七種合 その傾向と可能性(詰将棋パラダイス平成3年4月号)

このブログには珍しく、詰将棋パラダイスに掲載された文章を上げてみたいと思います。
一局の詰将棋の中に「飛角金銀桂香歩」全ての合駒が登場する詰将棋を「七種合」と呼んでいます。昭和30年、覆面作家氏が「愛を求めて」と題して発表したのが最初です。現在までにどのような傾向をたどってきたのでしょうか。

1覆面作家 パラ55・10 余詰
2北原義治 近将60・11
3長谷繁蔵 パラ61・10
4長谷繁蔵 パラ62・3
5横田進一 パラ63・10
6橋本守正 パラ64・7 余詰→修正
7山田修司 近将64・11
8長谷繁蔵 近将65・4 余詰
9小西逸生 パラ66・11 余詰→修正
10森敏宏 近将66・12 のちに改作
11若島正 近将68・11 余詰→修正
12鮎川哲朗 近将69・12 不詰→修正
13柳田明 近将73・6 余詰→修正
14播磨宗斉 舞扇上巻74・11 のちに修正
15播磨宗斉 舞扇上巻74・11 のちに修正
16七條兼三 近将76・4
17七條兼三 近将76・4
18藤江和幸 パラ76・5
19墨江酔人 近将78・7
20変幻自斉 パラ79・6 余詰→修正
21木脇克弘 パラ80・5
22小林看空 パラ80・5 のちに改作
23七條兼三 パラ80・6 余詰→修正
24橋本哲 パラ81・7
25深井一伸 パラ81・12
26新ヶ江幸弘 近将82・4 余詰
27阿部冷二 近将82・7 余詰→修正→改作
28小笠原隆治 パラ83・9
29角建逸 パラ83・9
30藤本和 パラ85・3
31藤本和 近将85・8
32山村浩太郎 近将85・11
33若島正 パラ87・5
34駒場和男 近将87・8
35高田豊通 パラ88・2
36相馬慎一 パラ88・2 余詰
37墨江酔人 近将88・8
38小沢正広 近将88・9
39木脇克弘 パラ89・6
40駒場和男 近将89・8 余詰
41机書斎 パラ89・12 余詰
42森美憲 パラ90・8
※数字を丸で囲んだ(注:当ブログでは太字)作品は順列七種合

現在まで発表された数は約40局で別表の通り。条件的には煙詰に比べればはるかに容易なのに、意外に作られていないと感じた人もいるでしょう。
「七種合は狙って作るものじゃないからですよ」と指摘するのは角建逸氏。氏は昭和58年9月号の本誌に七種合を発表しています。
「もともとは合駒が3回出てくる30手ぐらいのどうしようもない作品で、ある時、手を入れよかなと思っていじったんです。そしたら歩合、金合、角合と出てきて六種合になったんで、それじゃあ七種合にしようと考えた。合駒ブロックのオイシイのがあって、あと一つ二つとなれば、みんなヤル気になるんじゃない?」
別表を見ても、古いところでは巨椋鴻之介、黒川一郎、近藤孝、田中鵬看、山中龍雄――といった長編作家の名が見当たりませんし、最近では添川公司、相馬康幸、橋本孝治の各氏も作っていません。やはり、合駒ブロックの素材を発見したときに初めて創作意欲が湧く、というのが一般的と言えます。

短縮化の傾向
では、七種合はどのような変遷で現在に至っているのか。まずは第一号の覆面作家氏作をご覧ください。

覆面作家 (パラS30・10)

「愛を求めて」

当時の詰棋界を象徴するかのようなゆったりとした手順で、最後の金合が出るまで70手を費し、さらに40手ほど経過してようやく詰みになります。
合駒は12回も飛び出し、これは偶然、七種合になったかの印象を受けます。しかし、作者は「七種合を意識して作った」と、はっきり述べています。
「当時は七種合を作れれば凄い、という時代でした。よくばったことは考えず。とにかく七種の合駒を入れる。完成したときは、それはもう嬉しかったですよ」と、振り返るのは3・4・8号局の作者長谷繁蔵氏です。
そして、35年後の最新作がこれです。

森 美憲 (パラH2・8)


作者いわく「七種合完成最短手数」。すなわち、26手目にして七種の合駒が出ています。当然、手数も短くなり39手。現在のところ最短手数タイの記録です。
詰将棋が進歩するに従い、作家の価値観も変わってきます。七種合に限って言えば、配置や使用駒、手数などにおいて短縮化の傾向にあるようです。
短縮化の代表的作品として、60年度看寿賞の藤本和氏作と62年度看寿賞の若島正氏作が挙げられます。

藤本 和 (パラS60・3)


若島 正 (パラS62・5)


前出・角氏が次のように語ってくれます。
「七種合って言うのは構想じゃないから、胸を張って『七種合です!』とは言えないところがある。だから手順が面白くないとダメだし、合駒が出ればいいっていうものじゃない。そういう意味で言うと、若島さんの七種合も凄いけど、やっぱり藤本氏のが凄いって感じますね。手順が面白い。趣向っぽいしね」
服部敦氏も同じ意見。
「若島氏や藤本氏の作品は七種合として凄いんじゃなく、一般の作品として凄いんです」
作者はどう思っているのか。若島正氏は看寿賞の自作を、今一つ好きになれない、と言います。なぜ?
「谷川竜王や上田吉一さんは傑作と言ってくれたんですが、自分ではよく分からない作品なんです。手順に情緒がなく無機的な感じでしょ。僕自身は北原義治さんの作品(近代将棋昭和35年11月号)なんかが好きですね」
謙遜が入っているものの、なるほどと納得させる意見です。条件作全般に言えることですが、手順そのものに面白さがないと評価されにくい、ということでしょう。
総合的に見て、現代感覚にマッチした藤本・若島両作あたりが「理想の七種合」と言えそうです。
今回の資料を提供してくれた護堂浩之氏は、理想の七種合作品を次のように語ります。
「ある程度、合駒選択に幅があり、スムーズに進むこと。このテーマは難しくする必要はないんです」

七種合の可能性
短縮化が進む一方で、難条件と組み合わせることで解答者にアピールする意識が、作家たちの面で芽生えたことも事実です。難解で詰められない、けれど作者には大きな拍手を送りたい、そんな感動的な作品。「順列七種中合」の墨江酔人(七條兼三)氏作、「全ての合駒に七種の選択余地がある」橋本哲氏作、「ダブル七種合」の深井一伸氏作、「順列七種合煙詰」の藤本和氏作、「詰方六種不成」を入れた駒場和男氏作、「無仕掛図式」の小沢正広氏作など――。
その中から藤本和氏作を紹介します。

藤本 和 (近将S60・8)

「虹色の扉」

「七種合煙詰」は七條兼三氏や新ヶ江幸弘氏らが挑戦しましたが、余詰に泣きます。本局も完成まで5年。果たして、どのように作ったのか。駒場和男氏は次のように分析します。
「これは正算なんだよね。順列で合駒入れたのは比較的に楽なんですよ。発表後、余詰ではないかと森さん(近代将棋編集長)から言われ調べたんだけど逃れていた。それで僕は細かいところまで検討したんだけど、よくできているよ。まず入玉形で飛角金銀を出し、次に1筋で桂香歩を出してしまった。それから煙らせる作業を始めたわけだ。実はここからが大変で、よくぞマス目に駒をはめ込めたものだと、感心する。添川公司氏は逆算の天才だけど、藤本氏の場合はさしずめ正算の天才という感じだね」
煙詰は逆算で作るもの――という常識を破り、正算に挑戦した作者。まさに努力の結晶だと言えます。
本作は七種合の極限を表現したうちの一つですが、まだまだ新しいアイデアは眠っているはずです。
深井一伸「煙と周辺巡りは相性がいいはず。七種合周辺巡り煙というのをいずれ誰かが作るんじゃないですか」
上田吉一「ワンサイクルに七種合が飛び出す持駒変換で何回も繰り返す。理論的に六種合は可能で僕自身が持っている。七種合の理論をどうやるか、ですわ」
この六種合持駒変換趣向は神戸のY氏も作ったが、発表する気にはならない、と言います。
Y氏「プロットとして完璧性に欠けるんですわ。七種合にするのは簡単だけど繰り返すことはできない。七種合が出た途端に収束に入ってしまう。具体的に言うと桂。桂が入らない」
七、八年前、当時、東大生だったO氏がトリプル七種合を作った、という噂が流れました。しかし、いっこうに発表されません。真相は?
O氏「ええ、深井さんのダブル七種合に刺激され挑戦したのは事実です。しかし途中で挫折してしまいまして。もう発表は断念しています」
O氏は現在、社会人。トリプル七種合は夢に終わってしまうのでしょうか。
あなたも究極の七種合にチャレンジしてみては!?

補足
長らく一号局と言われていた北原義治氏作には近年になって余詰が発見。
添川公司氏と橋本孝治氏は後に七種合作品を発表、両氏の作品とも看寿賞受賞。添川氏はさらに「虹と雪のバラード」を発表。
余詰に泣いたと書かれていた新ヶ江幸弘氏作の七種合煙「彩雲」は後に修正。

追記(2014年1月18日)
38 机書斎 パラ88・9 余詰
が抜けているようです。
(詰将棋パラダイス平成3年7月号・護堂浩之氏指摘)
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その後の発表作

この文章以降に発表された作品を挙げておきます。(なお、一つ一つ書籍から拾い上げて調べたので、多少の漏れがあるかもしれません。)

添川公司 近将92・3 「大航海」
近藤真一 パラ95・9
加藤  徹 NIFTY97・9
原 亜津夫 パラ98・5
橋本孝治 パラ98・11
酒井博久 パラ99・3
堀切良太 パラ99・11
新ヶ江幸弘 めいと27号00・10 「彩雲」
小林看空 >ayu おもちゃ箱02・1(パラ80・5の改良図)
糟谷祐介 パラ02・4
谷川浩司 パラ02・8
酒井博久 パラ06・9
深井一伸 パラ07・8 「夜神楽」
中井雄士 パラ10・2
添川公司 パラ10・4 「虹と雪のバラード」
堀切良太 パラ11・5
安武翔太 パラ12・2
酒井博久 パラ12・7
堀切良太 パラ13・2

今日現在の自分の集計では、七種合の完全作は56作です。
どなたか正式な最新リストを発表して下さることを期待します。

わぁ!合駒職人さんだ!
まずは、敬礼。

合駒職人さんもどんどん7種合作ってください。
いつも楽しみにしてます。

返信です

炎の合駒職人さん
初めまして。コメントありがとうございます。
現在までの七種合作品のデータ、ためになります。
存じ上げない作品の方が多いので、勉強不足だという気分になります。

かめぞうさん
貴氏の合駒作も期待しています。
ぜひ、度肝を抜く作品を!
プロフィール

Author:hirotsumeshogi
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