塚田賞作品の魅力(28)(近代将棋昭和54年10月号)

森田銀杏氏の連載「塚田賞作品の魅力」、第28回です。
今回は第48期(文中では第49期となっていますが)の受賞作を掲載します。
七條氏が輝く”連続受賞”

第49期塚田賞受賞作家
短篇賞 安倍徹郎
中篇賞 西 一郎
長篇賞 七條兼三
昭和51年7~12月号


しばらくの間、本紙上に詰将棋に関する読物や研究ものが途絶え、詰ファンにとってはさびしい思いでしたが、この年の8月号から村山隆治氏の「二歩禁の系譜」という連載が始まりました。このような詰手筋の発展に関する体系的な研究論文は、昔の作品を知らない新進作家にとっては大いに参考になり、また、つねに新しい構想作品を追求する本格的な作家にとっても、創作意欲をかきたてられる刺戟剤となるのです。
この期も、隔月に”力だめし”で解答陣に挑戦した七條兼三氏が、長篇で連続受賞。中・短篇分野では、依然として安定した力を発揮するベテラン陣の中で、いずれも新人が栄冠をかちとりました。


短篇賞 安倍徹郎作


第48期安倍氏作

安倍徹郎作(51年12月号)
2四桂 2二玉 2三歩 1三玉 1二桂成 2三玉 3四銀 3二玉 3三歩 同桂
2三銀成 同玉 2二金まで13手詰
塚田九段「今期は野口益雄作(10月号、11手詰)と本作が特に印象に残った。野口作は一度打った金をさばいていく味は巧いものだ。本作は、小駒図で手順の中にこれだけの妙趣をおり込んだ手腕は評価しなければならない。どちらにするか迷ったが、実戦形の小駒図ということで本作に決めた」
初形は、いかにも手を出してみたくなるような実戦型好形。持駒にも飛角のない、いわゆる”小駒図式”です。
手順は2四桂から2三歩(同玉なら3四銀以下)で、1三玉となったときの1二桂成がちょっとした味。2三玉とよろめかせて、3四銀から3三歩、同桂で形をつくり2三へ銀を成捨てて詰め上げる――。実戦の終盤に現われても不思議でないような素直な手順といえます。
この素朴さが買われての入賞でしょうが、7手目の3四銀が左右どちらでもよい――というのは珠にキズ。これを消す配置(例えば1四歩を1五と)にしていれば果してどう評価されていたか、微妙なところです。
作者は、当時評判になったテレビドラマの”必殺仕掛人”シリーズのシナリオを書いておられた放送作家。「詰将棋は生涯一作だけだと思っていましたが、ヒョンな事からもう一作できました」ということです。この翌年の”新・必殺仕置人”に、将棋好きの旗本が負けた腹いせに女流棋士を殺害する――という話があり、その一場面に伊藤果四段の扮する伊藤宗看が登場しましたが、おそらくこの作者の書き下ろしだったのでしょう。
それはともかく、作者の”受賞の言葉”がさすがに文学的。これまでに例を見ないものなので、全文を紹介します。
作者「私の頭の中には大きな空洞があるらしい。レントゲン写真をとると、頭の右側に空ッポの大きな空洞があるというのだ。私は詰将棋が苦手だ。簡単な3手詰がなかなか解けない。かと思うと、実戦のさ中、あっと驚くような妙手を連発して鮮やかに詰め上げ、自分でびっくりしたりする。どうやらこのことは、私の頭の中の空洞と深い関係があるのではないか。最近、ある俳人の本に”創作の辿りゆく先は、非常に白らけた空間みたいなもの”という言葉があった。私の詰将棋も、とどのつまりは、そんな空間に迷い込むことになりそうな予感がする。それにしても、私の頭の空洞には一体なにが詰っているのか?頭を叩くと、ポンポンと鼓のようないい音が聞こえるのだが、この音は、私にしか聞こえない」


中篇賞 西 一郎作


第48期西氏作

西 一郎作(51年11月号)
2五桂打 同金 同桂 1四玉 1三桂成 同玉 2三桂成 同玉 3四銀 1二玉
1七香 ㋑1六桂合 同香 1五桂合 同香 1四桂合 同香 1三桂合 2二金 同銀
2四桂 2一玉 3二桂成 同玉 3三銀成 4一玉 4二成銀 同玉 5四桂 4一玉
5二歩成 同玉 6二歩成 4一玉 5三桂まで35手詰
塚田九段「北原義治作(11月号、とーふ図式の23手詰)と本作。短篇と同じく、両作とも小駒図で、なかなか面白いネライを持った作品。本作の香打ちから桂の四段合が見事。そのあとも巧いまとまりをみせており決定した」
初手の2五桂打ちで金を入手し、1三桂成~2三桂成と捌いて3四銀までは軽い変化も含んだ心持ちよい序奏。3四銀を同銀なら、同と、1四玉、1七香、1六桂、同香、2五玉、3五と、1六玉、2五銀、1七玉、2八金、2六玉、3六と、1五玉、2七桂までなので、3四玉には1二玉となります。

途中㋑図(12手目1六桂合まで)
第48期西氏作1

ここで1七香打ちに対し”四桂連合い”の主題が現われます。仮りに途中㋑図で1五桂合なら、2三銀成、同玉、3三と、1三玉、2四銀、同玉、3四と、2五玉となり、1六金打ができて早く詰みます。その後も同様の理屈で、1筋の金打ちを遮るために、玉方はたえず香頭にくっつけて桂合をしなければならない――という訳です。
しからば桂合以外は?1三香合なら同香成、同玉、1五香と打ち直して簡単。1三銀合なら2三銀成以下。いずれも早い詰です。ところが、1七香の手で、2三銀成、同玉、3三と、1四玉、1七香とすると、1六桂合、同香、1五桂合、同香、同玉、2七桂、2六玉、3六金、2七玉……で、きわどい逃れ。四桂連合いの主題を成立させる変化と紛れが僅かの駒配置で巧妙に仕上っているのは、とても新人とは思えない技倆です。
三桂を連取して、1三桂合となったところで2二金打がまた絶妙手。以下、2四桂から3二桂成捨て、3三銀成捨てから4二成銀捨てと捌いていく収束も鮮やかです。
“四桂連合い”は、これも塚田賞の山田修司作(38年11月号、63手詰)が初めてですがこれは飛打ちに対する”横”の四段合い。本作は香打に対して”縦”の四桂合いで、しかもそれを小駒図式で実現した、記録に残すべき傑作といえましょう。
作者「二年半がかりの作品で、何度も完成→余詰→完成→不詰というような道を歩んで完成したつもりです。小駒図式ながら変化もあり、収束が5三歩と6三歩で軽くまとまったのがラッキーでした」



長篇賞 七條兼三作


第48期七條氏作

七條兼三作(51年12月号)
1二桂成 同銀 2三飛 1四玉 1六香 1五歩 同香 同玉 2六銀 1六玉
1七銀 同玉 1八歩 同玉 8八飛 ㋑7八歩合 同飛 1七玉 7七飛 6七歩合
同飛 1六玉 6六飛 5六歩合 同飛 1五玉 5五飛 4五歩合 同飛 1四玉
4四飛 3四歩合 同飛 2三玉 3二銀 1三玉 1四歩 2二玉 2四飛 3三玉
2三角成 同銀 同銀成 4三玉 5三歩成 同玉 5四銀 5二玉 6三香成 ㋺5一玉
5二歩 6一玉 6二歩 同金 同成香 同玉 6三銀成 同玉 6四飛 5二玉
5三歩 同玉 Ⓐ5四金 4二玉 6二飛成 ㋩5二飛合 同龍 同玉 6四桂 6一玉
6二歩 同玉 6三飛 7一玉 7二歩 同銀 同桂成 同玉 6一銀 7一玉
7二歩 8一玉 9二歩成 同玉 8六桂 8一玉 9一香成 同玉 9二歩 8一玉
7一歩成 同玉 7二銀成 同玉 8四桂 8一玉 9一歩成 同玉 9三飛成 8一玉
9二桂成 7一玉 8二桂成 6一玉 6三龍 5一玉 5二歩 4二玉 4三龍 3一玉
3二龍まで111手詰
塚田九段「今期は不完全作が多く、三作が最後に残ったが、やはり本作が本命であろう。趣向自体は前期の受賞作があるので、目新しいものではないが、このような作品を作り上げる手腕はたいしたものだ」
本作は”歩中合による飛鋸趣向”がテーマで、前期の長篇賞受賞作品の一つ(6月号、97手詰)と姉妹局といえます。

途中㋑図(16手目7八歩合まで)
第48期七條氏作1

軽い序奏のあと、15手目の8八飛に対する7八歩の中合(途中㋑図)で、この趣向は始まります。中合の意味は、前作の場合は玉方の角筋を止めさせないためでしたが、本作は詰方の8九角がとび出せないようにするための、いわゆる”焦点の捨合い”で、判りやすくなっています。しかし、このような簡単な原理で”飛鋸”という珍らしい趣向を生み出したのは、すばらしい着想です。
角道の階段を飛車が昇りつめると、手元には歩が7枚になっています。この持駒と、飛車の動きを制限して趣向を成立させるために斜めに並べられていた7六桂から4三歩までの駒をどう捌くか――が、本作者の力量の見せどころです。
まず35手目の3二銀引きから49手目の6三香成までは追手順。ここで㋺4一玉と逃げて4二歩、5一玉とする方が一歩多く使わせるようですが、作意同様に追ってⒶ5四金のところで、4四金、5二玉、5三歩、5一玉、4一歩成ができて早く詰みます。㋺で5一玉としておけば4二歩がないのでこの筋はなくⒶ5四金、4二玉、6二飛成と進み、合駒の選択が問題となります。この辺りの変化と紛れは、持駒の歩の数もからんで、かなり煩らわしいものです。

途中㋩図(66手目5二飛合まで)
第48期七條氏作2

ともあれ、途中㋩図のところでは5二飛合が最善。この飛車を取って6四桂と跳ねたあとも、まだ延々と40数手のさばきが続きますが、もう難しいところは殆どありません。しかし、これだけのスッキリした配置で、すべての駒が躍動し、長手順を実現するところはさすがと、感心させられます。
本作の結果発表のとき、たまたま筆者が解説を担当させられましたので、その折にも触れましたが、この作者にとって趣向手順そのものが”目的”なのではなく、むしろ作図の”動機”なのではないか、と思われます。それは、趣向手順そのものは比較的あっさりと仕上げておいて、それまでの趣向手順の組立てに必要であった駒を基に、強腕の棋力でもって、ギリギリの詰手順を抽出する――という、他に類を見ない作風から、そのように感じるのです。本作においても軽快な飛鋸趣向のあと、延々80手近くもかけて、すべての駒を限界まで能らかせるあたり、作者の力量を見事に結晶させた作品といえます。
最近は、不完全が出るのを嫌って、発表までにすこぶる慎重な検討を繰返しておられ、発表のペースは落ちましたが、まだ数多くの記録的な作品を創っておられますので、大いに期待して待ちましょう。
作者「この作品は趣向手順もさることながら、後半の歩を消化していく手順に苦労しました、不動駒が一枚もなく、最後は玉方は玉一枚になる――というのは珍しいのではないかと思います。今後は連続受賞をどこまで伸ばせるかなんて、大それたことを考えています」



西氏作は残念な事に、17手目2三金以下でも詰んでしまうようです。


七條氏作は「将棋墨酔」第47番に収録されています。


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No title

西氏作の1八歩脱落は誤植です。
あとで作られた正誤表に記されています。

解答欄魔さん

私の持っている「近代将棋図式精選」正誤表には載っていないようです。
七條氏作の玉方8八と脱落については書かれていますが…。
ですが解答欄魔さんの情報の方が正確と思いますので、該当箇所は修正いたしました。
ご指摘ありがとうございます。
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