二歩禁の系譜(4)(近代将棋昭和51年11月号)

本日の記事は、村山隆治氏著「二歩禁の系譜」の第4回です。
(第10図)
(4)第10図

 第10図。 ――現在完了・間接型――
看寿の二歩作品に魅せられて創作した自作品で、昭和21年頃のものである。この作品は、昭和23年発行・『最新・詰将棋名作選』・名人(当時)塚田正夫著の第11番に掲載され、その後推敲して手を加えた忘れがたき一局でもある。
 現在、『詰将棋・流鏑馬』の第83番。
1八銀・1六玉・2七銀・1七玉・2六銀・同金・2九桂・同銀不成・1八歩・1六玉・2七竜・1五玉・2六竜・同玉・3六馬・同玉・3七金まで、17手詰。
 変化
㋑ 1五玉なら3五竜・同桂・1六歩・同成桂・2五金まで。
㋺ 1六玉なら2七竜・1五玉・2六竜・同玉・2七歩・1五玉・2五金まで。
 この稿を起すに当たり、珍しい資料が筐底より発見されたので、ご紹介しよう。
 それは難行苦行の末、この作品が出来上ったとき、当時の常勝将軍・木村名人を破って戦後はじめての名人位を獲得した塚田新名人に、自作の講評をお願いすべく、手紙を差し上げたことにはじまるのである。
 全くおこがましいことであったが、私の手紙に対して塚田名人より、昭和21年5月5日の消印がスタンプされた、塚田流独特の文字のハガキが届いたのである。鬼の首をとったように、喜んだのはいうまでもない。
 ――表――
  世田谷区玉川中町四一四
     村山隆治 様
       杉並区大宮前六ノ四二三
           塚田正夫
 ――裏――
 貴作拝見、感じたことを記して見ませう。最初先づ二九桂を考へるが駄目、一八銀引から二七銀行く手順面白く、この場合、一五玉の変化も平凡で無い手順良し。
 一七玉の場合、二九桂・同銀不成の応せつから、以下二六銀から二七竜・三六馬の好手間然する処ありません。
 真に形、手順、無駄駒無く、傑作と云へませう。          ―原文のまま―

(10A図)
(4)10A図

 文面からも判るように、この作品は当初、10A図のようなもので、これは前にも記したように『詰将棋名作選』に掲載されたものである。桂を持駒にしておいたので、――最初先づ二九桂を考へ――となったものと思う。10A図では、その後余詰が発見され、苦心の末に訂正した印象深い局である。

(10B図)
(4)10B図

 序に詰方の1六歩を消去しておくのが、本局の最大の狙いとするところ。もし端的に、いきなり2六銀とアクションを開始すると、以下同金・2九桂・同銀不成で、10B図となって、1八歩がご法度の禁手になることに気付く。そこでジャマな歩を消すために、1八銀・1六玉・2七銀という、銀の上下運動になるわけである。
 竜と馬を巧妙に駆馳しての収束は、参考になることと思う。




(第11図)
(4)第11図

 第11図。――現在完了・直接型――
柏川悦夫著『詰将棋鞠藻集』の第15番。昭和22年頃の作品である。
1六歩・1四玉・1五歩・同玉・2七桂・1四玉・1五金・1三玉・2四金・2二玉・2三金・2一玉・4三馬・1一玉・3三馬・2一玉・1一馬・同玉・1二歩・2一玉・3三桂まで、21手詰。
 端歩の突き呉れは、収束の打歩を作るためのもので、手順の長さに比べて難かしいところはない。
 氏はデビュー以来30年間、常に詰棋界に新しい波を吹き込み、昭和詰棋壇の一役を担った人である。本作品集のほか、『駒と人生』・『新まりも集』・『詰』の著書がある。




(第12図)
(4)第12図

 第12図。――将来発生・直接型――
二上達也著『将棋魔法陣』の第44番。昭和23年頃の作品である。
7三角・3七歩合・同角不成・1八玉・1九歩・2七玉・3八角・同玉・3九銀・2九玉・3八銀・同玉・4八竜・2七玉(12A図)・2八歩・1七玉・1八歩・同玉・2七歩・同玉・2八竜・3六玉・2六竜・㋑4五玉・4六竜・5四玉・5五竜・4三玉・5三竜・3二玉・2二と・同玉・5五角・3一玉・3二歩・同玉・3三竜・4一玉・5二と・同玉・6一銀不成・同玉・6三竜・7一玉・7二歩・8一玉・8二角成・同玉・8四香・9二玉・8三竜・9一玉・8二竜まで、53手詰。
 変化
㋑ 4七玉なら4六竜・3八玉・3九歩・2九玉・2六竜・3九玉・2八竜・4八玉・4九竜まで。
 打った歩(1九歩)が将来の二歩禁を犯すので、予め消去しておく趣向であり、これは『無双』の第43番と同巧異局。作者自身が気に入っているというだけあって、傑作と賞賛して差支えあるまい。
 本局は玉方の歩詰め誘致に対し、詰方が歩詰回避の常套手段である不成で対抗するのが狙い。その間に二歩禁の趣向、それも必要にせがまれて打った歩が、あとになってジャマになるので消去しておくといった数少い珍しい作品である。

(12A図は2七玉まで)
(4)12A図

 即ち初手7三角に歩以外の合駒なら、3七同角成と取って簡単に詰んでしまう。歩なるが故に詰方も伝家の宝刀を抜いて、”不成”と攻め込み、角と銀を巧妙に捌いて12A図となる。この局面で落とし穴が、ポッカリと口をあけている。短兵急に2八竜としてみよう。本譜と同じように進行して、5五角に対し3一玉と逃げず、ヘソ曲りに1二玉と寄られると、1三歩が二歩禁となって詰まなくなることに気が付くであろう。(12B図)を眺めると全く憎らしい1九歩の存在ということになる。

(12B図は1二玉まで)
(4)12B図

 12A図に戻り、ここで2八歩・1七玉・1八歩・同玉・2七歩・同玉として、見事に歩の消滅に成功する。この辺のやりとりは『無双』第89番における5D図において、3八角と打って巧みに歩と桂を消去する手法に似ている。歩の突き捨ての2七歩は新鮮味がある。
 一度は大将を追いかけた一兵卒が、こんどは一変して身を犠牲にし、味方の勝利に貢献するという、まことに浪花節的美談作品といえよう。
 終盤になって左上辺の駒も全部捌け、1九歩を消す伏線を主眼とした淀みない流れと共に、不動駒も少く、”詰将棋の二上”に相応しい傑作である。




(第13図)
(4)第13図

 第13図。――現在完了・間接型――
『新まりも集』(柏川悦夫作品集)の第65番。昭和23年頃の作品と思う。
4二金・2二玉・3三飛成・1二玉・2三竜・同玉・3二銀・1四玉・1五歩・同銀・2三銀不成・同玉・1五桂・1四玉・2三銀・1五玉・2六金打まで、17手詰。
 3手目の3三飛成が、1二歩を消去する至妙の伏線。このワンクッションおいた飛の活用が主眼であり、1二歩の構図がこの一手によって高く評価されてくる。
 もし、1二歩の駒配りがないとすれば、3手目直ちに2三飛成で詰むことになり、全く味も素気もなくなってしまうであろう。単なる一歩の置駒が、作品の生命を決定する見事なサンプルであって、詰将棋作家はこの点を大いに参考にして欲しいと思う。




(第14図)
(4)第14図

 第14図。――現在完了・間接型――
『近代将棋』の昭和29年1月号に掲載された三木正道氏の作品。
1三飛・同玉・2五桂・1二玉・1三桂成・同玉・2三飛・1四玉・2四飛成・同玉・3三角成・1四玉・1五歩・同銀・2三馬まで、15手詰。
 本作品は、第3回・塚田賞(短編)を受賞したものだが、当時としては二歩禁の趣向が珍らしく、しかもそれを短編の形で表現した点が、受賞の対象になったものと思われる。
 上部への逃路を阻止する1三飛は、もはや常識的手筋だが、以下2五桂・1二玉・1三桂成として詰方の1二歩を消しておく伏線が面白い。これによって収束での1五歩打を可能としたもので、本局のキー・ポイントである。




(第15図)
(4)第15図

 第15図。――現在完了・直接型――
『春霞』(森田正司作品集)の第35番。常に「詰将棋の美」を探求する異色作家。森田氏が昭和32年4月号の『詰将棋パラダイス』に発表したものである。
4七金・同玉・4八歩・・・・㋑4六玉・4七歩・・・・同玉・2五角・4六玉・5六と・同玉・4八桂・同成桂・5五と・4六玉・4七歩・同成桂・5六と・同玉・4七角・4六玉・7三角不成(15A図)・6四歩合・同角成・5五桂合・同馬・4七玉・6五馬・㋺4六玉・5八桂・同香成・4七歩・5七玉・6九桂・同成香・5八歩・6七玉・7六馬・5六玉・4八桂・㋩4七玉・6五馬・4六玉・5六馬まで、43手詰。
 変化
㋑ 同成桂なら2五角・4六玉・4七歩・同成桂・5六と・同玉・4七角・4六玉・7三角不成以下、5五に合いする駒に角と桂がなく詰む。又、4七角に対して同玉は、4八歩・5六玉・6八桂・6七玉・7七金まで。
㋺ 5六飛又は金合なら4八歩・4六玉・5六馬・同玉・6八桂・6六玉・7六金・6七玉・7七金打まで。他の合いなら4八歩・4六玉・5五馬まで。
㋩ 5五玉なら6五馬・4四玉・5六桂まで。

(15A図は7三角不成まで)
(4)15A図

 プロローグの4七金・同玉で、直ちに2五角とまともにやると、これぞ作者の魂胆である落とし穴にはまる。それは以下、4六玉・5六と・同玉・4八桂・同成桂・5五と・4六玉で15B図となり、4七歩が打てないので指し切りになってしまうことで判明する。

(15B図は4六玉まで)
(4)15B図

 4九歩がジャマと気が付けば、これを消去して更に目ざわりな5八成桂を、打歩詰の解消に逆用して巧みに入手する。4七角・4六玉となったときに、打歩詰を回避する7三角不成が手順の妙といえよう。(15A図)
 この局面で玉方の応手が難かしい。普通に4七玉なら4八歩・5六玉・5五角成・6七玉・7七金まで。又、チョット粋に5五桂の捨合でも、同角不成・4七玉・4八歩・5六玉・6八桂・6七玉・7七金までとなる。
 一見して玉の進退は極まったかのように見えるが、作者は絶妙な鬼手を構想していた。6四歩の中合いがそれである。この中合いは角を成るのか成らないのか、詰方に態度を決定させようという打診の一手。あくまで6四同角不成に固執するなら、4七玉・4八歩・5六玉で次の5五角成ができずに逃れようとする魂胆。角が7三なら成れるが、一度6四に移れば成れないという将棋のルールを巧みに採用した新鮮味のある手段といえる。
 結局は、6四同角成りとし、玉方はそれならばともう一度5五に桂合いをして、打歩詰に誘導するが、6五馬寄の回避で見事に詰上ることになる。
 詰将棋には中合いの筋が沢山あるが、同じ中合いでも本局のものは、まことに風変りな味のする珍らしいものである。




(第16図)
(4)第16図

 第16図。――現在完了・直接型――
『詰将棋・二上達也作品集』の第83番。
4三飛成・同玉・5三歩成・・・・・3二玉・4三と・・・・㋑同玉・2一角・4二玉・4三金・5一玉・5二歩・4一玉・3二角成まで、13手詰。
 変化
㋑ 2一玉なら3二角・1二玉・2二金・同玉・3三と以下詰み。
 6三香の配置より、玉は所詮この方面に移動してくることがわかる。従って飛の成捨ては直感で指せると思うが、4三との捨てには気付かぬご仁が、大分いたのではないかと思う。
 歩の成捨てがなく2一角は、4二玉・4三金・5一玉で、5二歩が二歩禁手で失敗。そのための5三歩成から、4三と捨てだったわけである。
 余談であるが、最近二上さんの作品を整理して、極めて面白い事実を発見した。それは短編作品における玉の位置に関することである。
 詰将棋は、全く左右対称のものが必ずできることは当然だが、玉の位置を左にするか右にするかは、駒の配置や作者の好みによって決定されることになる。たまには他人の作品をチョット失敬したので、カモフラージの目的で対称の形にしてしまうといった、よからぬ悪徳作家もいることはある。
 ところが、二上さんにおいては、五・六段頃に(昭和28年頃)、たまには玉を右辺(詰方から見れば左側)に配置した作品を発表しているが、その後今日に至るまで一貫して玉を左辺(これが通常の形である)に配置した作品ばかりを発表しているのである。
 偶然にそうなったのか、あるいは意識してそうしているのか全くわからないが、いずれにしてもその厳しい創作態度に対して、心より敬服したということを、お伝えしておく。
                                                                         (以下次号)

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