自画自賛 黒川一郎氏(近代将棋昭和41年4月号)

今回から数回、近代将棋誌に掲載された、詰将棋作家の自慢の一局を紹介する「自画自賛」を載せていきたいと思います。
今日の更新分は黒川一郎氏です。



黒川一郎
大.6.9.15生 塚田賞(一回) 看寿賞(一回)

(昭29.7 風ぐるま)
不知火(しらぬい)


詰棋ロマンの旗印をこれ見よがしに高々と掲げつつ、鈍才に鞭打って此処に二十星霜、かっては厚顔の美青年も今は老残の白髪と変貌して了った。同時に情熱の炎も冷却し、今はその埋火を掻き起しては瞬時のぬくもりに、さらばけた手をかざすのみ、悲しい哉!と、愚痴って見たって始まらない。麗らかな陽春に、廻ぐりあったることこそ幸いなれのこのこと這い出して一席打つことにするか!
さて、愚作中、落花、嫦娥、竹生島などは御存知の方も多いので(え?知らねえって?殺生やワ)あまり知られない、そしてロマンの黒川に相応しい、体臭の滲み出た上図を選んだ。先づは御覧召されたい。
手順を追って見て『なんだこれァ!妙手もくそもなく機械的な繰返しじやねえか……』と仰言りたい方はお通り下さい。
『うーむ、面白い!』と膝を打たれたお方、さ、どうぞお近く、もっとお近く。
本局、無論序奏もなければ、収束馬を取り57角一発で呆気無く詰んで了い、その間何の妙手も奇手もない凡々の手順であるが、本局の狙いは題名の描写にある。邪道であるのは百も承知だ。
歩18枚を除く全駒を下辺に鏤めたのは漂洋たる有明海、上辺の空間悠久たる空である。
夏の夜、海上遙か沖合に現れる無数の燐光は、烏賊釣り舟の漁火の如く、ちろろと燃えて右に左に明滅したゆたう。
此の妖異極りなく凄まじいまでの美しい光景は映し得べきもないけれど、左右に移動する金、七筋の水平線上次々に横滑りして消えゆく桂馬。パッと燃えてすぐ消える歩兵、それらの駒の動きに、筑紫の海の不知火の姿をその詩情を、掬み取って戴けたであろうか!そしてそうなってこそ、此の一局が単なる趣向局から、抒情と幻想の世界に溶け入る事が出来るのである。

あり明けの朱けに染めにし不知火の
みをつくしてや燃え渡るべき  古歌


数多くの趣向作を世に残した黒川氏。
塚田賞は「蒼猿」、看寿賞は「嫦娥」で受賞されています。
「天馬」「荒駒」はこの文章が掲載された2年後、昭和43年に発表されました。

なお残念ですが、「不知火」の原図には収束に余詰があります。
将棋浪曼集第20番で修正図が収録されているようですので、下に掲げます。



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