 6五玉 6六竜 5四玉(8A図) 6四竜 4五玉 5五竜 3六玉 4六竜 2七玉 3七竜 1八玉 1七竜 2九玉 1九竜 3八玉 4八金 同玉 3九竜 4七玉 3七竜 5六玉 4六竜 6五玉 6六竜 5四玉(8B図) 5五竜 6三玉 6四竜 ㋺5二玉 6二竜 4一玉 5一と 3一玉 2一歩成 同玉 2二歩 1一玉 1二歩 同玉 2四桂 同香 2一歩成 同玉 2三香 3一玉 2二竜まで、51手詰。
 変化
㋑ 4五玉なら4六馬 5四玉 6四馬 4四玉 5五馬 3五玉 3九竜 3六銀合 同竜 同玉 4六馬 2七玉 3七馬 1八玉 2七銀 2九玉 3八馬まで。
㋺ 7二玉なら6二竜 8三玉 8二竜 9四玉 9五歩 同玉 7三角成 9六玉 8六竜まで。

(8A図は5四玉まで)
(3)8A図

(8B図は5四玉まで)
(3)8B図

 作者の計画した落とし穴は、8A図で出現する。この局面で解図者は、5五竜か6四竜かの二者択一を迫られることになる。
 玉は下段におとすこと定跡なりとばかり、5五竜とすると以下、6三玉・6四竜・5二玉・6二竜・4一玉・5一と・3一玉・2一歩成・同玉・2二歩・1一玉で8C図となり1二香と攻めても同玉・2四桂・同香・2一歩成・同玉で切れてしまう。

(8C図は1一玉まで)
(3)8C図

 8C図で、もし1八歩が消えていれば、1二歩として香を手持にできるので、2一歩成より2三香と離し香の手筋で見事に詰上ることになる。
 8A図に戻り、大変に遠廻りだが、ここで6四竜として本譜に従い、竜ノコで1八歩を消去し、4八金の好手で千日手の危惧を解消して解決する。このカラクリさえ判明してしまえば、最も単純明解な竜の追廻し趣向なので簡単である。




(第9図)
(3)第9図

 第9図 ――現在完了・間接型――
『酒井桂史作品集』の第90番。
5二歩成 同玉 5四香 ㋑6三玉 5五桂 7二玉 6三桂成 同玉 5三香成 6四玉 5四成香 7五玉 7六歩 同玉 7七金 7五玉(9A図) 6七桂 同飛不成 5七角 ㋺同飛不成 6七桂 同飛不成 6六馬 同飛成 7六歩 同竜 同金 同玉 8六飛 6七玉 5八銀 同玉 5六飛 4八玉 5九竜 3八玉 2八金 同成桂 5八飛 2七玉 2八飛 同玉 3七銀 同玉 3九竜 3八飛合 4九桂 2六玉 3七銀 2五玉 1五金 3四玉 2四金まで53手詰。
 変化
㋑ 4一玉なら4二歩 3一玉 2三桂 4二玉 4三歩 4一玉 5三桂 5二玉 6一桂成 6三玉 5三馬 7二玉 6二馬まで。
㋺ 同金なら6六馬 同飛成 7六歩 同竜 同金 同玉 7九竜 7七歩合 8六飛 6七玉 7七竜 同玉 7八歩 6七玉 7九桂まで。
  又、同飛成なら6七桂 同竜 7六歩 同竜 同金 同玉 7七飛まで。
 序盤に5四香と短かく使用するのは大切な一手、もし5六香とすると6三玉・5五桂・6四玉で詰まなくなるからご用心。
 5手目で5五桂と打ち、7二玉と歩を取って貰い、再び桂を成捨てて玉を戻しておくのが、あとの二歩禁を避ける巧妙な手段なのである。

(9A図は7五玉まで)
(3)9A図

 さて、9A図はご法度の打歩詰局面。これからの双方における攻防が、まことに見事である。詰方の9九竜を世に出すためには、7九角がジャマ。そこで玉方の飛の移動を計るために6七桂と打つ。これに対する同飛不成が妙防、成れば7六歩が打てることになる。
 待望の5七角に、同飛不成と粘る。ここで短気を起して6六馬と、はやまることは、飛の効きで、5五成香ができずに失敗する。
 収束8六飛とせず、7九竜でも詰むので、飛不成3回を除いては、印象の浅い作品。

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