続・塚田賞作品の魅力(2)(近代将棋平成7年3月号)③

今回は長篇部門です。
第52期(昭和53年7~12月号)

長篇賞 墨江酔人作


墨江酔人作(昭和53年7月号) 詰手順
9七金 ②8八玉 9九龍 ④同玉 6九飛 7九飛合 同飛 8八玉 8九金 9七玉
6四馬 同桂 同角 ⑭7五角合 9四飛 ⑯9五金合(途中1図)

途中1図 (16手目9五金合まで)
第52期七條氏作1-1

同飛 8六玉 9六金 同桂 7五角 9五玉 8四角打 9四玉 9五金 8三玉
7三銀成 同香 同角成 同玉 8四金 6三玉 6九飛 ㉞6四銀合 同飛 5三玉
6五飛 ㊳6四桂合(途中2図)

途中2図 (38手目6四桂合まで)
第52期七條氏作1-2

同角 4三玉 4四歩 同玉 3五銀 3三玉 2三歩成 同成香 同香成 同玉
2八香 2五香合 同香 1四玉 1七香 1六歩合 2六桂 1五玉 2七桂 2五玉
3四銀 2六玉 2五飛 1七玉 1八香 同銀成 同歩 同玉 1九歩 2九玉 1八銀まで69手詰
史上初の順列七種捨て合の大作。この二年前に順列七種合の姉妹作(飛→歩、歩→飛)で第47期塚田賞を獲得した七條兼三氏が今度は七種類の駒を全て”捨て合”で、しかも飛から歩まで順序よく発生させるという快挙をなし遂げたのです!
作品の性格からして、解説の中心は「なぜ捨て駒なのか」の変化読みにならざるを得ません。まず序盤の変化から。
②9七同玉は、9九龍から6四馬…、④7八玉は、9八飛から7九龍…の筋ですが、どちらもかなりの手数なので省略。主題の7九飛合7五角合9五金合(途中1図)は、いずれも飛車や角を引き寄せるための中合です。もしも⑭7五金合、⑯9五角合と前後すると、同飛、8六玉、6八角…の早詰になります。
このあと6三玉まで追って6九飛と活用すると6四地点で銀と桂の変則合(二つの攻め駒が利いている玉側へと捨て合=途中2図)が入ります。ここで㉞6四角合なら、同飛、5三玉、6五飛、4三玉、4四歩(同玉は5三角打…、3四玉は3五香…)、3三玉、2三歩成、同成香、同香成、同玉、2八香、2四合、同香、同玉、2八香、3三玉、3五飛、4四玉、5三角打…の詰み。また6五飛のとき㊳4三玉なら、4四歩、同玉、3五銀、3三玉、2三歩成、同成香、3四歩(同成香は4五桂、3二玉、3三香…)、2二玉、6二飛成、5二桂合、3三歩成、同玉、5三龍…で詰む。6四桂の捨て合は、この6二飛成を防いだもので、本局の山場です。
最後の2五香合と1六歩合はどちらも香を近づけるための中合で、それほど難しくはないでしょう。
玉方応手の趣向作品なので、着手よりも変化の読みを求める手順になったのは仕方ありません。この難条件の克服に対して、その年の最優秀作に与えられる「看寿賞」も全日本詰将棋連盟から受賞しました。
柏川悦夫「順列七種合といえば山田修司氏のあの名作(第24期塚田賞)を思い出すが、本作は、”中合”というのだから驚きである。最も困難な条件に次々と立ち向かう気力には敬服。今期も墨江氏の一人舞台であった」
岡田敏「史上初の七種中合は詰棋人の夢の実現で、その実力と努力に敬意を表したい」
伊藤果「恐ろしい才能、そして努力。これ以外考えられない」
植田尚宏「順列七種中合だが、それを実現するため、手順が少々ギコチない。変化手順の難しいのには驚いた」
作者「本局は自陣成駒などを見てもわかるとおり、苦心惨憺の末、出来上がったものだけに、感慨も一入というところです。後半の6四桂と2五香の中合あたりが胸つき八丁で、何度こわれたかわかりません。これからも老骨にムチ打って、いろいろな記録にチャレンジしていくつもりです。まあ、見ていてください」
なお、発表図は1二成香が1三に、2七香が2五にありましたが、のちに㉞6四角合…の変化に逃れ順があることが判り、作者自身が修正されました。


次点 墨江酔人作
「新旅路」



墨江酔人作(昭和53年12月号) 詰手順
2七と 同玉 2九香 3七玉 4七と 同玉 4九香 5七玉 6七と 同玉
6九香 7七玉 8七と 同玉 8九香 9六玉 9七歩 同玉 (1)8八金 8六玉
8七金 9五玉 8六金 8四玉 8五金 8三玉 8四金 7二玉(途中図)

途中図 (28手目7二玉まで)
第52期七條氏作2

7三金 同玉 6三歩成 7四玉 6四と 7五玉 6五と 7六玉 6六と 7七玉
(2)6八金 6六玉 6七金 6五玉 6六金 6四玉 6五金 6三玉 6四金 5二玉
5三金 同玉 4三歩成 5四玉 4四と 5五玉 4五と 5六玉 4六と 5七玉
(3)4八金 4六玉 4七金 4五玉 4六金 4四玉 4五金 4三玉 4四金 3二玉
3三金 同玉 2三歩成 3四玉 2四と引 3五玉 2五と 3六玉 2六と 3七玉
(4)2八金 2六玉 2七金 2五玉 2六金 1四玉 2五金 1三玉 2四金 2二玉
1二と 同玉 1三金 同玉 2三桂成 1四玉 2四成桂 1五玉 2五成桂 1六玉
2六成桂 1七玉 2七成桂まで101手詰
作者の最良の朋友であった黒川一郎氏の名作「旅路」(『将棋浪曼集』第39番)を発展させた趣向局。香を入手しては九段目に打って行く序奏が新しい工夫です。
一間おきに香を並べ終ると、”棒金”の単純な送り手順に入り、途中図から7三金と捨てて、と金による引き戻し。そして5九金・3九金・1九金と次々に出動してはこれを繰り返します。最後は成桂に送られて1七の振出しへ。百里を越える長い旅が終わりました。
受賞作とは対照的に、変化も紛れもない単純な趣向手順ですが、これも作者の得意な分野の一つ。案外、このような軽く作ったものに秀作があります。
植田尚宏「この趣向は黒川氏にあるが、玉の放浪の旅は充分に楽しめる」
北原義治「墨江氏の独壇場。とすれば、表現が強引な順列中合より、夢を無理なくまとめた『新旅路』の方を推す」
ところで、本作は玉の通る枡目が四十五ヶ所という記録作でもあります。作者は全格巡りを狙っておられたようですが、さすがにそれは果たせませんでした。



「近代将棋図式精選」長編の部においては、順列七種中合が第148番、「新旅路」は第150番に収録されています。

追記(9月5日)
順列七種捨合において言及されていた、近代将棋昭和39年11月号掲載の山田修司氏作「天にかかる橋」を掲げます。


初の順列七種合作品。第24期塚田賞長篇賞を受賞しています。
「近代将棋図式精選」長編の部第53番、「夢の華」第49番に収録されております。

次回からは、第53期に入ります。
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本作品 (順列七種捨合) 及び修正案の結論は?

> なお、発表図は1二成香が1三に、2七香が2五にありましたが、のちに㉞6四角合…の変化に逃れ順があることが判り、作者自身が修正されました。

上記について疑問があります。
この記述を裏付けるように、私の手元にある『近代将棋図式精選』の訂正表に後から貼り付けた補足には「1三成香を1二へ、2五香を2七へ移動させて修正」とあります。

しかし、作者七條兼三氏没後の平成3 (1991) 年に刊行された『将棋墨酔』の第8番には原図が掲載されており、解説には「ここ6四角合の変化は一時不詰説もあった程難しい。」とあります。
更に後、平成11 (1999) 年に刊行された『看寿賞作品集』にも原図 (1三成香、2五香) が掲載されており、問題の6四角合の変化については、6四同飛、5三玉、6五飛、4三玉、4四歩と進め、
「今回の調査では、ここで3二玉と逃げる変化がどうもハッキリしない。今後の研究課題としたい (筆者)」となっています。

下記のWEBサイトには、「墨江酔人氏の「順列七種中合」(近代将棋1978年7月 69手詰)は現在不詰(どのように攻めてもうまく受けられると詰まない)とされたところ、橋本孝治氏がその修正案を発表されました。」という気になる記載があります。

http://d.hatena.ne.jp/mozuyama/20031207/p1

しかし、引用元となる全詰連の雑談掲示板はすでに消滅しており、この修正案がどのようなものなのか知るすべがありません。

そこで質問です。

(1) 原図 (1三成香、2五香)、作者修正図 (1二成香、2七香) のどちらも不完全なのでしょうか。
(『将棋墨酔』に原図が掲載されているということは、作者自身が修正図の発表後、原図のままで6四角合の変化に詰みを発見し、修正案を撤回したのではないかとも思えます)

(2) 橋本孝治氏は作者自身による修正案を知らなかったのでしょうか。それとも作者修正案を不完全と見て新たな修正案を発表されたのでしょうか。
(3) 橋本氏の修正案はどのような図、詰手順なのでしょうか。
(4) 橋本案の結論、評価は?

どれか一つでもご存知でしたら、コメントを頂けますと幸いです。

名無しさんへ

コメントありがとうございます。
正確性に自信が持てず、「指摘が来なければいいな」と思っていた内容でしたので、不安に思いつつもこの文章を書いています。
完全に回答できないこと、あらかじめお断りさせて頂きます。

(1)
実は、森田氏が「続・塚田賞作品の魅力」第5回(近代将棋平成7(1995)年6月号)の最後で、本作について「訂正」を書かれています。
後日掲載予定ですが、先取りしてここに挙げます。

「3月号に解説した第52期長篇賞の墨江酔人作を「1二成香、2七香」とした修正図で掲載いたしましたが、㉞6四角合…の変化は、発表図のままでも詰むことが後に判明し、七條兼三氏の没後に上梓された作品集『将棋墨酔』第八番には原図(左図)で収録されております。
ご指摘下さった駒場和男氏にお礼を申し上げるとともに、不明をお詫びして訂正させていただきます。」

()の部分につきましては、仰る通りではないかと思います。
「後」がいつの時点かは何とも言えませんが。

柿木将棋Ⅷで検討した限りでは、34手目6四角の変化は発表図・修正図共に詰むようです。
「不詰」とされているのは、38手目で4三玉とする変化と思われます。
こちらも検討してみましたが、共に詰まない可能性の方が高そうです。

(2)
「看寿賞作品集」が出版される際、七條氏作が詰むかどうかの問題提起があった(38手目の変化について)という文章を見掛けた記憶があります。
あくまで推測なのですが、橋本氏はこの問題提起をご存じだったのではないかと思います。たとえご存知なかったとしても、「看寿賞作品集」が出版され、「ハッキリしない」という記述を見たのではないかと思います。
ですので、38手目の変化が詰まない(だろう)という前提で修正案を考えたのではないでしょうか。

(3)
http://park6.wakwak.com/~k-oohasi/zentumeren/kanju/kanpe211.html#la040
こちらに掲載されています。

(4)
私からは何とも言えません…。
ただ、38手目4三玉の変化は詰むようです。

Re: 橋本氏修正案の経緯など

詳しい説明、ありがとうございました。

私の棋力では、到底詰ますことはできない作品ではありますが、それでも不完全と聞くと気になるのが人間心理のようです。
橋本氏案は恐らくPCソフトでの完全検討を経ていると思いますので、完全作である可能性が高いのではないかと思います。
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