続・塚田賞作品の魅力(6)(近代将棋平成7年7月号)①

森田銀杏氏の連載「続・塚田賞作品の魅力」、第6回(第56期)は2度に分けて取り上げたいと思います。
今回は短篇・中篇部門です。
第56期(昭和55年7~12月号)

この期、本間鉄郎氏が無防備煙詰と趣向詰の大作で衝撃的なデビューをしましたが、両局とも余詰。凄い才能を見せながら散ってしまったのが惜しまれます。他にも藤井憲郎・本多裕之・小泉潔・大原利生・中田功(現五段)など十氏余りの初入選がありました。これらの有望新人の作品がその後あまりみられないのが残念です。
さて、短編では新人の藤本和氏がベテランの北川邦男氏を抑えて栄冠に輝きました。中編は決定打がなくて見送られましたが、長編は墨江酔人作「新槍襖」などの受賞級揃いの中で、森長宏明氏の新構想作がOT松田氏の珍趣向作を下して二度目の受賞。岡田敏氏の曲詰「引違い」に特技賞が贈られました。
なお、この年は岡田敏氏の「清涼四題」、北原義治氏の実戦型作品「さとの秋」などの個展や、詰将棋研究会が『古今趣向詰将棋名作選』を編纂した記念の「趣向詰将棋」競作展などの特別出題もありました。

第56期「塚田賞」選考投票 集計表

注=得点のウエイト付けは筆者が仮につけたもの。①は3点、②は2点、③は1点、○印は0点と数えています。


短篇賞 藤本 和作


藤本 和作(昭和55年12月号) 詰手順
4四銀生 2二玉 3一馬 同玉 4二角 2二玉 3三銀生 1一玉 2一金 同玉
3一角成 同玉 3二金まで13手詰
馬の後押しがあるので4二銀不成と行きたい形ですが、2二玉でなぜか詰みません。4四銀と不成で引いておいて3一馬捨てから4二角と打ち換えるのが二枚の金を手駒にしての絶妙手筋です。7手目3三銀不成は1三玉‥の変化に備えた軽手ですが、初手からの二段不成なので味わいは格別。この見事な手順を盤上僅か五枚の簡素図式に仕上げたセンスと棋力を持つ作者は、後に長編作家として大活躍します。
吉田健「そっぽへ引く銀ナマを簡潔な配置で実現したのがお手柄。続く3一馬~4二角の打ち換えがむしろ主眼と見なせるが、再度の銀ナマから乱れない収束と、爽やかなまとまりを見せている」
柏川香悦「二回の銀ナラズに角の打ち換えも良く、形・手順とも短篇らしく決まっている」
植田尚宏「簡潔な配置で味ある手順。銀のソッポは目新しくはないが、その後のまとめが良かった」
北原義治「目新しくはないが、駒の感触に味」
岡田敏「簡潔に的確な表現をしている」
金田秀信「いかにも塚田さん好みの作品」


次点 北川邦男作


北川邦男作(昭和55年7月号) 詰手順
1七飛 ②同玉 2九桂 1六玉 4三馬 3四歩合 同馬 2五桂合 1七歩 2六玉
2七飛 同玉 3七馬 同桂 1六馬まで15手詰
初手1七飛引に②3八玉の変化が厄介ですが、これは3七飛寄、4九玉、3九飛打、5八玉、6八馬、同玉、7七馬以下。この変化を難しくした元凶の5三香を狙って、5手目に4三馬と寄ると3四歩の中合で阻止されます。後はこの歩を先に打って飛車の方を捨てるのが作者の狙い。打歩詰回避の手筋に”飛先飛歩”というのがありますが、本作は逆の”歩先飛歩”で、マニアにはかえって新鮮に映ります。その上、3七馬捨ての詰上りまで完璧な構成の構想的短編です。
柏川香悦「いかにも作者らしい狙い。コクのある点では本作の方が上と思うが……」
伊藤果「久しぶりに見た”邦男”タッチがよく表れた作品で感心しました」
作者はこの翌年4月に四十歳の若さで急逝されました。北川氏にとって本局は最後の発表作となったのです。この構想派作家の業績は詰将棋研究会の有志の協力で『渓流』と題する作品集に纏められて三年後に発行されましたが、本作はその第百番を飾っています。


中篇次点 上田吉一作


上田吉一作(昭和55年7月号) 詰手順
9六飛 7七玉 9九角 8八歩合 同角 同と 7八歩 同と 8七金 同玉
8一飛 9六玉 7八馬 9五玉 9六歩 9四玉 6七馬 同と 9五香まで19手詰
初手9六飛(同玉なら8五角、8六玉、9六飛、7七玉、7六金以下)の軽手に始まり、持駒の角を歩に替えてと金を動かし、8七金から8一飛と遠打ちをするのが狙い。その意味は最後の6七馬のときに9三玉‥と逃がさないという単純なものですが、この簡潔な棋形で実現したところが旨い。その上、3手目を3三角、6六歩合‥で手順を進めた場合には、8一飛のとき8三歩合‥で逃れるという陥穽が仕掛けてあります。おそらくこれに嵌まった誤解者が多かったのではないでしょうか。軽い中にも捻りが入っているのはさすがです。
岡田敏「飛車を短く、あるいは遠く打つ味がとても良い(9六飛と8一飛)」
吉田健「小ぢんまりした構図から小味な手順を進めるうちに、ピカッと8一飛という”手”を見せる」
柏川香悦「相変わらず、雄大にして精巧」



上田氏作は「極光21」第70番に収録されています。
追記(11月14日)
発表図には初手8五飛以下の余詰がありました(解答欄魔氏報)。
「極光21」においては修正図で収録されています。手順が異なりますので下に掲げます。
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上田氏作について

この19手の図は、初手より8五飛、7七玉、8七飛、同玉として、以下8三飛あるいは4三角からの余詰が成立しており、それゆえ、「極光21」では修正されています。
本稿は孫引きされる公算が高い貴重な資料ですので、この点触れてほしいと思います。

解答欄魔さんへ

コメントありがとうございます。

作者名から完全作であろうとの思いと、2図を比較して盤面のみで同一とみた早とちりが重なっての追記漏れです。
早速追記させて頂きます。
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