塚田賞作品の魅力(26)(近代将棋昭和54年8月号)

森田銀杏氏の連載「塚田賞作品の魅力」、第26回です。
今回は第46期(文中では第47期となっていますが)の受賞作を掲載します。
太田氏初入選で受賞

第47期塚田賞受賞作家
短篇賞 太田勇喜
中篇賞 森田正司
長篇賞 田島暁雄
昭和50年7~12月号


この年、清水孝晏氏が「古棋書の世界」という読物を連載して好評を博しました。
詰将棋のルーツは、今から約四百年前、江戸時代の初期にまで遡ることができます。現存する作品の最古のものは、慶長17年(一六〇二年)に家康から五十石五人扶持を賜り、一世名人を名乗ることになった初代大橋宗桂の「象戯図式」五十番といわれます。この時代の詰物は、指将棋の終盤の一部のような形をしたものが多く、詰み上りに持駒の残るものもあるところから、詰みの力を養成するための問題として誕生したと考えるのが順当でしょう。
その後、詰将棋は指将棋からほとんど独立した”作り物”として発達し、現代ではその形や内容はもちろん、出題の形式や目的の変化につれて、そのルールや評価基準まで変っています。
このような詰将棋の誕生から発達の過程を総合的に眺めることのできる好著が、近年、相次いでいます。その一つは、平凡社・東洋文庫の門脇芳雄編「続詰むや詰まざるや――古典詰将棋の系譜」。また筑摩書房の「日本将棋体系別巻「図式集」(上=森雞二、中=内藤国雄、下=二上達也解説)も古図式の世界を体系的に理解する上で、必読の書といえましょう。
ところが最近、偶然の機会に入手することができた六段塚田正夫著「新撰詰将棋」(昭和12年、博文館発行)を繙いて驚きました。これこそ、詰将棋の歴史から始って古図式と古名作の総合的解説書の第一号に違いありません。塚田十段の詰将棋に対する批評眼が、自らの創作経験だけでなく、このような永年の研究の成果によるものと、改めて畏敬の念を持った次第です。
冒頭に、このような話を持ち出したのは、詰将棋の創作において”新らしいもの”を追求するには、まずその起源から発達の過程を調べることが役に立つ、といいたかったからです。詰将棋の世界においては、殆どの手筋や趣向形式が江戸時代に開発されていますが(、)現代において新らしいものを求める方向としては、一つは構想的あるいは趣向的な新らしいプロットの開拓であり、一つは色々な記録への挑戦があります。さらにもう一つ、極端に使用駒をきりつめた好形図式・簡素図式あるいは珍形図式の発掘もあります。”塚田賞作品”はこのような近代的詰将棋観で選び抜かれた秀作――ということもできましょう。


短篇賞 太田勇喜作


第46期太田氏作

太田勇喜作(50年12月号)
2三桂 4二玉 5一角 5二玉 6三金 4一玉 4二角成 同玉 5三飛成 4一玉
5二龍まで11手詰
塚田九段「短篇では新人の砂川順一作(11月号、13手詰)と本作が優れた感覚を示した。受賞に決めた本作は6三金とひかえて打つ一手がすばらしく次の4二角成が巧妙である」
初型は3三飛打に3二金合と応じたようなごく自然な形。2三桂と打つのも当然の手で4二玉に5一角打も手筋です。ところが、続く5二玉のところで平凡に6二金打では4一玉、3二飛成、同玉、3三金、2一玉、3一桂成、1二玉……で僅かに届きません。そので6三金と控えて打つと、4一玉に対し4二角成(同金なら3一飛成まで)の好手が生じて詰み上がります。
初入選の作者ですから、それほど計算したとも考えられませんが、この6三金という効率の悪そうな手が、詰棋ずれした人達にはかえって新鮮に映ったようで、見事に塚田賞の栄に輝きました。
作者「詰将棋に興味を覚えて、これまで人様に自慢できることが一つもなかった私にとって、塚田賞は最高の名誉です。そかも、初入選で受賞することができるとは、夢にも思いませんでした。本作、変化や紛れが少なく余り自信なかったのですが、簡素な初型がよかったのでしょう」


中篇賞 森田正司作


第46期森田氏作

森田正司作(50年7月号)
4五銀 2五玉 3六銀 1五玉 2五金 1六玉 1七歩 同玉 2八銀 1六玉
2六金 同玉 3七馬 1六玉 1七銀 同玉 2七馬まで17手詰
塚田九段「中篇部門では何といっても本作を推す。簡略な初形から洗練された好手順を作り上げた手腕は大したものだ。次点は横山みのる作(12月号、17手詰)で、自然形からくり出す大駒の捨駒テクニックは見事である。他に児玉孝一作(同、23手詰)のパズル的な手順も十分楽しめるものである」
手数は17手ですが、内容は短篇の味。児玉氏作のような本格的な作品をはじめ、この期は中篇に好作が多かったなかで、このような小品が塚田九段に訴えたものは何だったのでしょうか。自分で批評するのも気がひけるので、当時の森敏宏氏の解説を引用させてもらいましょう。
「左右対称的。まず4五銀から3六銀と、と金をかすめ取り、同玉なら2七銀の好手を用意しています。角を取られたあとは金銀を手順に打ち、それをあとで捌くという、簡単な構図にしては実に巧妙な手順に仕上っています。初手3三角成(2五玉なら1四銀以下の詰み)も考えられますが、3五玉で逃れています」
作者「本作は駒数の少い”簡素図式”を目指して作図したもので、珍型に仕上ったのは幸運でした。このような詰将棋は、つくるというよりは見つけるという方が適切なくらい根気と幸運の産物で、手順よりもむしろ容姿の方が主題といえます。それでも、収束の金銀の捌きと、四手目3六同玉の変化に対する2七銀の軽手は、自分でも気に入っているところです」


長篇賞 田島暁雄作


第46期田島氏作

田島暁雄作(50年11月号)
2三と 同玉 3五桂 同と 1四馬 3三玉 1一角 ㋑2二桂合 4三金 同玉
3二馬 4四玉 2二馬寄 4五玉 5五馬 3六玉 3七金 2五玉 2六歩 同と
1七桂 1六玉 2六金 同玉 4四角成 ㋺3五香合 2七歩 1七玉 2八金 1六玉
3四馬 2五金合 1七歩 1五玉 3三馬左 2四歩合 1六歩 同玉 2五馬 同玉
2六金 1四玉 1五歩 1三玉 2二馬まで45手詰
塚田九段「長篇は不完全作が多く、有力な作品がかなり失格してしまった。最後に残った三作のうち、本作が面白い詰将棋を作り上げている。一見無筋とも思える上部へ泳がす手法は新感覚である」
あっさりした中篇的な感覚の駒の配置ながら、とにかく難解。解説のために改めて駒を並べてみてもその変化が読み切れないほど複雑を極めています。この月の研究室全題正解者が僅か8名だったことを見ても、その難解さがわかります。
まず初手2三と捨てが意表の一手。同金に4二角、3五玉、5三角成……、あるいは1五玉と逃げて、3七角、2六歩合、2五金……というような変化だけでなく、初手から、1六桂打や4二角打などの誘手があるのでなおさらです。
続く3五桂打がまた意味の判りにくい手(本手順に入れば自然に判るのですが……)。しかも2四玉、2五金、3三玉、4二角、同金(4四玉なら5三角成、3三玉、2四金、同玉、1四馬以下)、同銀、同玉(4四玉は4三桂成、5四玉、5三銀成、6四玉、7四金まで)、4三金、3一玉、3二歩、2一玉、2二歩……という厄介な変化手順を伴っています。
3五同と、1四馬、3三玉、1一角打に対し2二桂合となって途中㋑図。

途中㋑図(8手目2二桂合まで)
第46期田島氏作1

この桂合の意味は珍らしいもので、直ちに3二馬なら2四玉と戻って、1四馬引きをさせない――というもの。従って4三金、同玉と、金を一枚捨ててからでないと3二馬と入れない――という好手順を生み出させる妙防といえます。
以下は4四玉の遁走に、2二馬寄から5五馬、3七金と押えて収束形、と思うとさにあらず。2六歩、同と(1六玉なら2七金打、1五玉、3三角成、2四歩合、同馬、同玉、1六桂以下)、1七桂、1六玉、2六金と捌き、4四角成で3五香合(他の合は2七歩、1七玉のとき3五馬と切って早い)とさせて途中㋺図で、また一思案――となるのです。

途中㋺図(26手目3五香合まで)
第46期田島氏作2

しかし、ここからはいよいよ収束で、2七歩から2八金と据え、3四馬と寄って2五金合を強要し、3三馬左と入って2四歩合をさせたところで、2五馬と金を取る前に1六歩と突き捨てておくのが、最後の軽妙手。これで2六金から1五歩打ができて大団円となりました。
このように主要な変化手順を追っただけでもこれだけ厄介。しかも途中で4四から4五玉と大海へ追い出すような不安感の中で、自分で解こうとすると、絶えず”不詰では?”という悪魔の囁きに負けそうになることでしょう。
さらにもう一つ、とばしてきた難しい変化があります。それは2二桂合(途中㋑図)で2二歩合とする手。3二馬、4四玉、2二馬寄、4五玉、5五馬、3六玉、3七金、2五玉で、本手順のときは持駒が”金桂歩歩”に対し、”金金歩歩歩”と強力なので簡単に詰みそうですが、これがなかなか寄りません。2六歩、同と、同金、同玉、4四角成、3五合、2七歩、同玉、2八金、1六玉、3四馬……という筋以外は、詰みがなさそうです。
作者は構想的詰将棋を得意とする本格派のベテランですが、本作のような捌きの中篇的作品においても、その強腕ぶりが遺憾なく発揮され、このような回帰型(玉がひとまわりして序盤の位置へ戻ってくるタイプ)の作品でありながら収束までゆるみのない手順をつくり出されたところは、感嘆のほかありません。
作者「本作は、最初は上部に玉を追い上げ駒捌きを狙ったものですが、余詰などを検討しているうちに、俗手順の余詰筋にかえって興味を感じ、いわゆる芋筋ばかりで構成するよう作り直したものです。このため大変苦心しましたが、出来上ってみると、いかにも野暮ったくなりましたので、受賞通知には全くオドロキました」
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