二歩禁の系譜(1)(近代将棋昭和51年8月号)

今回から5回に分けて、近代将棋昭和51年8月号から12月号にかけて掲載された、村山隆治氏著「二歩禁の系譜」を掲載いたします。
村山氏のご家族からは、転載についてご了承頂いております。

詰将棋全国大会のレポートとの兼ね合いで飛び飛びになるかもしれませんが、7月中に掲載を完了できればと考えています。
二歩禁の魅力
 ――つれづれなるままに、日ぐらし盤に向いて、形の移り行く手練手管のよしなしごとを、そこはかとなく並べ作れば、あやしう筋こそ気にかかりて、いともの狂ほしけれ。―――
 贋作『つづれ草』の序の段。―幕―
 ともあれ、兼好法師の『徒然草』という随想録は、現世でも立派に運用できる哲学を具えていて、広く人口に膾炙(かいしゃ)されている。兼好は今から数百年前の、鎌倉幕府末期の頃の人であるが、随所に寸見される諦観の中に、現代の世俗の実体を、とらえているような面も多くあり、まことに――げに、さることぞかし。――ということになる。
 私のような、戦中派の中学生時代には、「つれづれなるままに……」で始まるこの古典文学は、”虎の巻”の威をかりて、どうやらこなしてきた記憶が、漠然として残っているだけである。そんな具合であるから、今日この頃何かの機会で、原文のことば使いにお目にかかると、懐しい想い出が走馬灯のように蘇ってきて、物思いに耽けるのである。
 その上巻に、双六に勝つ秘訣がでてくる。
――双六の上手と言ひし人に、その手立を問ひはべりしかば、「勝たんとしてうつべからず、負けじとしてうつべきなり。いづれの手か、とく負けぬべきと案じて、その手を使はずして、一目なりともおそく負くべき手につくべし」と言ふ。道を知れる教へ、身を修め国を保たん道も亦しかなり。――
と、法師は説いている。
 要訳すると、勝つ方法は、「勝とうと思って指してはならない。負けまいとして指すのがよい。どの手が、早く負けになるだろうかと読んで、その手を使わずに一手でも遅く負けそうな手に従うのがよい」ということになる。これこそ、まさに大山流将棋必勝法の極意、受けに独特の強腕を発揮するご仁は、この徒然式無手勝流をとくと熟読玩味してほしい。
 どういうわけかこの法師は、随所に碁の例え話を引用して道を説いている。既にこの時代には、囲碁・象戯・双六など、中国より伝来されていた筈である。己を律するに厳しい法師は、
 ――「囲碁・双六好みて、あかしくらす人は、四重・五逆にも、まされる悪事とぞ思う」と、或る聖の申ししこと、耳にとどまりて、いみじくおぼえはべる。――
と、説いているように、有言実行を試みて、興味を抱く心境には至らなかったのではないかと、考えている。全編を通じて、象戯に関することが何一つ述べていないことは、甚だ残念である。
 兼好の没後およそ約三百年の寛永11年(一六三四)、二代大橋宗古が二世名人に襲位し、続いて13年に、時の徳川三代将軍・家光公に『象戯図式』を献上した。世に謂う『将棋智実』(“象戯経鈔”・”象戯手引草”は、異名同書)である。
 この図式の巻末には、図解入りで次の「将棋治式三ヶ条」が、掲載されている。
 1 二歩を打つことの禁止
 2 千日手の禁止
 3 逆馬のゆき処なき駒を打つことの禁止
宗古は、このほかに「打歩詰の禁止」も書いているので、実際には四ヶ条というべきであろう。
 このうちで、
 ①二歩を打つという行為は、一局の中間過程で現出する事象。
 ②打歩詰という行為は、一局の最終段階に現出する事象。
と、いうことになる。この二つの行為は禁止されているものの、玉の終焉を意味する打歩詰の現象が、二歩禁の現象より強烈な印象を与えることは事実である。それ故に、この打歩詰の禁を採用した作品の方が、二歩禁のそれより圧倒的に多いのは当然であって、これは皆さん承知の通りである。
 町の道場で見かける光景に、二歩を打って頭を掻いているのがよくある。打ったご隠居も、打たれた旦那も至って和やかな風景ですんでしまうが、これが打歩詰となってしまうと、様子がガラリと一変してしまうから不思議である。それというのも、玉の終焉に関係し、直接勝敗に影響するからに外ならない。従って、前にも述べた通り打歩詰の作品が、ハデな面を多分に持っているだけに、古典を含めて大変に多いのである。では全く対照的な面をもつ二歩禁の作品は、どんな流れを経て、現代に至っているのであろうか。
 私は趣向詰の中で、とくに「二歩の作品」に魅力を感じている。将棋禁手の活用によって、いろいろと面白い作品が、できるわけであるが、その最たるものは矢張り二歩の禁手のものであろう。
 このテーマを先づ採り入れて、その第一号局を作った人は、なんと前記の宗古名人であり、しかも象戯図式のトップを飾っていることは注目に値すると思う。
 尚ここでチョッと追け加えておくが、同じ二歩禁の趣向の中で、更に一段と高級化した趣向に所謂「香先香歩」図式というものがある。歩を打っても差支えないのに。敢えて香を先に打って歩を残しておくこの趣向は、あとになっての二歩禁を回避するためのものである。この辺の図式については、既に先年の本誌に『謎の図譜』と題して連載したので割愛させて頂き、本論では通常の二歩禁の作品について進めていくことにする。

 二歩の趣向作品は、
1 盤面に歩が配置されているために、打ちたいときに歩が打てない場合。 ――現在完了型――
2 詰めていく過程で、先に歩を使用したために、再び同じ筋に歩が打てない場合。 ――将来発生型――(但し『香先香歩』は除く)
に、原則として分類ができる。
 いずれの場合といえども、ジャマな歩を消滅させ、適切な時点に歩が打てるようにすれば解決するはずである。そしてジャマな歩の消滅法は、
1 直接型……歩自身が直接に王手をすることによって自滅する方式。
2 間接型……自軍駒の王手により、間接的に歩を玉に取らせて他滅する方式。
とに分れる。
 詰後感から評価すると、間接型はその消滅の表現が露骨でないだけに、ソフト・タッチな味があり、よりよい満足感をツメキストに与えるようである。
 それでは二歩禁図式の歴史的変遷をたどってみよう。

(第1図)
(1)第1図

 第1図。――現在完了・直接型――
二代・大橋宗古名人『将棋智実』・第1番。
2一金・1三玉・2二銀・2四玉(1A図)・2五金・同玉・2六歩、、、・2四玉・2五歩、、、・同玉・1七桂跳・2四玉・1五馬・同歩・2五歩・1四玉・2六桂まで、17手詰。
 先にも述べたように、『将棋智実』(寛永13年・一六三六)の冒頭図式であり、二歩禁趣向の第1号局として、記念すべき作品である。草創期のものだけにムダな駒の配置も見受けられるが、いかにも古典の風情を有している。

(1A図は☖2四玉まで)
(1)1A図

 玉を上部に追い出して、1A図になったとき、もし詰方の2七歩が無かったとしたならば、どういう結果になるだろうか。それは2五歩と打ち捨て以下、同玉・1七桂・2四玉・2五金までで詰むことが判る。

(1B図は☖1五同歩まで)
(1)1B図

 1A図の形から、2五金と捨てて同玉・1七桂跳・2四玉・1五馬・同歩で1B図となる。もしこの局面で2五歩と打てるなら、以下1四玉・2六桂までで、詰むことになる。
 そこで1A図に戻って、ジャマな2七歩を消す手段に出ることになる。即ち2五金・同玉・2六歩、、、・2四玉・2五歩、、、・同玉として、歩の消滅に成功する。かくなれば、前記1七桂跳以下詰上るのである。

(1C図)
(1)1C図

 この図式は、現在では古作物として、1C図という洗練された形で遺され伝えられている。打歩詰めを避ける1五馬捨ての手筋を加味した、傑作である。
 いずれの図にしても、2七歩が二歩の要因を成している。


(第2図)
(1)第2図

 第2図。――玉方の二歩禁・誘致型――
ツメキスト必携の聖典の一つの喧伝されている、三代・伊藤宗看名人『将棋無双』、別名『詰むや詰まざるや百番』・享保19年(一七三四)献上の第9番。
7二香・同玉・8三銀成・㋑同玉・7四銀・同玉・6五金・㋺同玉・5四飛成・同玉・5三飛・6五玉・5六飛成・7四玉(2A図)・6五竜・㋩同歩・6四角成・8三玉・9三香成・7二玉・8四桂・7一玉・5三馬・6二香合・同馬・同銀・7二香・8一玉・9二成香まで、29手詰。
 変化
㋑、7一玉なら6一と・同玉・6三飛成以下詰み。
㋺、8三玉なら9三香成・7二玉・8四桂・7一玉・7三飛成以下詰み。
㋩、6三玉なら5三角成・7二玉・6四桂・8三玉・8五竜以下詰み。
 7手目の6五金が鋭い手で、以下飛を交換して5三飛と打ち、竜に成り変わって2A図となる。

(2A図は☖7四玉まで)
(1)2A図

 この局面では誰しもが、何のためらいもなく6四角成と王手したくなるのが当然というものである。ところが、これこそ宗看の仕掛けた巧妙なワナ、以下8三玉・9三香成・7二玉・8四桂・7一玉・5三馬で2B図となるが、このとき玉方の6四歩を喰ってしまっているので、この局面でさらに6二歩合が可能になる。

(2B図は☗5三馬まで)
(1)2B図

 詰方は歩を持っても7筋に歩がたたず、詰まなくなるのである。
 振り出しに戻って、2A図を眺めて見よう。玉方の歩を6筋に残したままで、2B図のようになれば、6二の点には歩以外の駒を合いしなければならない。ということは、2A図で6四歩を6五歩と進ませれば、敵歩を喰わないで6四角成が実現できることになって、すべてメデタシということになる。
 ここに至って竜損の攻めだが、玉方の歩を残す妙手、6五竜の発想に思考が前進することになるのである。
 鬼才・宗看の偉大なる構想力に、ただ感歎するのみである。
 玉方が、詰方を二歩禁に陥し入れようとして遠謀を計画し、詰方はそのウラをかいて、逆に玉方をして二歩禁に落とし込むという、全くスリル満点の大傑作である。


                                                                    (以下次号)

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