第31期塚田賞発表(近代将棋昭和43年8月号)

第31期塚田賞決定の模様を載せたいと思います。
詰棋ファン注目の第三十一期塚田賞は塚田九段と編集部との間で選考をかさねた結果、左の通り決った。初受賞は吉田健、八巻広丞の両氏でどちらも相当の実力作家。今期は新人がやや不作であった。

受賞作家
短篇賞 北川邦男(6月号15手詰)
短篇賞 吉田健(2月号9手詰)
中篇賞 植田尚宏(5月号17手詰)
長篇賞 八巻広丞(2月号63手詰)
特技賞 田中鵬看(4月号93手詰)


<短篇> 有力候補作(15手以内)
1月号 有田辰次 南 倫夫
2月号 吉田 健
3月号 金田秀信 近藤 孝
5月号 酒井克彦
6月号 伊勢重治 北川邦男
最近の短篇を拝見すると、相も変らず手筋物の作品が多い。その点、受賞された、吉田、北川両君のはそれぞれ独特の作風と言うか個性を持っている。それが手筋から脱却して、手順に「何か」をうちだす。この「何か」を持つというは作家にとって重要なことだ。
他に南作が迫力ある手順で面白いが不動駒の多いのがいささか不満である。さらに、酒井、伊勢両作もスキのない手順で楽めるが、受賞作に比べるとやや評価がおちる。
<中篇> (17~35手)
1月号 原島利郎
3月号 柏川悦夫 山田修司 有田辰次
5月号 植田尚宏
6月号 中川頴太郎 若島正
今期は仲々つぶぞろいで長考を予儀なくされたが、その中では植田作がやや優れていると見られる。初手の軽い伏線から、最終手の27金のあき王手が一風変っており、仲々楽しい手順。
次点は、中川、若島の両作で新人ながら興味のある手順を抽出している。
山田作も優れた作品で文句のつけようがないが、テーマが長篇的でその辺にこだわりを感じる。一考を要するところだ。
<長篇> (37手以上)
2月号 八巻広丞 4月号 田中鵬看
長篇部門は不完全作が二、三出て、結局右の二作が残った。
八巻作。一見して指棋力の旺盛な方と予想した通り、五段の実力とのこと。
全体にゆるみのない手がこれだけ持続するとは実戦型においては奇蹟的ですらある。
田中作、何んと言っても「全駒使用無防備玉」という記録的な面を無視するわけにはいかない。駒配置もすっきりしており、作者の技術的天分は大したものだ。

<受賞感想> 北川邦男
全く予期していなかったと言えば嘘になりますが、いつもよりは期待していませんでした。今期の短篇は傑出した作が見当たらず、どんぐりの背くらべというのが棋友間のうわさでした。最近の短篇には構想型の作品が少く、その辺を買われたのでしょうか。
さて本作、構想は柏川氏の二番煎じですが、邪魔駒銀と紛れ順の好防手でやや救われているという所でしょう。実は17銀の加わらない図を35年3月に作っており、今年になってふと思いついて邪魔駒を入れたのが本図で、今更ながら創作に於ける「練りと粘り」の必要を痛感しています。
受賞作(短篇)

きたがわくにお
昭和15年6月14日生
棋力初段・発表作数100位・受賞4度目

<受賞感想> 吉田健
全然予期していなかっただけに、アワを食ったもいいところ。ややあって、今度は歓喜の嵐。まさに、手の舞い、足の踏むところを知らず。
何よりも、この作品で受賞したことが歓びを倍加します。作風だなんて、えらそうなことが言える柄でもありませんが、これは良い点も悪い点も併せて、いかにも私らしい作品だと言えそうです。むしろ、いわゆる現代風でないだけに、最近の傾向から見て、とても”塚田賞”とは縁遠いと思っておりました。
今回の受賞を機会に、また大いに意欲を燃やして、ジワジワ作って行きたいと思っております。
受賞作(短篇)

よしだたけし
昭和7年4月21日生
初入選22年頃「将棋研究」 初受賞

<受賞感想> 植田尚宏
ニガ手の入玉図での受賞とは全くついています。とにかく目先の変ったものをと思い作図したのが本作で、初手工作で後の歩合をさけるのがイササカ工夫したところですが、この手は何気げなくやる手なので効果があったかどうかというところ。どうも批評にもあった様に好作かどうか全く今でも自分にはわかりません。
受賞作(中篇)

うえだなおひろ
昭和8年1月30日生
棋力三段
塚田賞三度目 作品集に「流玉」あり

<受賞感想> 八巻広丞
僕が詰将棋の創作に心を惹かれ、棋誌に投稿していたのは昭和二十五年頃から四・五年の間であるから、もう十数年前の話である。当時、詰パラ誌の出現や本誌における塚田賞設定の企画等で僕の創作意欲も、ことさらたかめられたものであったが、その後指将棋に転向してから、いつしか作家活動も鈍くなり最近では、殆んど作図の機会がなく、むしろ先輩諸兄の作品を時折鑑賞させていただくのが、せい一ぱいという有様であった。
さて、本作であるが前述の事情からもおわかりのとおり、その原型はすでに十数年前に出来あがっていたものであり、最近になってこれに多少手を加えたに過ぎないのである。しかし、自画自讃美すれば形、紛れ、捌き、手順等、いずれも不満のないところで、自作品中でも自信作の一つである。今期は長篇の発表作数が少なく、これが幸いして受賞となったものと思われるが、いざその報に接すると、ひとしお感慨深いものがあり、また一種のほろ苦ささえ覚えるのである。
受賞作(長篇)

やまきこうじょう
昭和8年8月9日生
棋力五段アマ戦県代表になったこともある強豪。

<受賞感想> 田中鵬看
何年ぶりかにヒョッコリ出て、すぐ受賞とは一寸気が引けますね。
特技賞との事ですが作品がかわっているせいでしょうか?
しかしこの作は不完全でない限り、受賞の自信は絶対的なものでした。何しろ詰棋史上、私の一号局以外例のない珍品ですから……。作品自体は我れながらうまく創作出来たものと、満足感にひたっています。
小駒の自陣成駒銀桂香の成駒も置かぬよう苦心をはらったし、持駒なしにするのも初めからのねらいでした。
大駒も前半、後半と二枚づつ捨てるようにバランスも取ってあり、前半の軽趣向も面白いと思いますが、この趣向を思いつかなかったら、この作品は生れていなかったかもしれません。
受賞作(特技)

たなかほうかん
昭和5年7月4日生本名輝和
初入選35年煙詰4局を本誌に発表して一大センセイションをまきおこす。 棋力三段


田中氏の受賞作「恋路」は塚田九段が書かれているように「全駒使用無防備玉」ですが、「全駒使用無防備玉煙詰」が発表されたのはこの10年後のことでした。
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全駒使用無防備玉一号局

田中鵬看「何しろ詰棋史上、私の一号局以外例のない珍品ですから……。」
このコメントをずっと誤解していました。つまり、「私の一号局」=本作「恋路」と。しかし、―

Ⅰ「塚田賞作品の魅力(18)」(2014/02/05)
森田銀杏「本作は、本誌創刊十八周年記念"珍品詰将棋"と題して4月号に特別出題されたもの。その直前に、毎日新聞・サンケイ新聞・中国新聞・週刊文春に紹介され、テレビの"11PM"にも作者自ら登場したという、史上初の"全駒使用無防備玉"の第一作(ママ)「ひとり旅」に続く、第二作目です。」

Ⅱ「詰作家三十人一局集 私の快心作」(2014/09/30)
田中鵬看「"恋路"は一号局"ひとり旅"の弟であるが内容が秀れているので選んだ。」

Ⅲ「田中鵬看著『詰将棋集』その9」(『借り猫かも』2015/01/16)
田中鵬看「第一作「ひとり旅」を完成。本作もその余韻を詩ったもので「恋路」と命名。」

―なお、原出典は、Ⅰ近将1978.12、Ⅱ近将1971.8、Ⅲ1971.7.15発行。

また、両作の発表経緯にはdirtyな部分があったようです―
Ⅳ 門脇芳雄「想い出の詰棋人⑫田中至氏」パラ2008.4
―その中の記述には、門脇氏の記憶違いで二作が混淆している所があるのかもしれませんが。
(続く)

(#2:漂泊のひとり旅)

冒頭の私の誤解に貢献した「紛らわしい記述」がもう一つ。
『からくり箱』92頁は、
  酒井克彦「革命」105手・余詰・近将1974.11
の紹介ですが、『近代将棋図式精選』の森田銀杏氏の文章を引用しています―
 「田中鵬看氏の「恋路」(『近代将棋』昭和43年4月号)に次ぐ全駒無防備図式の3局目。」
―ここでも「ひとり旅」の名前を出していません。

「ひとり旅」は、T-Baseには見あたらず、Ⅰで言及している4紙誌での「紹介」が作品発表だったのでしょうか。
私はまだ「ひとり旅」の図面を見たことがないようです。華々しい登場の仕方をした作品にしては、「哀れな末路」と言わざるをえません。

谷川さん

「ひとり旅」は私も見たことがありません。
発表当時でしたら手軽に見られたのかもしれませんが、これだけ時間が経ってしまいますとなかなか難しそうです。その内に調査して…とは考えていました。
気付いた方がいらしたか、というのが少し残念です(笑)
成果が出ましたら、記事にしたいと思います。
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