続・塚田賞作品の魅力(7)(近代将棋平成7年8月号)③

今回は長篇部門を取り上げます。
第57期(昭和56年1~6月号)

長篇賞 墨江酔人氏作
「将棋墨酔84番」



墨江酔人作(昭和56年2月号) 詰手順
8四金 7二玉 7一と 同玉 6一と寄 8一と 7一と 同玉 6二と 8一玉
7二と 同玉 1二飛成 ⑭3二歩合 同龍 8一玉 9二龍 同玉 (1)4七角
5六飛打(途中1図)

途中1図(20手目5六飛打まで)
第57期墨江氏作1

9三歩 8一玉 3六角 同飛 9二歩成 同玉 1二飛 2二角打(途中2図)

途中2図(28手目2二角打まで)
第57期墨江氏作2

同飛成 同角 (2)4七角 5六飛打 9三歩 8一玉 3六角 同飛 2一飛 3一角打
同飛成 同角 9二歩成 同玉 (3)4七角 5六飛打 9三歩 8一玉 3六角 同飛
9二歩成 同玉 3二飛 4二角打 同飛成 同角 (4)4七角 5六飛打 9三歩 8一玉
3六角 同飛 4一飛 5一角打 同飛成 同角 9二歩成 同玉 (5)4七角 5六飛打
9三歩 8一玉 3六角 同飛 9二歩成 同玉 5二飛 6二角打 同飛成
同角(途中3図)

途中3図(78手目6二同角まで)
第57期墨江氏作3

9三歩 [80]8一玉
9二角 [82]8二玉 9四桂 [84]7一玉 6二香成 同玉 7三金 同玉 8二角 [90]6三玉
6五香 5四玉 6四角成 4五玉 8一角成 3五玉 3六馬 同玉 2七金 同玉
1七飛 3八玉 3七馬 4九玉 3八銀 5八玉 5九銀 同と 4七馬 6八玉
5七馬 7八玉 7九金 7七玉 6八馬まで115手詰
まず、頭金で押さえ込んでからと金を捌いて1二飛成と入りますが、ここで3二歩の捨て合が1一角を取らせない軽手(⑭5二歩では6二香成‥)。9二龍で馬と刺し違えたところから本局の趣向が始まります。3六飛を質にした4七角の限定打とこれに対する5六飛打(途中1図)がその一。続いて9三歩から3六角で飛を手に入れ、今度は1一角を質にした1二飛の遠打ちとこれに対する2二角打(途中2図)がその二。第一趣向の方は毎回3六飛の形に戻りますが、第二趣向の方は角が1筋ずつ移動します。一サイクル12手のこの二つの趣向手順を交互に五回繰返して1一角を6二まで運ぶのが本局の構想です。
途中3図になると香筋が遮られて4七角‥の手順は使えなくなり、9三歩以下、角と桂を打ち付けて(この辺の玉方の応手[80]、[82]、[84]は非限定)角と香をばらしたあと、8二角と並べ([90]6二玉は6四香、6三香合、6一桂成‥の早詰あり)6五香からようやく終盤に入ります。最後は呆気ない詰上りですが、全駒使用の条件を巧みにこなした収束。
有名な「図巧1番」の”角送り”を”角飛交換”の趣向手順と組み合わせて構成した墨江酔人こと故七條兼三氏の力作です。
柏川香悦「全駒使用の意欲溢れる趣向大作。いつもながら感服のほかなし」
伊藤果「次々と難条件を克服して行かれる七條氏には頭の下がる思いと、人智を越えた恐怖を感じます」


長篇賞 竹下雅敏氏作
「時空」



竹下雅敏作(昭和56年3月号) 詰手順
1五歩 同玉 1六歩 同玉 1七歩 同玉 2八金 同玉 2七飛 ⑩1八玉
2八飛打 1九玉 2九飛 1八玉 2八飛打 1七玉 2六銀 同歩 (1)1八歩 1六玉
2六飛 1五玉 2五飛 1四玉 2四飛 1五玉 2五飛行 1六玉 1七歩 同玉
2七飛 1八玉 ㉝2八飛 1九玉 2九飛 1八玉 2八飛引 1七玉
4四角(途中1図)

途中1図(39手目4四角まで)
第57期竹下氏作1

㊵同歩
(2)1八歩 1六玉 2六飛 1五玉 2五飛 1四玉 2四飛 1五玉 2五飛行 1六玉
1七歩 同玉 2七飛 1八玉 2八飛 1九玉 2九飛 1八玉 5四馬 4五角合
同馬 同歩 2八飛引 1七玉 5三角 3五歩合 (3)1八歩 1六玉 2六飛 1五玉
2五飛 1四玉 2四飛 1五玉 2五飛行 1六玉 1七歩 同玉 2七飛 1八玉
1九歩 同玉 6四角成 [84]4六角合 同馬 [86]同歩 2九飛 1八玉
6三角 3六角合 同角成 同歩 2八飛引 1七玉 5三角 3五桂合(途中2図)

途中2図(96手目3五桂合まで)
第57期竹下氏作2

同角成 同桂 (4)1八歩 1六玉
2六飛 1五玉 2五飛 1四玉 2四飛 1五玉 2五飛行 1六玉 2八桂まで109手詰
持駒の歩をポンポンと叩いて2八金で飛車を取り、2七飛‥2八飛打と縦に飛車を並べれば、「堀半七作」と伝えられる二丁飛車の”釣瓶趣向”(よく”エレベータ詰”と言われるが、幕末の頃にはまだ昇降機はありません)の形が現れます。なお、2七飛に⑩3九玉の変化が厄介ですが、5七角、4九玉、2九飛引、5八玉のとき、5九飛の好手を発見すれば、あとは6七玉、6六飛、7七玉、7八銀、同玉、7九飛、8八玉、8九歩、9八玉、9七歩、同玉、9六飛‥と2一馬の睨みを利用しながら追って詰みます。
さて<2九飛・2八飛・1七玉>の形から2六銀‥と捨て、1八歩‥で二丁飛車の上下が始まり、20手後にやっと元の形に戻ったところで4四角と飛び出します(途中1図)。ここで㊵3五歩合は、1八歩‥と、もう一度飛車の上下運動をして2七飛、1八玉まで来たところで、1九歩、同玉、5五角、2八歩合、同角、1八玉、1九歩、2九玉、7三角成、3九玉、2九飛、4八玉、2八飛引、3八銀合(香合はない!)、同飛、同玉、2八馬、4八玉、5九銀まで。従って4四角には同歩の一手となり、再び1八歩から飛車の上下を始めます。
今度は2九飛、1八玉のときに5三角と据えて3五歩合を強要しておき、三度目の上下運動の途中6四角成4六角合([84]4六歩は2九飛、1八玉、5四馬以下作意通りで2手早い)と刺し違えます(このとき[86]4六同銀は、2八角、1八玉、1九歩、2九玉、4六角以下)。さらに1八玉のときに6三角3六角合、同角成‥で3筋の歩も一段進めておいて5三角と打てば、ついに桂合(途中2図)の一手となり、四度目の上下運動で2八桂打が出来て、やっと終局です。
本局は、有名な堀半七作(参考図)

参考図(堀半七作)
第57期竹下氏作参考図

の紛れ手順を繰返し趣向に利用して、角打ち角合の反復構想を成立させたもの。そのカラクリは途中1図と途中2図を見比べれば瞭然です。つまり、角打ち角合を適所に織り込むことによって4三歩を4六まで進め、また3五に発生させた歩も3六へ進めておくことで最後には3五桂合を余儀なくさせようという偉大な構想なのです。この間に飛車の上下趣向は四回。しかも、㉝1九歩‥の紛れと㊵3五歩合‥の変化手順を僅かな合駒の差で成立させた上、そのギリギリの配置が⑩3九玉‥の好手順と[86]4六同銀‥の変化も作り出しているあたり、推敲し尽くされた完成品と言えます。
なお、命名の「時空」というのは、作品全体の線型的、空間的イメージと時間を超越したものであって欲しいという願いからつけたものとか。当時、作者は広島大学(理学部)の三年生でしたが、最近はどうしておられるのでしょうか。ぜひ復活してもらいたい作家の一人です。


次点 F-86F氏作
「エマージェンシー」



F-86F氏作(昭和56年6月号) 詰手順
7九飛 ②6一玉 5二銀成 ④同玉 5八飛 ⑥5七桂合 同飛 4二玉 4九飛
4七桂合 同飛直 3二玉 2四桂 2二玉 4二飛成 3二歩合 同桂成 同銀
3三桂成 1三玉 2五桂 2四玉 4四龍 2五玉 2七飛 3六玉 4七龍
3五玉 3七飛 2四玉(途中図)

途中図(30手目2四玉まで)
第57期F氏作2

3四成桂 1三玉 2四成桂 同玉 4四龍 ㊱2三玉 2四歩 2二玉 3二飛成 同玉
3三銀 2一玉 4一龍 3一歩合 3二銀生 1二玉 2三歩成まで47手詰
初手は頭から飛車で押さえ込む一手ですが(、)7五飛‥5二銀成‥5四飛‥4五飛と二丁飛車で追うと、4四桂合をされて左の飛車が3筋へ廻れなくなり、ニッチもサッチも行きません。ところが、7九飛‥と遠打ちし、同じ横逃げで、5八飛、⑥4二玉、4九飛となれば、焦点の合駒は<角>になり(変化図)、

変化図(4八角合まで)
第57期F氏作1

同飛直、3二玉、3八飛、4一玉、7四角、5二角合(歩合は、同飛成、同香、4二歩以下)、4八飛左、4二歩合、同飛成、同玉、3三飛成、4一玉、5二角成、同香、4二歩、5一玉、6二角、同玉、6三歩成、6一玉、5二と、同玉、5四香、6二玉、5三龍、7二玉、8二歩成‥と、綺麗な37手詰。
ところがこれは偽作意的な変化手順で、5八飛5七桂合4九飛4七桂合とダブル中合の妙防がありました。今度は持駒が<桂二枚>なので3筋に飛車がまわる訳にはいかず、2四桂‥4二飛成‥と右へ追い上げて収束に向かいます。飛龍二枚をやりくりし、29手目3七飛と寄った途中図(ここで㉚2五玉は、4五龍‥で早い)から成桂を消去して4四龍と上れば(㊱1三玉なら3三飛成‥)ようやく終焉です。
八段目に桂が打てないという禁じ手を伏線に利用した山田修司氏の名作『禁じられた遊び』からヒントを得た構想作で、狙いの角合がさらに桂のダブル中合に化けるという野心的な作品でしたが、惜しいかな、この二丁飛車の遠打ち手順は、その一年前に桑原幹男氏が詰将棋パラダイスに発表していたために、投票では割りを食ってしまいました。しかし序盤の②7三歩合、8二歩成、6一玉、7一と、同玉、8一と寄、6一玉(②7四歩合のときはここで6三桂‥)、7一と、同玉、7三飛成‥や、④5二同香、7一飛、6二玉、6三歩成、同玉、7四飛成‥などの変化のために、初手は7五飛に誘われるという紛れもあり、謎解きの面白さに溢れた傑作です。
岡田敏「このプロットが過去になければ文句なしに第一位だが‥‥」
伊藤果「素晴らしいクリエイティブ作品だったが、発表時期が不運(?)だった」
柏川悦夫「作品の構成は完璧とは言えないが、この難しい条件を成立させた作者の伎倆に敬服」
北原義治「極めて精度が高いけれど、反面機械的に走った憾みもあり」



「時空」については、後で補足を書く予定です。
→追記(2014年8月11日)
「時空」についてですが、84手目4六角だと早く詰むので、4六歩が正しいという指摘が今川健一氏によってなされています。
(出典:「この詰将棋がすごい! 2012年度版」←「風みどりの玉手箱」)
復活は、お名前を検索した限りではちょっと難しいのかな、と…。
参考図として言及のあった堀半七作は、2八の飛車が持駒となっている図もありますね。

「エマージェンシー」は残念ながら、初手7六(七・八)飛で余詰が成立してしまっているようです。
→追記(2014年8月11日)
先日出版された「般若一族 全作品」の第7番に本作品が収録されています。
詳細な解説、さらには修正案も示されていて詰将棋に興味のある方に強くお勧めします。

最後に山田修司氏作「禁じられた遊び」を紹介したいと思います。


近代将棋昭和47年3月号に発表され、第39期の塚田賞長篇賞を受賞しています。
「近代将棋図式精選」長編の部第101番・「夢の華」第82番に収録されております。
この作を最後に山田氏は約20年に及ぶ冬眠に入られました。

次回からは第8回(第58期)に入りますが、体調が芳しくなく、更新は遅れるかもしれません。
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「堀半七」プロットの長篇作品は意外に少ない?

飛車がエレベーターのように上下する「堀半七」プロットは有名ですが、この主題を長篇化した作品は意外に少ないのでしょうか。
竹下氏のこの作品の他は、柳田明氏の「変奏曲」(『奇想曲』参考13図: http://park6.wakwak.com/~k-oohasi/shougi/kisou/kisou12.html ) しか知りません。

名無しさんへ

コメントありがとうございます。
「時空」「変奏曲」の他に、

駒場和男氏「堀半七の世界」(詰棋めいと2号 昭和60年2月) ※「ゆめまぼろし百番」第8番
河原泰之氏「KYOTO」(近代将棋平成3年9月号、余詰あり)

が私の存じ上げている長篇作品です。
これらの知識は、「風みどりの玉手箱」の「詰将棋いろはカルタ」に依存しています。
現在は見られないのが残念で、復活を期待したいです。
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hirotsumeshogi

Author:hirotsumeshogi
少ない知識をフル活用させています。
当ブログはリンクフリーです。
相互リンクは詰将棋関係のものであれば原則受けさせて頂きます。

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