続・詰将棋の能率的勉強法(8)(近代将棋昭和46年2月号)①

村山隆治氏の連載「続・詰将棋の能率的勉強法」、第8回は3分割して掲載します。
限定打の形(その2)とタイトルの下にあります。
曲詰
趣向を目的とした詰将棋のなかで、特に駒配り(初形)か、あるいは詰上り形(終形)が、文字や模様になる図式のことを曲詰(きょくづめ)と呼んでいます。
詰将棋史上、はじめて曲詰集として世に出版されたのが、宝暦2年(一七五二)添田宗太夫が著した『将棋秘曲集』です。これには曲詰百一番がおさめられています。その後約百年たった幕末の頃、桑原君仲という素人棋客が、嘉永3年(一八五〇)に『将棋極妙』を刊行しました。これは前半の50番が曲詰かあるいは趣向詰になっています。
さて近代になって昭和2年の秋、信州、明科の人、丸山正為(明歩と号す)氏が、古今独歩巧緻極まりない『将棋イロハ字図』を発刊しました。これは「イロハ……セスン京」までの50字を、駒配りと詰上りの両方の形からまとめあげた稀書です。
なお、氏は晩年将棋一代記として『盤駒の囁き』を自費出版し、親しい棋友や先輩に贈りました。それは昭和41年の晩秋のことでした。そして程なく他界されました。この本の中には、前記イロハ字図に、更に濁音・半濁音文字の表裏を加えた百四十八文字のものが、全題掲載されていて、まことに象形図の軌範ともいうべき珍本です。これは初案の大正13年から実に40余年の歳月を要し、生涯の精魂を傾注完結したものです。
まだ屠蘇気分の抜けない、お目出度い頃ですので、「イロハがるた」の最後の字”京”の表裏を、ご紹介しましょう。
(注)現代では、二上達也著の『将棋魔法陣』や、田中至作品集の『過雁組曲』などすぐれた曲詰の著書が多い。

(第1図は京の字)
続第8回第1図

(第2図は詰上り京の字)
続第8回第2図

第1図。6二香成・同玉・6四香・同角・6一飛・同玉・7一歩成・5一玉・6三桂・6二玉・7二と・6三玉・7三桂成・同角・同と・6四玉・7四と・6五玉・7五と・5六玉・5七金・同玉・5八金・5六玉・5七歩・4六玉・3五角まで、27手詰。



第2図。7八金・同と・同龍・5七玉・4八金上・5六玉・5七金・同玉・4六銀・5六玉・5七歩・6五玉・6四と・同金・同銀成・同玉・6五歩・同玉・5六金・6四玉・6五歩・6三玉・5三と・同銀・同角成・同玉・6四銀・4三玉・3三香成・5二玉・4四桂・5一玉・4一飛成・同玉・3二成香・5一玉・5二銀まで、37手詰。(詰上り図)

(詰上り図)
続第8回第2図詰上り図



詰手順は絶対手が多くて平易ですが、手数が長いので盤に並べて見て下さい。
さて今月は前号の残り、遠角の筋よりはじめます。
② 角の遠打法

(第3図)
続第8回第3図

第3図。『詰将棋パラダイス』(昭和40年6月号)・明石市・松井秀雄氏の作品です。
形を観察しましょう。5四銀があるので、その方に逃げこまれる心配はありません。何やら開き王手の匂いもしますが、玉方の2八龍の横効きで5八合いが効き、この龍がこの点に頑張っている以上ダメです。なぜなら6八角と打って5六玉のとき、4九角と開き王手をしても、5八歩合が効いて詰みません。
平凡に6八銀と王手をし、5六玉の形にして、敵龍の横効きをなんとか消す方法がないものでしょうか。まず考えられるのは3八角打です。こうすることによっても、一時的には横効きが中断されます。したがって同龍と取る一手です。ここで4七角の両王手が、いかにも筋に映りますが、同玉と取って呉れず4六玉とかわされますと、5七龍としても3七玉と角の影にもぐり込まれて失敗します。もし4七同玉ですと、この5七龍で決ってしまいます。
3八角がないとすれば、龍効きをそらすためには、2九角という遠打(途中図)よりありません。

(途中図は2九角まで)
続第8回第3図途中図

3八に合いをすれば、4九角の開き王手で合効かずですので、2九同龍と取るよりありませんが、そこで4九角と引くのが巧い手で詰上ります。
第3図。6八銀・5六玉・2九角・同龍・4九角・4七玉・5七龍まで、7手詰。



詰将棋の高級なテクニックの一つに「紛れの中に絶妙手を隠す」というのがあります。紛れとは詰みそうで結局は詰まない順ですが、その中に軽い”受け手”を隠しておくことにより、”紛れ”に誘い込む。本作もその一つでした。

(第4図)
続第8回第4図

第4図。内藤国雄八段の詰将棋です。
初手は角か桂を打つしかない局面ですが、3五角は2二玉と落ちられますと、玉方7七角の効きで詰みません。また2五桂は2二玉・3三角・3一玉・7七角成・3二歩合で、これもダメです。なお3三角打に対して、同角成と取って呉れれば以下同龍・1一玉・2一と・同玉・2二歩・1一玉・3一龍までで詰みとなります。
ここで思考を飛躍させてみましょう。もし敵角の斜線効きが消えますと、2五桂から3三龍の手段が可能になることが判ります。それには6八角という素晴しい限定打が残されています。この遠角の名手により急転直下解決するわけです。(途中図)

(途中図は6八角まで)
続第8回第4図途中図

途中図で2二玉なら、手順の7七角があって簡単ですので、同角成と取るよりありませんが、これで3三への角の効きが消えましたので、2五桂と打って3三龍以下収束します。
第4図。6八角・同角成・2五桂・2二玉・3三龍・1一玉・2一と・同玉・2二歩・1一玉・3一龍まで、11手詰。



初手にねらいとする妙手がでてしまうので詰後感は余りよくないようです。
“はじめチョロチョロ、なかパッパ”は、飯をたく要領ですが、詰将棋を作るときのコツでもあります。
③ 香の遠打法

(第5図)
続第8回第5図

第5図。『詰将棋パラダイス』(昭和38年10月号)・北海道・田中至氏の作品です。
玉は上部の逃げから、泡よくば入玉をねらっています。それをうまく押さえ込む方法を発見して下さい。上部脱出といっても4六玉は、5六龍という手があって不成功、3六玉から2七玉が唯一の逃走路、これをくい止めればよいのですから、初手は3筋に香を打つよりありません。
まず3七香と打ってみます。3六合は4六金の好手で以下、同玉・5六龍・3五玉・3六龍まで、同玉のところ同とは、3四龍・同玉・2四馬まで。3七同桂成は、2六金・4六玉・5六龍まで。ところが3七同馬と取られますと、4六金の好手も同馬と取られて、3四龍・同玉・2四馬のねらいが、4六馬の効きでかすんでしまい不詰となります。
それなら3八香はどうでしょう。これも同馬で、この効きが5六の点に及んでいますので、矢張りダメです。

(途中図は3九香まで)
続第8回第5図途中図

最後に残された香打は、3九香という遠打です。(途中図)これに対し3八合なら、2五金・3六玉・5六龍・2七玉・1六龍まで。3六または3七の合いは、2六金で早く詰みます。となれば同馬の一手ですが、そこで前記の4六金がピタリと決ってしまいます。同とに3四龍が見事です。
第5図。3九香・同馬・4六金・同と・3四龍・同玉・2四馬まで、7手詰。



本局は恐るべきまぎれがあります。読者の中にはこの泥沼に落ち込んだ人も、あったことと思います。それは初手より4六金・同馬・3四龍・同玉・3六香・同馬・2四馬までの7手詰が、いかにも本手順のように感じられるからです。ところが実は3六香の時、同馬と取らずに2三玉と落ちられますと、不覚の涙を落とすことになります。ご用心が大切。
手順そのものにも味があり、仲々の佳作と思います。

(第6図)
続第8回第6図

第6図。三代・宗看『将棋無双』の第6番図式を、説明の都合上簡略化したものです。
図で3一龍は、玉方の4八龍が効いていますので詰みません。5筋に香を打つより方法はありませんが、一応5六香としてみましょう。以下6一玉・5二香成・7一玉・6二成香・8二玉・7二成香・9三玉・9四歩・同玉・9九龍・9八歩合・同龍・同龍・8五馬・9三玉・9四歩・同龍・同馬・同玉・9五飛・8四玉にて不詰みとなることが、判ります。この手順中、もう一歩あれば最終9五飛と打たないで、9五歩・8四玉・9四飛で詰上ります。そこで5六香でなく、5八香と敵龍の腹に打つのが、実に素晴らしい妙手なのです。(途中図)

(途中図は5八香まで)
続第8回第6図途中図

なぜ、5八香でなければいけないのでしょうか?5九香と一段さげて打ちますと、この香が味方の3九龍の横効きを遮断してしまいますので、軽く6一玉と逃げられて不詰となってしまうからです。5八香で6一玉なら6二歩・7一玉・7九龍・8二玉・7三龍・9三玉・8三歩成・同金・9四歩・同玉・8五馬・9三玉・8四馬・9二玉・8三龍までで詰みとなります。といって5八同龍と取っては、3一龍の一発。そこで5七歩合・同香として、龍効きを消すのが妙防ですが、一歩入手できましたので、5二香成として前記手順で詰上ることになります。
第6図。5八香・5七歩合・同香・6一玉・5二香成・7一玉・6二成香・8二玉・7二成香・9三玉・9四歩・同玉・9九龍・9八歩合・同龍・同龍・8五馬・9三玉・9四歩・同龍・同馬・同玉・9五歩・8四玉・9四飛まで、25手詰。



遠香の限定打が印象に映る力作でした。



丸山氏作。第1図は3手目6三香以下、第2図は23手目3三飛成以下でも詰んでしまうようです。
松井氏作は「四百人一局集」に収録されています。
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