塚田賞作品の魅力(29)(近代将棋昭和54年11月号)②

森田銀杏氏の連載「塚田賞作品の魅力」、第29(最終)回の続きです。
いよいよ締めとなる今回は第50期の受賞作を掲載します。
第50期塚田賞受賞作家
短篇賞 森長宏明
中篇賞 堀内和雄
長篇賞 田辺国夫
    山崎 隆
昭和52年7~12月号


この年もおし詰まった暮の30日に、忽然と塚田九段が逝かれました。まだ60才をすこし越えたばかり。現役で活躍しておられたのでこの訃報は信じられない思いでした。
戦後の将棋界で、升田九段と並び一時代を画した偉大な棋士――というよりも、私たち詰将棋愛好者にとっては、”近代詰将棋の父”と仰いできた”名匠”を亡くしたことに、深い哀しみを覚えました。
塚田銀波と号した戦前の野心的な作品から戦後には、手順よりも形に重きを置く、いわゆる”塚田流”と称えられる作風を世に広めて、詰将棋の大衆化に寄与されました。現代のベテラン作家の中にも、塚田流に魅かれて詰将棋の世界に足をふみ入れた人達が、数多くいます。かくいう筆者もその一人で、好形好手順の近代的な塚田詰将棋との出会いが、詰将棋の虜となるキッカケでした。塚田流の奥義は、「詰将棋は、芯になるものが一つあればよい。難解さよりも、この芯になるものをいかにひき立たせるように構成するか、が作図の要諦である」ということでしょうか。四半世紀に及んだ”塚田賞”の選考を見ても、このような詰将棋観が伺えます。そしてこの期が、塚田九段ご自身の手で受賞作を選ばれた最後となったのです。


短篇賞 森長宏明作


第50期森長氏作

森長宏明作(52年12月号)
2三角 1三玉 2五桂 2四玉 1四角成 同玉 1三桂成 2四玉 1四成桂 同玉
1五歩 2四玉 2五龍 1三玉 1四歩まで15手詰
塚田九段「今期は12月号に好作品が集中した感じで、中でも若島正作(13手詰)と本作が秀れている。若島作は入玉図の特長を遺憾なく発揮した好小品。本作は1五歩打ちを可能にするまでの手順内容が見事で、文句なしに決定」
初手1五歩は二歩禁で打てないし、2五龍は1四玉で打歩詰の状態になり、これを解消する手段がありません。
それでは……と、2三角と打ち、1三玉に1四角成では2二玉と下がられて、僅かに届きません。1三玉に2五桂と打つと2二玉はなく(2二玉なら3三龍、同銀、1三桂成の軽手で詰む)、2四玉の一手。そこで1四角成から1三桂成と捌き、再度の2四玉に1四成桂と押し売り。結局10手を費してようやく1五歩打ちが可能になった訳で、これによって、2五龍、1三玉のとき、1四歩が突歩詰になって終焉します。
このように、本作は”二歩禁解消と先打突歩詰”がテーマですが、テーマそのものは見えすいていながら、それを実現するのに角桂を費し、しかも玉は狭いところをのらりくらりと体をかわす、その手順の方に面白さが感じられます。
作者はこのとき短篇で初入選ですが、実は数百手の長篇もつくる、すばらしい構想力の持主。その目で見ると、この作品も短篇作家のセンスではない、異質なムードがかもし出されています。
作者「受賞の知らせを受けてビックリ。本作、一風変わったところがあって、気に入っていましたが、まさか賞に値するとは思ってもみなかったからです。本当に幸運だったとしかいいようがありません。これを励みに、これからも何かねらいを秘めた個性的な作品を作っていきたいと思っています」


中篇賞 堀内和雄作


第50期堀内氏作

堀内和雄作(52年11月号)
5九金 7九玉 6八銀 同成桂 6九金 8八玉 7九金 同玉 6八馬 8八玉
7七馬 同玉 6九桂 6七玉 5九桂 5六玉 5八飛まで17手詰
塚田九段「岡田敏作(8月号、25手詰)と本作、どちらにするか少々迷ったが、本作の初手金打ちから始まる手と、その金の動きがすばらしい。岡田作も玉方の奇抜な応接があって楽しめる作品だ。わずかの差で堀内作というところか」
初手に二つの紛れがあります。最初に浮ぶ筋は、6八金、7九玉、8八銀、同玉、7七馬、7九玉、2九飛……の筋。これは6八金に対し5九玉と逃げて5八金、4九玉……で捉えられません。もう一つは2九飛と馬を取る筋。これは、4九銀合、7九金、同玉、4九飛、6九銀合……で際どく逃れています。
初手5九金から6八銀の本手順も、すぐ目に映る筋の一つです。しかし続く6九金から7九金の押し売りが本局の主眼手で、ちょっと気付き難い手。これは6八馬と成桂を取ってから7七馬と捨て、6九桂、6七玉のあと5九桂と打つための”邪魔駒消去”がその意味ですが、効果が現われるのが後の方なので発見し難くなっています。
初手に打った金が、後の桂打ちの場所を塞いでしまうので捨てておかねばならない――というのは邪魔駒手筋の中でも珍らしいパターンです。従って、本作の場合は邪魔駒消去という目的が判って6九金から7九金を指すのではなく、おそらく6八銀、同成桂のあと6九金と寄せても取られない、味のある手として指してみた結果として、その意味にあとで気が付く――という解答者が多かったはずです。5八飛までの風変りな詰上りもその効果を高めています。
作者は第18期にも中篇賞をとった大ベテラン。久々の登場で二度目の受賞は、やはり実力でしょうか。
作者「一年半前、ヒョンなことで創作心に火をつけられ、13年ぶりに投稿した最初の作が受賞とはツイています。40年代は将棋にはほとんど無縁でした。そのため類似作が怖いので、入玉図・悪形図・無骨な手順の図(要は反塚田流の図)を作るよう心掛けました。が、若い頃に身についた好みからの脱却は難しく、出来上った作は、よく見ると半塚田流となっています。本作、初手の紛れが多く、よほど持駒の金を4九に置こうかと思いました。しかしそれでは作品としての価値は半減してしまいます。初形、成桂の存在、駒の効率の悪さなど、本作は塚田九段の好みに全て反しているように思います。九段の好みが変ったのでしょうか」


長篇賞 田辺国夫作


第50期田辺氏作

田辺国夫作(52年12月号)
2一歩成 同玉 1二角 2二玉 5五角 3一玉 3三龍 3二飛合 同龍 同玉
3四飛 4三玉 3三飛成 5四玉 4四龍 ㋑6三玉 Ⓐ6四龍 5二玉
3四角成 4三香合 5四龍 6二玉 3五馬 4四香打 同角 同香 同馬 7二玉
7五香 7三歩合 同香成 同玉 Ⓑ7六香 ㋺7五歩合 同香 8三玉 7四龍 9二玉
9三歩 同玉 7一馬 8二歩合 9四歩 9二玉 8二馬 同玉 8三歩 9一玉
7一龍 8一合 8二歩成まで51手詰
塚田九段「今期は不完全作が多く、最後に本作と山崎隆作が残ったわけだが、両作ともそれぞれ違った持味があり、甲乙つけ難い。同時入賞もやむを得まい」
短編かと思わせるような端正な初形。作者名からもそう見えますが、5手目4四角と打って、3一玉、3三龍、3二飛合、同龍、同玉、3三飛、4二玉、5三飛成、3一玉……で千日手に陥って戸惑います。
5手目、5五角の限定打が本作を解くカギで、3二飛と交換して3四飛と打てば、4三玉、3三飛成、5四玉、4四龍、6三玉(6五玉なら、6四龍、7六玉、6七角成以下)で途中㋑図となります。

途中㋑図(16手目6三玉まで)
第50期田辺氏作1

ここで、4五角成が最もありそうな筋ですが、5二玉、3四馬、6二玉、6四龍のとき6三飛合の妙防で捉えられません。途中㋑図からは、Ⓐ6四龍、5二玉と追って3四角成で4三香合とさせます。続いて5四龍と寄り6二玉のとき3五馬と引いてもう一枚、4四香打とさせてこれらを奪うのが、切れ模様の中で見出せる唯一の筋です。

途中Ⓑ図(33手目7六香まで)
第50期田辺氏作2

さて途中Ⓑ図まで来て7六香に㋺7五歩合とするのが問題の手。すぐに8三玉とすると以下、7四龍、9二玉、9三歩、同玉、6六馬、7五歩合、同馬、9二玉、9三歩、8二玉、8四龍、8三銀合、6四馬、7三歩合、同香成、7一玉、5三馬、8一玉、8三龍、9一玉、8二龍まで55手銀歩余りが最長手順となります。
7五歩合の方は、同香、8三玉、7四龍以下、作意順(51手)でアッサリと詰み上りますが、さきの55手(2駒余り)の変化がある限り、7五歩中合以下51手の順を正解だといい張るのは無理のようです。
作者としては簡素な図式で、全く駒のないところで詰ませる意外性を、5五角の限定を軸として構成したつもりでしょう。本作の素材は2一桂の形で、筆者も20年くらい前から何度も見せてもらいましたが、どうしても収束がまとまらないで呻吟している様子でした。それがこのような形で発表されたばかりか、長篇賞まで獲得するとは!
筆者も、杓子定規なルール解釈をするつもりはありませんが、評価の観点から見ても、この5五角の限定打ちが、4手長い変化を許容させるだけの価値のあるものかどうか疑問です。折角の受賞作品にケチをつけるべきではないでしょうが、この場合だけは致し方ありません。選者もおそらく体調すぐれない中での選考で、この大キズを見落されたのではないかと想像します。
作者「見るからに遠駒の限定打でございというのは詰らない。一見そうとは見えぬような中間限定遠駒で、しかも成駒づくりを目的としない手。これをテーマに構想を練ったのが約20年前。当時発表していれば、まさに新手であったろうが、収束が巧くまとまらず、そのままお蔵入りしていたのが狂い咲きリバイバルで日の目を見た訳である。解説でもご指摘を受けたが、現在の考え方では好ましからざる問題点もあるので受賞は予想していなかった。はからずも塚田九段が選ばれた最後の塚田賞を受賞することができたのは皆さんの特例としてのご容認、ご支援があったものと感謝しております」


長篇賞 山崎 隆作「蟹取り」


第50期山崎氏作

山崎 隆作(52年12月号)
5三金 同玉 1三飛成 4二玉 5一角成 同玉 6二桂成 同玉 7三銀成 5一玉
5二銀成 同玉 6三成銀 4二玉(以下20手を”蟹取り手順”という)
「5三成銀 3二玉 4三成銀 4一玉 4二歩 5一玉 5二歩 6一玉 6二歩 7二玉
8三歩成 6二玉 5三成銀 6一玉 6二成銀 同玉 7三と 5二玉 6三と 4二玉」
「5三と……2回目蟹取り手順(但しⒶは8三香成)……4二玉」
「5三成香……3回目蟹取り手順……4二玉」
「5三成香……4回目蟹取り手順……4二玉」
5三成香 5一玉 5二歩 6一玉 6二歩 7二玉 Ⓑ6三成香 8二玉 8一金 同玉
8三香 9一玉 8二香成 同玉 7三成香 9一玉 8二成香 同玉 8三龍 9一玉
9三龍 8一玉 9二龍 同玉 6五角 8一玉 8二金 同玉 8三金 8一玉
8二歩 9一玉 9二金まで127手詰
本誌では2回目の入選ですが、作者は詰将棋パラダイス誌上で活躍中のホープ。321手詰の新型馬鋸作品で、昭和51年度の”看寿賞(長篇)”を獲得している実力者です。
本局、序盤は軽快に駒を捌き捨て、7三銀成から成銀が三段目を横這いし、4二歩打から玉を7筋まで追い戻して8三歩成(途中Ⓐ図)としたところで、趣向が判明します。

途中Ⓐ図(25手目8三歩成まで)
第50期山崎氏作1

この1サイクル20手もかかる”蟹追い趣向”をさらに3回繰返すと、8筋の香がすべて消えて、9八角が世に出ます。そこで5回目の”蟹追い”では、5三成香のとき3二玉とは行けず、5一玉と早く戻ります。今度は7二玉のとき6三成香(途中Ⓑ図)

途中Ⓑ図(101手目6三成香まで)
第50期山崎氏作2

と押せるので、以下、左隅に追い込んで6五角と質金を取ればようやく”蟹”を隅っこで押さえつけることができました。
作者は、色々な趣向手順に挑戦していますが、作風は黒川一郎氏の流れを汲んだ新しい”浪漫派”といえましょう。趣向そのものを楽しむ構成方法をとり、あまり難解には走りません。それでいて趣向を構成する駒組みには無駄がなく、解後感は抜群です。趣向手順そのものよりも、単調な繰返しに終らず、”なるほど!”と思わせる機智が必らず含まれています。
本作は、殆ど全駒使用の大作ながら、玉方の応手はすべて”玉(蟹)”だけ。つまり、”蟹取り”のテーマをより印象深くするための巧みな演出といえます。傑作が期待できる大作家の一人です。
作者「本局”蟹取り”は、手数は127手とちょっと長いのですが、趣向プロット自体は、8筋に並んだ歩と香を、玉を左右に往復運動させながら捌いていくという、ごく単純なものです。しかし受賞の原因を考えてみると案外その”単純さ”が買われたのではないかと思います。なお受賞の通知を受けとった翌々日、塚田九段が亡くなられたことを新聞で知りました。謹しんで御冥福を祈ります」

*   *   *   *

さて、昭和28年に制定された本誌の”塚田賞”は、この年(昭和52年)で四半世紀(25年)を経ました。この間、塚田九段ご自身による選考がちょうど50回行われたことになります。
そして”塚田賞”は、詰将棋作家の憧れの的となり、これを目指して幾多の名作、傑作が生れ、また有望な作家が育ってきました。塚田九段亡きあとも、この栄誉ある賞は第51期から新らしい選考方法のもとに存続されることになりましたが、この連載は一まずここで打切ることにいたします。この連載が”旧塚田賞”の最期の期となった昭和52年の下期から始まったのも、何かの因縁でしょうか。
それはともかく、こうして塚田賞作品を一覧してみると、戦後の昭和30~40年代の間に創り出された詰将棋が、享保時代の看寿、宗看の域に達し、中にはそれを凌駕するものも生れてきたことがわかります。
このように、詰将棋の世界に昭和黄金時代を築いてきた人々――それこそ塚田賞受賞作家たちではないでしょうか。この時代を総括する意味で、受賞回数による作家番付をつくってみました(次頁)(実際には44期というのは抜けましたが、この番付では45~50期を44~49期と修正し、最後の回を50期としました。なお、佳作賞、新人賞などの近代将棋社賞も、塚田賞に準ずるものとして回数に入れました)。
入選回数200回以上という唯一人の記録保持者北原義治氏が、この番付でも入賞12回という最多記録で東の正横綱、対する西の横綱は、重量級の作品ばかりで5期連続受賞の記録を誇る山田修司氏です。これに続く大関は息長く新鮮な作品を出し続ける近藤孝氏と柏川悦夫氏。時折り爆発的な活動を見せる田中輝和氏と巨椋鴻之介氏が両関脇に頑張っています。東の小結陣の七條兼三氏とOT松田氏は、まだまだ今後の活躍が期待され、西の小結陣の小峯秀夫・北川邦男の両氏も堅実にその地歩を守ることでしょう。このように、番付にして改めて一覧してみると、入選回数のランクとはちがった質的な作家の実力が伺えます。しかし、優れたセンスと実力を備えた若い世代の作家たちが勃々と輩出してくる昨今の詰棋界の現状では、10年後、20年後にこの番付表の顔ぶれがどのように変っていることか、楽しみなことです。             (完)

塚田賞



森長氏作は、「詰物語」第1番に収録されています。

「蟹取り」の解説中、原文において途中Ⓑ図は省略されています。


次回の更新は「塚田賞作品の魅力のアップを終えて」を予定しています。
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塚田流

塚田さんの詰将棋界の足跡は大変大きいものです。
僕も影響されています。
但しアンチ塚田流としてです。
自分の創作方に限った話ですが、まず形を重視する作り方を嫌います。
妙手は連続させてこそと思っています。
味付けは濃くしたい。
そして極めつけで11香、21桂の配置を極力避けます(片方だけなら良い)。
何から何まで性格が正反対。

これだけ逆だと塚田流には塚田流の素晴らしさを感じます。

看和さん

従うにせよ従わないにせよ、塚田流は一つのスタイルとして影響を与えているということですね。
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