続・塚田賞作品の魅力(4)(近代将棋平成7年5月号)③

今回は長篇部門を取り上げます。
第54期(昭和54年7~12月号)

長篇賞 上田吉一作
「モビール」



上田吉一作(昭和54年10月号) 詰手順
5五馬 7六玉 6六馬 8七玉 「8八馬 7六玉 7七歩 7五玉 8七桂 同角成
7六歩 同馬 8七桂 同馬 6六馬 6四玉」 5五馬 7五玉 7八飛 ⑳7七香合
6六馬 6四玉 6五歩 同馬 5五馬 7五玉 7七飛 7六桂 同飛 同馬
8七桂 同馬 7八香 7七飛合(途中1図)

途中1図(34手目 7七飛合まで)
第54期上田氏作1

6六馬 6四玉 6五歩 同馬 5五馬 7五玉
7七香 7六桂合 同香 同馬 8七桂 同馬 6六馬 6四玉 5五銀 5三玉
3三飛 (52)4三香合 同飛成 同玉 4二桂成 5三玉 4四銀 6四玉 5五馬 7五玉
7八香 7七飛合 6六馬 6四玉 6五歩 同馬 5五馬 7五玉 7七香 7六桂合
同香 同馬 8七桂 同馬 6六馬 6四玉 5五銀 5三玉 2三飛
(80)4三香合(途中2図)

途中2図(80手目 4三香合まで)
第54期上田氏作2

同成桂 同馬 (83)4四銀 6四玉 5五馬 7五玉 7八香 7六桂合 同香 同玉
6六馬 8七玉 2七飛成 4七桂合 同龍 同歩成 「8八馬 7六玉 7七歩 7五玉
8七桂 同馬 7六歩 同馬 8七桂 同馬 6六馬 6四玉」 5六桂 5四玉
5五馬まで111手詰
本局は久しぶりに「力だめし詰将棋」として特別出題され、解答者の絶賛を得た傑作です。
詰手順は、5五馬…6六馬から8八馬と追い、7七歩から8七桂で角を成らせ、再び5五馬、7五玉と戻したところで7八飛が局面を転換させる好手。⑳同馬とは取れず、⑳7七桂合なら6六馬、6四玉、6五歩、同馬、5五馬、7五玉、7七飛、7六合、8七桂までなので、7七香合の一手になります。香合の場合も同じ手順を進めて7七飛と香を取ると、香は売り切れなので7六桂合。これを取って8七桂、同馬と呼び、再び7八香と打てば、今度の7七合飛車しかありません(途中1図)。続いて14手、先程と全く同じ手順を踏むと、途中1図と同じ局面ながら持駒が〔飛歩歩〕に変わっています。
そこで6六馬…5五銀と変化して、5三玉の形で3三飛と打つと((52)5二玉なら4二と…4一飛成…8一龍までなので)4三香合の一手。これを同飛成と取って4二桂成のあと4四銀…5五馬…でまたもや途中1図と殆ど同じ局面(5四桂→4二成桂)に戻ります。
もう一度7八香、7七飛合、6六馬…の手順を繰り返し、持駒〔香歩歩〕を〔飛歩〕に交換しておいて5三玉と追い落とし、今度は2三飛の限定打ち。4三香合(途中2図)を同成桂、同馬と取って、またもや4四銀…5五馬…で7筋に玉を戻して7八香と打てば、ついに飛合がなく、7六桂合を余儀なくされます。
ここからは収束。2七飛成で質駒の桂と合駒の桂を稼いで、持駒が〔桂桂桂歩〕となったところで「8八馬、7六玉、7七歩…」と序盤に指したのと全く同じ12手を経て5六桂打ちとなり5五馬まで、111手でようやく終局となりました。この長手順の意味を振り返ってみると、何回も持駒変換をしたのは、結局〔歩三枚〕を〔桂一枚〕にするためだった訳ですが、この構想を、攻守双方の馬が互いに交錯し合いながら局面が微妙に変化していく知恵の輪まがいの独特の趣向的な動きに組み込んだ手順構成は、まさに現代詰将棋の極致。しかも収束に至って序奏と全く同じ手順(8八馬からの12手)が繰り返されるという、史上初の新趣向まで入っているのです!5五馬に始まり5五馬で終わるのも、クラシック音楽に造詣の深い作者の美意識の発露でしょう。
なお、途中2図のところで、2三飛に対し(80)3三歩の中合があり、これには同飛成、4三香合、同成桂、同馬、7五馬、同銀、4四銀、5四玉、4三龍、4五玉、5五銀、3五玉、4六龍…という妙手順が秘められています。また途中2図から、4三成桂、同馬、(83)同飛成、同玉、4四銀、5二玉、3四角成…の際どい紛れもあり、平板な反復手順だけに終わらせていないところにも作者の技量が窺えます。
「モビール」の題名通り、まさに詰将棋で表現する、動く芸術作品です。
吉田健「馬の動きにリズムがあるのは当然だが、その上、まろやかなメロディーさえ感じられた。いかにも現代の久留島喜内らしい作品」
伊藤果「超高等数学」
柏川悦夫「これこそ上田芸術の粋」


次点 森長宏明作
「ペガサス2」



森長宏明作(昭和54年7月号) 詰手順
1九金 2七玉 2八歩 同龍 同金 同玉 (一)2九飛打 1七玉 1八歩 同玉
1九飛 2七玉 2八歩 同玉 4三桂成 ⑯8二銀合 2九飛左 3七玉 3八銀 同玉
9二馬 ㉒8三銀打(途中1図)

途中1図(22手目 8三銀打まで)
第54期森長氏作1

3九飛 ㉔2八玉 (二)2九飛右 1七玉 1八銀 同玉 8一馬 ㉚7二歩合
1九飛 2七玉 2八歩 同玉 8二馬 7三銀合 2九飛左 3七玉 3八銀 同玉
8三馬 7四銀打 3九飛 2八玉 (三)2九飛右 1七玉 1八銀 同玉 7二馬 6三歩合
1九飛 2七玉 2八歩 同玉 7三馬 6四銀合 2九飛左 3七玉 3八銀 同玉
7四馬 6五銀打 3九飛 2八玉 (四)2九飛右 1七玉 1八銀 同玉 6三馬 5四歩合
1九飛 2七玉 2八歩 同玉 6四馬 5五銀合 2九飛左 3七玉 3八銀 同玉
6五馬 5六銀打 3九飛 2八玉 (五)2九飛右 1七玉 1八銀 同玉 5四馬 4五歩合
1九飛 2七玉 2八歩 同玉 5五馬 4六銀合 2八飛左 3七玉 3八銀 同玉
5六馬 4七銀打 3九飛 2八玉 2九飛右 1七玉 1八銀 同玉 4五馬(途中2図)

途中2図(109手目 4五馬まで)
第54期森長氏作2

3六銀成 同馬 同角成 1九銀 1七玉 2七飛 同香成 2九桂 2六玉 3六飛
1五玉 2四角 1四玉 1六飛 (124)2三玉 3三角成 同金 2四歩 同金 同銀成
同玉 1四金 3五玉 3六飛 4五玉(途中3図)

途中3図(134手目 4五玉まで)
第54期森長氏作3

5六金 5四玉 4四成桂 同玉 4六飛 3三玉
2四銀 2二玉 2三金 3一玉 4一飛成 同玉 3六桂 3一玉 4二香成 同玉
3三銀生 4三玉 4四銀成 4二玉 3三金 3一玉 3二歩 4一玉 5二と 同玉
4三成銀 5一玉 4二金まで163手詰
詰将棋パラダイス(昭和50年9月号)に発表した「ペガサス」に続く三段馬鋸作品。本局は合駒入りで、飛車のミニ知恵の輪と複合させるという絢爛たる趣向です。
まず、九段目に二枚飛車をセットして4三桂成としてこの趣向手順ははじまります。9一馬による王手に対して⑯3七銀と直接合駒をすると、2九飛左、3八玉、9二馬、4七金合、3九飛、2八玉、2九飛右、1七玉、1八銀、同玉、8一馬…と早いので、8二銀合。続いて玉を3筋に移して9二馬と引けば8三銀合(途中1図)。ここ㉒4七銀合は、3九飛…2九飛右…1八銀…8一馬…として3六銀成、同馬、同角成、1九銀、1七玉、2七飛、同香成、2九桂、2六玉、3六飛以下、まだ手数はかかりますが、詰みです。
途中1図からは3九飛(㉔2七玉なら8一馬、7二歩合、1八銀、2八玉、8二馬以下)…2九飛…1八銀…と1筋へ玉を運んで8一馬。これに㉚2七銀合では同馬…1九銀…2七飛…2八香…なので、7二歩合。ちょっと複雑ですが、これが大仕掛けな三段馬鋸のカラクリ。つまり、飛車のミニ知恵の輪で玉位置を変えて〔歩銀銀〕の合駒を繰返しながら馬を引いて来ようというのです。何と雄大な構想でしょうか!まさに翼を持った天馬が風雲を巻き起こしながら大空から駆け降りて来るが如き光景を見る思いがします。
途中2図まで馬が降りて来たところで3六銀成と変化して収束へ。1九銀と据えて2七飛と捨て、2九桂…3六飛…2四角…1六飛と一方の飛車を活用(ここで(124)1五歩の捨合は、同飛…3三角成…2四歩…1二銀…2三歩で、もう一歩あるので早詰)。本手順は意外にも中段に逆戻りしますが、途中3図からは下段の香二本が働いてきて、最後には4一飛成の捨て駒もあって、きれいに玉座で詰み上がります。
このように雄大な構想を完璧な構成で仕上げた後世に遺る三段馬鋸の傑作で、上田作とぶつかったのが不運というほかありません。
吉田健「躍動美にあふれるロマンチックな手順構成は氏独特のものであろう。構想もさることながら、表現力の卓抜さを買う」



以前、記事にしたこともある第54期の長篇部門。
「モビール」は「近代将棋図式精選」長編の部第160番・「極光21」第77番に、「ペガサス2」は「近代将棋図式精選」長編の部第157番・「詰物語」第47番(「ペガサス」と改題)に収録されています。

ここまでが「近代将棋図式精選」のカバーしている範囲です。

次回からは第5回(第55期)、1980年代に入ります。
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