詰将棋の能率的勉強法(10)(近代将棋昭和44年11月号)①

村山隆治氏の連載「詰将棋の能率的勉強法」、第10回の前半部分です。
価値変換の形(その1)とタイトルの下にあります。
価値とは
物の価値とは、効用すなわち働きのことです。したがって状態と方法によっては、価値そのものが異なった形として表現されるわけです。
例えば、目覚時計について考えて見ましょう。独身者はこれは大いなる価値を認めるのに反して、奥さんに毎朝起こされる世の亭主族は、自分が高級腕時計をいつも身につけている以上、全く目覚時計の価値を認めようとはしません。このように価値の判定は、それを使用する状態と方法とによって変わってくるのです。
これから学ぶ”価値の変換”は、守備駒とか逃げとかの障害が、玉方の味方として置かれていたのに対して、質や量および形を制限して詰方に提供された問題を、与えられた条件の価値を交換させて、制限された不足分を補足する手段をいったものなのです。
すでに勉強した玉方の守備駒と逃げ、それにこの詰方の価値交換とを含めて、詰将棋図解の3大手法と称します。詰将棋のどんな手筋でも、この3大手法に関係を持たないものはないといっても差支えありません。
価値の交換は、
 A 質の変換
 B 量の変換
 C 形の変換
に分類されます。それぞれの制限された形態に対して、どのように処置すればよいかを、勉強しましょう。
A 質の変換形

(第1図)
第10回第1図

第1図。昔から伝わる古作物の、傑作趣向詰です。
香車が5本あれば、どなたにも平易な並べ詰みですが、4本しかないところに面白さがあります。頭の丸い角を香に変換できれば成功します。つまりこの詰将棋は”質の変換”を求めているのです。
ここで『イソップ物語』を一席、
――カラスが壺の底にある水を飲みたいと思った。だがカラスのクチバシでは、とても壺の底まではとどかない。そこで利口なカラスは小石をくわえてきては壺の中におとし、それを何度となく繰り返して、やがて壺の口に溢れる水を飲むことができた。――
物の価値の在り方が、よくおわかりになったことと思います。問題に戻ります。持駒には香4本と、そして角がある謎を含んで加えられています。つまりこれが持駒における質の不足という状態であり、問題の性質なのです。
さて、謎の角ですが、常識的な価値の観念では勿論角は香にまさります。しかし乍ら歩が9枚並んだこの特殊な形では、香の方が利用価値が大きいのです。ここでは駒自体の軽重よりも、適・不適が強く要求されます。ですから先づ価値の一般観念を捨て、角という駒から未知数をとりだし、不足分へ適応させることが肝要です。
第1図。5二香、4一玉、3二角、3一玉、2一角成、同玉、2二香、3一玉、3二香、4一玉、4二香まで、11手詰。
まづ5二香で玉の行動を半分に制限し、3二角打と2一角成とが、結果的には足りない香に角を転用させたことになります。
考え方としては、香3本残して玉が3一もしくは2一の点にプロットできればよい、そのために角を打つタイミングが絶好点でなければダメなのです。
角の斜線、香の直線。およそ対照的な性能の違いではありますが、使い方では丸にも角にもなるものです。そこに価値変換の面白さがあるといえましょう。



(第2図)
第10回第2図

第2図。初手2三銀と打込んで迫るのが、筋のように見えます。たしかに2三銀は、同玉なら3二角成、1三玉、2三金まで、また同金なら2一角成、1三玉、2五桂まで甚だうまいのですが、軽く1三玉とかわされますと逃げられてしまいます。この1三玉を拒否するには2三金打よりありません。そこで持駒の銀を金にかえる”錬金術”が必要です。
1三歩、同玉、2四銀打、1二玉、2三銀成、同金、2一角成、1三玉、2五桂まで、9手詰。
1三歩から2四銀打が、次の2三銀成を含んで銀を金にする妙手でした。



与えられた価値の条件を、質の交換という形態に表現した図式は、古来より伝習されていたもので、次に掲げる作物は、その代表的なものです。

(第3図)
第10回第3図

第3図。三代宗看図式集『無双百番』の第15番です。別名『詰むや詰まざるや、百番』ともいわれて、弟看寿の『図巧百番』と共に古図式の双璧と喧伝されています。享保19年(一七三四年)の刊です。
長篇物ですので、解き方を学ぶよりその奇想天外な発想と、抜群の手法とを盤に並べて鑑賞して下さい。
9三歩、8三玉、8九香、①8四飛合、同馬、8二玉、9二歩成、②同香(途中図)

(途中図は9二同香まで)
第10回第3図途中図

9三馬、同玉、9五飛、9四歩合、同飛、同玉、8五金、9三玉、8四金、8二玉、7三金、③同玉、8三飛、6四玉、6五歩、5四玉、4四角成、同香、5五歩、同玉、5三飛成、5四金合、4四龍、同金、5六香まで、33手詰。
途中図に戻りましょう。ここで飛を手駒にしていますので、直ちに7三馬と短兵急に迫りたくなりますが、これこそ宗看の計画した巧妙なワナに落ち込む結果となるのです。
それは7三馬、同玉、8三飛、6四玉、6五飛、5四玉、4四角成、同香で参考図となりますが、見事に”歩詰め局”に誘致され、落とし穴にはまってしまいました。

(参考図は4四同香まで)
第10回第3図参考図

参考図では5五歩と打てませんし、といって5五飛と攻めを続行しても以下、同玉、5三飛成、5四合で矢張り歩詰めとなってしまいます。
さて参考図で6五飛が6五歩であったらどういうことになるでしょう。待望の5五歩が打てることになります。そこでこのねらいを実現させるのが、途中図で9三馬と力をためてすてる絶妙手となって表現されます。以下9五飛として、この飛を歩と交換するのが深慮遠謀なる構想の一手です。
歩なら詰みますが、飛なら詰まないとは、まさにハプニングな詰将棋でしょう。
変化
① 8四飛以外の合駒なら、いづれも早く詰みます。
8四桂合、同馬、8二玉、7三馬、同玉、8三飛、6四玉、7六桂、5四玉、4四角成、同香、5五歩、同玉、5三飛成、5四金合、4四龍、同金、5六香まで。
② 9二同玉なら9四飛、8二玉、9三馬まで。また7一玉なら8一と、同玉、7三馬以下簡単。
③ 7一玉なら8一香成、同玉、8二歩、7一玉、8一飛まで。



(第4図)
第10回第4図

第4図。『週刊文春』(44・5・19号)二上八段の作品です。
1一香が素通しに効いている間は、2三角成の手段を用いてもダメです。すなわち2三角成、同龍、同馬、1五玉で1四飛が打てませんし、かといって1七飛としても軽く1六飛と寄られてアナが開き、2四銀、2六玉と逃げられてしまいます。
持駒が金なら1三金が手筋ですが、銀で質の不足をカバーする方法を考えるよりありません。そこで平凡に2三銀打から2二銀不成までは必定で途中図です。

(途中図は2二銀不成まで)
第10回第4図途中図

途中図で1二玉なら、3四馬、2二玉、2三馬、3一玉、4一飛まで、早く詰みますので1四玉と逃げるのが正解です。ここで銀が金に転換する1三銀成が実現します。金の持駒と同じになったわけです。1三同玉では2三角成の一発ですから同桂はやむをえませんが、これで香筋が消えたのであとは平易な詰みとなります。
第4図。2三銀、1三玉、2二銀不成、1四玉、1三銀成、同桂、2三角成、同龍、同馬、1五玉、1四飛まで11手詰。
2六飛の構図は、先にも書いた通り1七飛と打たせ、1六合、2四銀までの誤解答に読者を落とし入れんとする策略です。それでなければ2六とでもよいわけですが、こんな所にも作者は心憎い配慮をしているわけです。
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