続・詰将棋の能率的勉強法(7)(近代将棋昭和46年1月号)②

村山隆治氏の連載「続・詰将棋の能率的勉強法」、第7回の後半部分です。
(第11図)
続第7回第11図

第11図。『将棋図巧』第79番図式です。古典物としては珍らしい短編遠打ちの作品であり、構成されている主眼手筋は遠飛の連打です。
着手にあたって注意すべき点は、玉が6五に逃げた場合に詰む方策を考えておくことですが、それよりはむしろ6五に逃がさない手を指すことです。龍の守備力を無にする4六金が、詰将棋らしくない手ですが正着なのです。6五玉と逃げたらどうしますか?

(参考図は7五飛左まで)
続第7回第11図参考図

6五玉なら以下、8五飛・7五歩合・5五飛・7四玉・7五飛左(参考図)・6三玉・7三金・5二玉・5三金・同玉・5四飛まで桂と歩が余って詰みます。また参考図で8三玉なら、7三金・9二玉・9五飛・8一玉・8二金打までとなります。
したがって4六金には同香か同桂しかありませんが、同香なら5五飛・4七玉・5八金までとなりますので、4六同桂が正しい応手です。これならもし5五飛と攻められても、4六桂の効きで5八金が打てませんので詰みません。

(途中1図は5二飛まで)
続第7回第11図途中1図

さて4六桂と取らせて、待望の遠飛車の限定打がおろされるわけです。それは5二飛です。これで途中1図となりますが、なぜ5二飛打ちでなければいけないのでしょうか?もし他の点に打ちますと、4二香が取れずに不詰となるからです。例えば5三飛と打ちますと、以下4七玉・5八金としても、同桂成で4六金が打てずに失敗します。ところが5二飛の形なら、このとき4二飛成として香の効き筋を消すことができますから、4六金が打てることになります。したがって玉方としても、この5二飛打ちに対しては同馬と取るより方法がありません。
この作品を解くコツとしては、4七玉と逃げ込んだときに詰方としては、1四角成の筋と、5八金・同桂成・4六金の筋を活かす方法を考えればよいことです。それには3四馬の効き筋をそらせるか、4二香の効きを消すのいづれかです。そしてそれを実現させればよいことになりますが、この主旨にそったのが先づ5二飛の犠牲であり、続いて5三飛という妙着となって出現します。

(途中2図は5三飛まで)
続第7回第11図途中2図

4六金・同桂・5八飛・同馬・5三飛途中2図となります。5三飛は同馬と取れないのを見越し(5三同馬なら5五金・4七玉・1四角成まで)、あとで4三飛成と玉方の馬と香の焦点に成りかえる心算の、天来の妙手なのです。取ることもできず、といって合駒をしても同飛成と取られますので、途中2図からは4七玉となりますが、以下5八金・同桂成・4三飛成(途中3図)で、エピローグに近づくことになります。

(途中3図は4三飛成まで)
続第7回第11図途中3図

焦点に捨て駒は、詰将棋を解く極意の一つですが、これはまた見事なそして豪快な一手でした。どちらの駒で取っても、一方の効き筋が消える点をよく味わってほしいものです。4三同馬なら4六金の一発ですので同香となりますが、これによって1四角成がやっと実現し収束となります。
第11図。4六金・同桂・5二飛・同馬・5三飛・4七玉・5八金・同桂成・4三飛成・同香・1四角成・5六玉・5五金まで、13手詰。



構図のスケールは大きいですが、短編では珍らしい遠駒の作品であり、まことに天才的な構想と着想に、さすが看寿と感歎のほかはありません。

(第12図)
続第7回第12図

第12図。看寿の『将棋図巧』と共に古典の双璧といわれる、三代宗看の『将棋無双』第10番図式です。
ヒントとしては、龍の守備力を2筋から移せば、2三の点から直接攻撃ができるということです。それをいかにして実現させるかがこの詰物の興味つきない点といえましょう。
一瞬3二飛が目に映りますネ。これは上部に逃げだせば簡単に詰みますが、軽く2一玉と下部の穴に落ち込まれますと、詰まなくなりますので正着ではありません。試してみましょう。3二飛に対し1三玉は1四銀まで、また2三玉は3五桂・1三玉・1四銀までです。ところが2一玉ですと、1三桂・同香・1二銀・同金・同飛成・同玉・2三銀・同龍・同角成・同玉・2四飛・3二玉で、大海に逃げられてしまいます。
こんな結果では、どうしても端の1筋より手掛りをつくるよりありませんが、1三銀打ちが正着となります。この銀に対し同香なら3二飛・2一玉・1二銀・同金・同飛成・同玉・2四桂打・2一玉・3二角成・1一玉・1二金まで。こんどは前記と異なり手駒に桂が残っていますので、2四桂打ちができ詰むのです。そこで玉方は1三同玉と取るよりありません。ここで1四角成といきたい所ですが、2二玉・3二飛・2一玉で矢張りダメです。
さあ、ここで思考の飛躍をはかってみましょう。もし1三同玉となった局面で、1五歩がなかったらどうでしょう。ヒントで述べたように、龍の効きをそらす1九飛という鬼手が実現する筈です。そこでこのジャマ歩を消すために、1四歩と突き、しゃにむに1三歩成として、消しにいくのが巧妙な手段となります。この歩が盤面から消えて、待望の1九飛という遠打ちが実現します。(途中図)

(途中図は1九飛まで)
続第7回第12図途中図

この局面で玉が2二に逃げたのでは、2九飛と龍を取られますし、また1九同龍とこの飛を取れば、2筋から龍の効きがなくなりますので、2四銀が打てて簡単に詰みます。逃げることも取ることもできませんので、1八歩合は致し方ありません。歩以外の何の合駒でも同じ結果になりますので、このような時には歩が常識となっています。
かくて1四銀から2九飛と龍を取り、玉方の軽い3一玉の逃げには2一飛打ちがありますので解決となります。なお、1八歩合のところ、何を合駒しても同じと書きましたが、例えば1八銀合なら2九飛に対して同銀と取れますが、以下2三銀成・3一玉・3二角成で、本手順より早く詰みとなりますので、この場合でも3一玉と逃げるのが正しい応手となります。したがって詰方の2九飛に対しては、同銀と取ることができないのですから、歩という最低の価値の合駒が玉方としては、正しいことになるわけです。
第12図。1三銀・同玉・1四歩・2二玉・1三歩成・同玉・1九飛・1八歩合・1四銀・2二玉・2九飛・3一玉・2一飛打・同金・同飛成・同玉・3二金・1一玉・2三桂まで、19手詰。



鬼宗看の傑作で、その構想の卓絶巧妙と手段の快絶において、看寿の第79番と共に双璧と賞賛される作品です。
1九飛の鬼手をカモフラージしている、1五歩を消去する一連の捌きは心憎いばかりの巧妙さです。

(第13図)
続第7回第13図

第13図。曲詰集『過雁組曲』の著者、岐阜県の田中至氏が『詰将棋パラダイス』(昭和40年6月号)に発表した作品です。
5筋の香と銀は、玉方の銀で連絡が断たれています。したがって、この銀を5筋より移動させることが、形から判断しても先決です。またこの玉は、5五へ逃げても6五金で、4四玉と下辺に追うことはできますが、この押さえも考えにいれておくことが必要です。
この辺の考慮から初手4七香の発見は案外容易と思います。同角成なら下辺の逃げ込みを防いで4三飛と拠点を占め、4五歩合とさせてから4七金と馬を取れば、同銀成の一手となり5五角でオシマイ。この4三飛を先着しておかないで、直ちに4七同金としますと軽く5五玉と逃げられて、摑まらなくなってしまいます。確かめて下さい。
4七香・同銀不成は当然、これで香筋が通りましたが、つぎの一手が難問です。ここで仮想図を見て下さい。

(仮想図)
続第7回第13図仮想図

この形ですと、3七飛がジャマ駒であることが、ひと目で判りますので、躊躇(ちゅうちょ)なく3六飛と捨てることでしょう。何で取っても金打ちまでの詰みです。1五馬が消えていましたので、この手が成立したのですが、馬の効きが3七の点からそれても同じ結果になるわけです。そこで4七香・同銀不成のとき、名刀一閃1六飛と放つのが、至妙な遠飛打ちの秘剣なのです。(途中図)

(途中図は1六飛まで)
続第7回第13図途中図

この局面で2六に合いをするなら、3七に効かせる銀合いよりありませんが、同飛と取られて5五銀で簡単。もし金合いなら詰まなくなるのですが、生憎全部使用していますので不可能、そのための玉方4九金の配置であったわけです。
途中図では、止むなく同馬と取る一手ですが、これで3六飛が実現して解決します。
なお、初手1六飛・同馬・4七香・同銀不成・3六飛以下の手順前後が成立するか否かと、疑問を持たれたことでしょうが、これは同馬と取られ、続く4七香のとき同角成とされますと、前記4三飛の手段が1六馬の効きでできず失敗に終わります。
第13図。4七香・同銀不成・1六飛・同馬・3六飛・同角・3七金打まで、7手詰。



1六飛打の遠打は、図巧ばりとも無双ばりともいえる光る一手で、締めくくりの3六飛と共に、けだし超短編の逸品と思います。
初春早々、古典の格調高い図式を例題に採りあげましたが、相当詳細に書いた心算ですので、よく理解して下さった事と思います。
正月休みを利用し、じっくりと盤に並べて先哲の傑作を鑑賞して下さい。
                                      ――以下次号――



追記(8月29日)
田中氏作は、3手目で5七金としても詰んでしまうようです。
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田中作

連載当時、中学2年でしたが、田中さんの作には感心した記憶があります。余詰が残念です。

EOGさん

田中至氏といいますと、私は市松詰の印象が強いのですが短編作も多く発表されていたようですね。
第13図、1六飛の所で5七金が成立してしまうのですね。残念です。
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