続・塚田賞作品の魅力(6)(近代将棋平成7年7月号)②

今回は長篇部門を取り上げます。
第56期(昭和55年7~12月号)

長篇賞 森長宏明作
「ハレー彗星」



森長宏明作(昭和55年8月号) 詰手順
9七角 ②8七玉 9八銀 同玉 3一角生 8九玉 4九飛 7九歩成 9八銀 7八玉
7九飛 同玉 1三角生 ⑭2四歩合(途中1図)

途中1図(14手目2四歩合まで)
第56期森長氏作1

同角成 6八角合 同馬 8八玉 7七馬 同玉
7九香 7八銀合 6八角 8八玉 8九歩 同銀成 同銀 同玉 7八銀 8八玉
7七角 7九玉 9九飛 7八玉 6八金 8七玉 8九飛 7六玉 8五銀 7五玉
8六角 8五玉 5三角成 9四玉(途中2図)

途中2図(44手目9四玉まで)
第56期森長氏作2

9五歩 同玉 8六馬 8四玉 8五馬 8三玉
8四馬 9二玉 7四馬 9一玉 8一飛成 同玉 7二歩成 同玉 6三銀成 8一玉
7二金 9一玉 7三馬 9二玉 8二馬まで65手詰
手順を追えば分かるように、初手に打った9七角が最遠の3一まで不成で飛んで行き、1三角生と旋回して2四歩の中合(途中1図)を拾いながら6八馬になって戻ってきます。こんな夢のような手順がどうして成立するのでしょうか?
まず、9七角に②8九玉と逃げる方が自然ですが、9八銀、同玉、5三角成、8九玉、4九飛、7九歩成、9八銀、7八玉、7九飛、同玉、3五馬(7八玉なら6八金、7九玉、6七金、7八玉、6八馬‥)、6八角合、同馬、8八玉、7七馬、同玉、7九香(7八歩合なら5九角、8八玉、8九歩‥)、7八銀合、7五飛以下。ところが8七香が消えている本手順では最後の7五飛に8六玉‥で逃れます。
そこで7五飛に代えて6八角以下、作意通りに追うことが出来ますが、途中2図まで行って持駒がなくなり、切れてしまうのです。
ところが、5三角成~3五馬でなく、3一角生1三角生としておくと、先程のように⑭6八角合では同角生、6九玉、5九金、7八玉、8九角、8八玉、8五飛まで。従って途中1図のように2四歩の<打診中合>が玉方としては必要になり、詰方はこの一歩を使って途中2図以降、収束に向かうことが出来る……という訳です。
2四歩の打診中合を鍵として盤面一杯に角が周回する構想作で「ハレー彗星」の命名もぴったり。殆どの駒が捌ける構成も見事な傑作です。第50期の短篇賞に続く二回目の受賞で、作者の代表作の一つになりました。
岡田敏「3一角不成から1三角不成とする構想を駒少なく表現した点を買う」
吉田健「”伏線趣向”と真正面から取り組んで、キメ細かく消化し切っている」
伊藤果「森長氏らしい緻密なる謎解き趣向作で、秀作」
植田尚宏「作者が何かを求めている姿が目に浮かぶ」
金田秀信「新構想の実現を称えたい」


次点 OT松田作
「絲綢之路」



OT松田作(昭和55年11月号) 詰手順
2三角成 同玉 (1)2九龍 3二玉 3三歩 ⑥4二玉 4九龍 5二玉 5三歩 6二玉
6三歩 ⑫同玉 6九龍 7三玉 (2)7八龍 6二玉 6三歩 5三玉 5八龍 4二玉
4三歩 3三玉 3八龍 2二玉 2三歩 1三玉 1八龍 2三玉 (3)2七龍 3二玉
3三歩 4三玉 4七龍 5二玉 5三歩 6三玉 6七龍 7三玉 (4)7六龍 6二玉
6三歩 5三玉 5六龍 4二玉 4三歩 3三玉 3六龍 2二玉 2三歩 1三玉
1六龍 2三玉 (5)2五龍 3二玉 3三歩 4三玉 4五龍 5二玉 5三歩
6三玉(途中図)

途中図(60手目6三玉まで)
第56期OT氏作

5四龍 6二玉 6四飛 7三玉 8三金 同玉 6三飛成 9二玉 9三龍 同玉
8四龍 9二玉 9三歩 9一玉 8一龍 同玉 9二金まで77手詰
駒が盤の周辺にへばり着いたような珍しい配置で、2三角捨てから2九龍として前代未聞の龍追いが始まります。それは玉頭に歩を叩いては龍が一間跳びに横へ動くというもの。例えば3三歩を⑥同玉と取れば3八龍と一段上がれて早詰。次の5三歩も同じですが、6三歩のときだけは同玉(もし⑫7三玉なら7九龍から7四龍‥と一気に近づいて早詰)とし、6九龍となってから7三玉と逃げるのが巧妙で、一段目の香の配置がそれを成立させているのです。
ここではじめて7八龍と八段目に龍が上がれますが、今度は6三歩‥4三歩‥2三歩と叩きながら5八龍‥3八龍‥1八龍と右へ移動。端まできてやっと2七龍とまた一段上がれるのです。
さらに同じことを繰り返し、持駒の歩がなくなったところで途中図(龍の軌跡を矢印で示しました)となり、5四龍と直接近づいて収束へ。これまでのわき役だった飛車も主役の龍も綺麗に捌いての詰上りに、解説の伊藤果四段(当時)は「長い旅の果てに砂漠の中で見つけたオアシスのような清涼感」を覚えて、本局に「絲綢之路」という詩的な題名を贈りました。
このように龍が1筋から7筋まで往復する大鋸趣向は空前絶後のもので、玉以外の応手が皆無という構成も珍しく、まさに塚田賞級でしたが、前期も含めて既に五回も受賞しておられたことが投票に影響したのが惜しまれます。
植田尚宏「龍の動き良し」
伊藤果「龍鋸の新しい分野に取り組まれたオリジナリティーの豊かさに敬服」
岡田敏「特異な初形とユニークな龍と玉の動きは面白いが、詰将棋的な手が少ないのが難」


特技賞 岡田 敏作


岡田 敏作(昭和55年10月号) 詰手順
6六角 ②同と 2二歩成 同香 2三桂生 2一玉 1一桂成 3一玉 3二角成 同玉
3三金 4一玉 5二金 同玉 5三金 同玉 4四銀 ⑱6三玉(途中図)

途中図(18手目6三玉まで)
第56期岡田氏作1

5五桂 7二玉
8二香成 同銀 8四桂 8三玉 8二と 8四玉 8五銀 9五玉 9六歩 同と
同銀 同玉 9七歩 同玉 9五龍 9六金合 同龍 同玉 8六金 9七玉
8七金 9八玉 8八金 9九玉 1九飛まで45手詰

詰上り図
第56期岡田氏作2

初手6六角は深謀遠慮の伏線手。その効果はずっと後になって現われます。
次いで2二歩成から桂角金と捌きながら玉を左辺へ追い出し、4四銀と出た辺り(途中図)で斜めの線が浮かんで、作者の意図が見えてきます。
あとは詰上り形を期待しながら8四玉まで来ますが、殆どの解答者は初手に角を捨てなかった筈なので、ここで相当に悩むことになります。そして序盤へ戻って呻吟の末、初手の伏線に気づいて快哉を叫ぶことでしょう。この6六角は②5五歩合、同角、同と、1二歩、同玉、2二歩成、同香、2三桂成以下という変化もあり、発見し難い絶妙手です。
7五とが移動しておけば8五銀以下の手順はスラスラ。最後は金合が入り、序盤に陰で睨みを利かせていた1筋の飛車が動いて見事な「大襷」の詰上りが現れました。
ところで、右下の銀などの意味が不審になりませんか?これは途中図のところで⑱同玉、4五龍、3三玉、2五桂、同香、3七飛、2四玉、3四龍、1五玉、1六歩、同玉、1七飛以下の変化に必要だったのです。
この詰上り形は「引違い」とも呼び、宝暦の昔に久留島喜内が作った将棋妙案第90番が最初です。「大菱」や「菱形市松」と並んで<三大曲詰>の一つとされて曲詰作家が競って挑戦してきました(注=<三大曲詰>の定義については別の意見もあります)。本作は九号局になりますが、絶妙の捨駒伏線が入った構想的な炙り出し曲詰と言えます。


「ハレー彗星」は「詰物語」第50番に収録されています。


OT松田氏の塚田賞受賞五回が多いとされたことには疑問がありますが、森長氏の一回との対比ということでしょうか。
なお「絲綢之路」は48手目4三玉と逃げると捕まらなさそうです。


岡田氏作の解説で触れられていた、将棋妙案第90番を掲げます。



本記事の最後に、8月号に発表され、惜しくも不完全に泣いた上田吉一氏作の修正図を紹介いたします。


今年出版された創棋会作品集「撫子」第9番に収録されています。
「撫子」はボリュームたっぷり。まだ残部があるようですので、お持ちでない方は是非…と思います。


次回からは、第7回(第57期)に入ります。
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