続・詰将棋の能率的勉強法(4)(近代将棋昭和45年10月号)①

村山隆治氏の連載「続・詰将棋の能率的勉強法」、第4回の前半部分です。
開き王手の形とタイトルの下にあります。
中将棋の詰物
東京は上野、不忍池の近くに根津というなんの変哲もない町並みがあります。そのあたりには、いかにも下町造りといった戦前の古風な家が、まだ大部残っていて、駒作りとして有名な宮松師のひなびた店も、その一角にあります。
筆者がたまたまたずねていった今年の冬の寒い日、師は大事そうに虫喰いのひどい一冊の古書を見せて呉れました。
『中将棋指南抄』(美濃版半折形一巻)という、元禄16年(一七〇三)に江戸日本橋南三丁目、吉文字屋次郎兵衛が開版し、それを文化8年(一八一一)に大阪書林(心斎橋通伝馬町・塩屋長兵衛)が求版して刊行したものです。
内容は”中将棋詰物指南”と題し、30番の図式と、その盤面図の周囲に符牒の解答が記載されています。
その他、中将棋(盤面縦横各12格・駒数合計92枚・駒は取り捨て)の駒の並べ方と、駒の動かし方が少しのっています。この詰物の作者は不明ですが、元禄9年(一六九六)に初代・伊藤宗看著『中象戯作物』50番が刊行されていますので、もしかするとこの転写かも知れません。
いずれにしても、これによって詰物の思想は、すでに中将棋の頃よりあったもので、相当に根深いものを有しているようです。現代感覚にもマッチする捨て駒の手筋などもあり興味深いと思います。なお、初代宗看は『将棋駒競』の作者です。
印刷技術の未熟な江戸時代に、このような貴重な資料を遺して呉れた祖先の偉大さに、敬服するのみです。
閑話休題、今月は開き王手の形について勉強していきましょう。

7 開き王手の形
詰将棋の用語辞典によれば、飛(龍)・角(馬)・香の効き筋を、妨げている詰方の駒が移動し、その移動によって生ずる王手のこととなっています。
本によっては”明き王手”あるいは”空き王手”と書いて、”アキ王手”と読ませていますが、駒が移動し閉じていた効き筋を開いての王手だけに、”開き王手”と書いて”アキ王手”と読ませる方が、実情にピッタリした用語と思います。

(参考図)
続第4回参考図

参考図を見て下さい。詰方の3三歩が角の効きをジャマしています。この歩が移動して3二歩成としますと、角の効きが開通して王手となります。このような王手を開き王手というのです。
開き王手は実戦でもよく現出しますが、詰将棋の世界でも、このねらいを活用した作品は数多くあります。
さて、開き王手は合駒の効く形と、合駒の効かない形とに区分されます。
① 合駒の効く形
すでに学んだ”合駒の形”と、これから勉強する”開き王手”の形との違いは、前者が主として持駒の飛・角・香を打って合駒を強要するのにくらべ、後者は常に盤上の配置駒の飛・角・香が、開き王手をすることによって合駒を強要する点です。
要約すれば、持駒によるか置駒によるかの違いであり、その後における合駒の処理方法はなんら変わりはないのです。
詰将棋における開き王手で、合駒をさせる形の作品は極めて少く、その殆どが合効かずの形である点は、実戦と違って詰将棋独特の面白さといえましょう。と申しますのも実戦では、開き王手をも相手に受け駒を打たせてその潜在能力を減少させてしまうことも勝勢に導く有効な方策であることは、ご存じのはずです。そしてこの点が、実戦では合駒を強要する方の筋に、走りやすい原因になっているのです。

(第1図)
続第4回第1図

第1図。最も初級的な自作の例題です。
形を見てすぐ判りますことは、3二銀が移動すればその反動として、2三から1四への逃げ道が開けます。したがってこの逃げを考えにいれての着手でないと失敗します。この線からいって、4三銀成とする開き王手は当然な手段。ここでその応手として2三玉と逃げる手、それに2二に合駒をする手とが考えられます。2三玉は4一角の離し角で簡単、したがって2二に合いするよりありませんが飛・金以外の合駒なら2一角という巧手で詰みます。また飛合いなら同飛成・同玉・3三角・2三玉・2二飛・1四玉・2四飛成までとなります。かくて最善は2二金合と決まります。
第1図。4三銀成・2二金合・同飛成・同玉・3三金・1二玉・2一角・同玉・3二成銀・1二玉・2二成銀まで、11手詰。



2一角捨てで4三の成銀を活用する手筋はよくある常套手段です。合駒は”合駒の形”で述べた通り、玉方にとって手数が最も長くなる駒を、検討して選ぶことに変わりはありません。

(第2図)
続第4回第2図

第2図。二上八段の作品です。一瞬目に映る手は、開き王手の3一飛成ですが、単純に攻めては守備駒が働いてきて失敗に終わります。まづ玉の形を決定する捨て駒手段にでるのがコツです。
単純な3一飛成の開き王手は以下、1二玉・3二龍・2二香合・2三銀・1一玉・2二龍・同銀・1二香・同飛成・同銀成・同玉で詰まなくなってしまいます。また筋らしき1五桂は、同飛成と取って呉れれば3四銀・1四玉・2二飛成の開き王手で詰みますが、1五桂に対し軽く1四玉のかわしでダメです。
「逃路先着の原則」は、ここでも活用されます。初手の1四銀打がそれです。もし同銀と取れば3五桂・1三玉・3一馬まで、駒余りの詰みとなります。1四同飛成も3五桂の一発ですので、同玉と取るよりありません。これで途中図です。

(途中図は1四同玉まで)
続第4回第2図途中図

この局面で、上部脱出を妨げ乍らの開き王手を考えれば、飛の横効きを利しての3五飛成の発見は容易です。かくて何を合駒しても桂吊しの詰みとなります。
第2図。1四銀・同玉・3五飛成・2三合・2六桂まで、5手詰。



1四銀と先打し、桂打ちを残しておくのが一風変わった順です。なお、何を合駒しても同じ場合には、単に合と書き、駒の種類を明示する必要はありません。

(第3図)
続第4回第3図

第3図。北村昌男七段の詰将棋です。
開き王手で、簡単にソレマデと思い勝ちですが、玉方に好手があって内容を豊富にしています。
初段に二枚落のご隠居さんでも、ここは2三角成と開き王手をするでしょう。この一手で手段に窮したかに見えますが、玉方にも1三桂ハネという移動合いの妙防があって、玉は虎口を脱します。途中図をよく見て下さい。ナント巧い桂飛びでしょう。

(途中図は1三桂トビまで)
続第4回第3図途中図

前講『合駒の形』で説明した「移動合駒」の出現です。この桂飛びで2一の点に逃げ口があきましたが、詰方はかまわずに1三同飛成から1二龍と追い、3一玉の逃げに3三香が巧妙な手段です。この手は4四角の移動を計って、後の5三桂打ちを可能にする遠謀な手なのです。
第3図。2三角成・1三桂トビ・同飛成・2一玉・1二龍・3一玉・3三香・同角・4一馬・同玉・5三桂・5一玉・6三桂まで、13手詰。



玉方の4四角の守備力を削減する3三香捨ては、合駒効かずを活用した軽手です。

(第4図)
続第4回第4図

第4図。『詰将棋パラダイス』昭和44年3月号に、犬山市の安達栄司氏が発表した作品です。
香が移動して角筋を通す開き王手のねらい位は、すぐに判りますが、形から推理しても6七香が、どこまで動くのが正着なのか、チョット意味ありげに思われます。
実戦的に5三香成とやってみましょう。このような判じ絵的作品を 解くコツは、ごく平凡な手を進めてみることです。そうしますと手の進行につれて、試行錯誤がはっきりとしてくるものです。
5三香成に対し、2四合いは2五桂の一発です。したがって2四香と上る移動合いよりありませんが、それとて2五桂・2三玉・3五桂まで簡単です。どうも変ですが、玉方に受けの妙手があるのを忘れていました。それは5三香成のとき、直ちに2四香と上らず、ここで一旦3五香と中合いをするのがそれです。こうして3五の点を埋めておけば、あとになって3五桂と打てなくなり、平凡な手では詰まなくなります。この辺が詰将棋の面白さといえましょう。

(途中1図は2三玉まで)
続第4回第4図途中1図

(途中2図は3三玉まで)
続第4回第4図途中2図

3五同角と取り以下、2四香上・2五桂・2三玉で途中1図ですが、3五桂と打つことはできず、1五桂とこちらから攻めを続行するよりありません。同歩・1三桂成・同玉に1四香と打ち、2三玉・1二馬・3三玉で途中2図となりますが、どうやら行き詰まりのようですネ。くさい筋として3四馬がありますが以下、2二玉・1二香成・3一玉・4二成香・同玉・5二金・3一玉で、5三角成のキメ手が玉方6一桂の配置で不可能となり、失敗に終わります。
ここである仮定を水平思考してみます。もし5筋に香の効きが、スーッと残っていたらどうでしょう。途中2図で4四角という軽手が成立し、同玉・3四馬までで見事に詰上ることが判りますネ。5筋に香の効きを残す初手の選定は?もうおわかりでしょう。香の一目移動である5六香が正着なのです。
このように何手か先に効果が現われる手筋のことを、伏線手といってます。そしてその効果が、あとであればある程良いとされています。
5六香のふりだしに戻っても、あとの変化はすでに説明した通りになります。なお、3五香の中合いのところ、もし桂合いができれば、本局は不詰局となりますが、すでに玉方には桂の手持ち駒がありませんので、それを回避しています。
第4図。5六香・3五香合・同角・2四香上・2五桂・2三玉・1五桂・同歩・1三桂成・同玉・1四香・2三玉・1二馬・3三玉・4四角・同玉・3四馬まで、17手詰。



香の一段上りに香の中合い、更に香の移動合いと、まるで香の曲芸を見ているようで、ユーモラスを含んだユニークな秀作と思います。
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