塚田賞作品の魅力(29)(近代将棋昭和54年11月号)①

森田銀杏氏の連載「塚田賞作品の魅力」、第29回も2つに分けて掲載します。
いよいよ最終回となりました。
今回は第49期の受賞作を掲載します。
七條氏、短、長篇両作受賞

第49期塚田賞受賞作家
短篇賞 墨江酔人
中篇賞 瓶子吉伸
長篇賞 七條兼三
昭和52年1~6月号


前期の予言(?)通り、今期も七條兼三氏が長篇賞を獲得。三期連続受賞は、山田修司氏の五期連続受賞に次ぐ快挙といえます。しかも、短篇分野においても、ペンネームでのダブル受賞で、向うところ敵なしといった感がありました。
しかし、隔月に”力だめし”で長篇を出題するというのは大変なことで、さすがに息切れされたか、余詰などの不完全作が出るようになったのは残念です。


短篇賞 墨江酔人作


第49期墨江氏作

墨江酔人作(52年3月号)
1六桂 3四玉 3五飛 同と 2六桂 同と 3五飛 同玉 4五馬まで9手詰
塚田九段「今回は実りの少ない期であったが、3月号に発表された、墨江酔人・藤井国夫・野口益雄の諸作品が優れている。本作は飛車と桂のすてるタイミングが面白く、手数のわりには難かしい。これに決定」
初手1四飛から3六馬の筋がダメと判れば俗に1六桂しかない。これで1三玉なら、狙いの1四飛、同玉、1二飛、1三合とさせて3六馬があります。1六桂に3四玉と決ったところで、3五飛から2六桂でと金を翻弄し再度の3五飛捨てで詰み上がります。
詰めてみれば、とりわけ難しい手もないのですが、金気がなくて、桂の利きがちらつく感じがして、ちょっと捉まえにくい味があります。しかし、やはり長篇作家だけに荒けずりのところがみられ、例えば初手3七桂打ちから始まる11手詰で完成させておれば、短篇として完璧の構成といえたかも知れません。
ともあれ、一風変ったところが買われての受賞は、作者としても望外の喜びでしょう。
作者「この作品が入賞とは、ちょっと意外でした。私の気に入った短篇の一つではあるけれど、他になかったんでしょうか。とにかくありがとうございました」


中篇賞 瓶子吉伸作


第49期瓶子氏作

瓶子吉伸作(52年3月号)
5四金 3二玉 4四桂 同銀 4三金 同歩 4一角 3三玉 3二金 2三玉
2一金 3三玉 3二角成 同玉 3一飛成 2三玉 2二龍 1四玉 2四龍まで19手詰
塚田九段「ここは激戦区で、かなり迷わされたが、わずかの差で本作に決めた。本作は初手5四金と始まる手に解きがたい味があり2一金のネライが生かされた手順に仕上っている。ただ私の好みから言えば、初手は省いてもよいのではないか。次点は若島正作(3月号、25手詰)。作品の完成度から観ればこちらが上。つきがなかったというよりない」
当然のような初手ですが、5四金打ちは、3三玉の軽い変化もあり、4四桂、同銀としておいて、再び4三金とスリ込む味をよくしているので、巧い構成です。しかも、初形から6五角打ち(5四歩の変則合で逃れる)や4四金打ちといった紛れも生じているので、なおさらです。
4一角と打って3三玉となると切れ模様のように見えますが、3二金打ちから2一金とは巧い手があったもの。”金のソッポ行き”が、こんな形のときに出現するのは、まさに意表外です。短篇のような味がありますがこの手を発見したときの「ハッ!」とするような軽い驚きが、本作の生命といえます。3二角成捨てからあと詰上りまでは、その余韻を愉しめばよいのでしょう。
作者は10年以上の詰棋歴をもつベテランで筋のよい作品が多いのですが、決定打がまだ出ていませんでした。この受賞をチャンスに今後も活躍が期待される作家です。
作者「本作は構図・手順とも簡潔で好きな作品です。ネライの2一金のあき王手を軸として、4三金という捨駒の魅力も加わった構成の良さが評価されたのだと思います。投稿後に、”塚田代表作”に2一金の筋があるとわかり、新鮮味ゼロの自己採点をしていました。したがって今回は思いがけない受賞となり本当に喜んでおります」


長篇賞 七條兼三作(修正図)


第49期七條氏作

七條兼三作(52年6月号)
2九香 ㋑2八歩合 同香 ㋺2七歩合 同香 2六歩合 同香 2五歩合
同香 ㋩2四歩合 同香 ㋥2三歩合 同香 2二歩合 同香成 同銀 同飛成 同玉
2四飛 2三銀合 Ⓐ6六角 ㋭同銀 3二金 同香 同銀成 同玉 4三金 同玉
3五桂 5三玉 4三金 6二玉 6三歩 同玉 6五香 7二玉 7三歩 8二玉
8三歩 同玉 8四歩 9三玉 Ⓑ9四歩 同玉 8五金 9三玉 9四歩 9二玉
8三歩成 9一玉 9二と 同玉 9三歩成 同玉 9四飛 8二玉 8三歩 同玉
8四金 8二玉 9三飛成 8一玉 7二歩成 同玉 7三金 8一玉 8二龍まで67手詰
塚田九段「この作品は不完全作の修正図であるが、出来ばえがすばらしい。”歩の七連合い”という至難の構想を、わずかの配置で完成させた作者の努力に敬意を表した塚田賞である。次点は田島暁雄の一連の作品はすぐれている。これも入賞級である」
田島氏の一連の作品とは、
①1月号、139手詰(香打ち香合を9・5・2筋で繰返す、小駒図式の超大作)
②3月号、63手詰(香先打のトリックと香遠打の伏線を組合せた絶妙の構想作品)
③6月号、45手詰(角遠打のあと、2回の飛合で竜追いを繰返す、軽い趣向的作品)
の三局。この期は油が乗り切っていたと見えて、いずれもすばらしい傑作です。とくに、②の構想作品は、正解者わずか2名という本格的難解作で、受賞して当然の内容を備えていただけに惜しまれます。
ともあれ、この期は再出題も不完全でしたが、その修正図がすばらしい――ということで、”修正図をもって塚田賞とする”という本誌始まって以来の異例の措置が、七條作にとられました。
その七條氏作とは、2九香に対する「七歩連合い」の趣向作品です。この至難の条件を判りやすい原理で、しかも簡潔に仕上げた実力はまさに神技に近いといえるかも知れません。もし香頭に直接歩合いをしないと、どうなるでしょうか。
㋑2手目2七歩合なら、3二金、1二玉、3三金引、1三玉、2三金打、1四玉、2四金打、1五玉、2五金打、1六玉としておいて5六飛成以下の詰み。
㋺4手目2六歩合なら、同様に2四金打までして、1五玉に5五飛成とし、1六玉のとき2七金と打って詰み。
つまり、香の頭に直接でなく、一間でも歩を離して中合すると、3二金から3三金引きとしたあと、必要数だけ2筋に金を打って玉を1筋に追い上げ、5筋に飛車を引き成って、香頭に金を打って詰む―という訳です。5二飛の配置と4金の持駒が、このような七連歩合いを同一原理で鮮やかに成立させた仕掛けなのです。
ところが2五香まで来たときだけは、この原理は通用しません。つまり
㋩10手目2三歩合のときは、1二金と変化し同龍、同飛成、同玉、1四飛、1三金合、1一金、2二玉、6六角、同銀、2一金打、3三玉、4五桂、4二玉、4四飛、4三歩合、5三金以下、まだまだ続きますが、何とか詰みます。
㋥12手目2二歩合に対しても、1二金とし、同玉、2三金以下の順になります。
これで趣向部分はやっと通り過ぎましたが難しいのはまだこれから。2二香成として龍と飛を交換し、2四飛とかかれば、2三銀合が最善です。

途中Ⓐ図(21手目6六角まで)
第49期七條氏作1

続く6六角(途中Ⓐ図)の桂取りのとき、㋭同香の変化(3二金以下作意と同様に追い、3五桂、5二玉、5三歩、6一玉、6二歩、同玉、6三歩、7一玉、7三香、7二歩合、6二金以下かなり長い詰みです)がまた厄介。いずれにしても3五桂の形にして4三金と据え、歩を巧みに使って9筋まで玉を追って途中Ⓑ図となれば、あとは歩の成り込みで金をずり上げるパターンの、軽快な収束に入ります。

途中Ⓑ図(43手目9四歩まで)
第49期七條氏作2

“歩連合い”の作品としては、これまで、
①森敏宏作(40年12月号、縦5連中合い)
②山中龍雄作(43年6月号、横7連合い)
③森田拓也作(詰将棋パラダイス誌46年9月号、小駒図式、縦7連合い)
がありますが、本作はこれらのいずれと比べても全く異った構成です。作者は、本作を皮切りに、各駒の連合シリーズに挑戦し始めました。しかし、この年の9月号の第8回”力だめし”で七條氏の長篇シリーズは打ち切られました。以後は、”墨江酔人”のペンネームで、ひき続き各種の趣向大作を研究室に発表しておられます。いつの日か、これらが集大成されれば、さぞや豪華な傑作集ができることでしょう。
作者「短篇と併せて本作も受賞とはビックリです。これは不完全に次ぐ不完全で、入賞しないものとあきらめていましたが、塚田九段と編集者諸氏のご厚情のたまものと、感謝しております」



七條氏作の短編賞受賞作は「将棋墨酔」拾遺集第8番、長編賞受賞作は第17番にそれぞれ収録されています。
長編賞受賞作には19手目2五飛以下でも詰むようだという指摘がなされています(「詰将棋おもちゃ箱」内詰将棋メモ、岡部文洋氏)。
当方のパソコンでは確認し切れませんでしたので断定は控え、指摘の記述に留めたいと思います。


次回更新で「塚田賞作品の魅力」は完結となるのですが、その前に詰将棋サロンについてのちょっとした記事を挟みたいと思います。
最終回後半の掲載までは、しばしお待ち下さい。
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