塚田賞作品の魅力(25)(近代将棋昭和54年7月号)②

森田銀杏氏の連載「塚田賞作品の魅力」、第25回の続きです。
今回は第45期(文中では第46期となっていますが)の受賞作を掲載します。
第46期塚田賞受賞作家
短篇賞 小寺秀夫
中篇賞 OT松田
長篇賞 巨椋鴻之介
    上島正一
昭和50年1~6月号


新人の輩出とベテランの復活で、昭和40年代の詰将棋界は、第二期昭和黄金時代となりましたが、ここ二、三期の鑑賞室・研究室には特筆するようなビッグ・ヒットが見られませんでした。
ところが50年代に入ったとたん、今期は短・中・長篇の各分野に野心作や大作が続々と出現し、活況を呈し始めました。この期、活躍が目覚ましかったのは若島正、谷口均、墨江酔人、小寺秀夫、OT松田、北原義治らの各氏でした。


短篇賞 小寺秀夫作


第45期小寺氏作

小寺秀夫作(50年3月号)
1三飛 2一玉 2三飛成 2二飛合 同龍 同銀 3三桂 同銀引 3二銀 1二玉
1三飛 同銀 2三馬まで13手詰
塚田九段「受賞作となった本作は意外に詰まし難い面がある。1三飛から2三飛成が妙味ある手順だ。次点は若島作(1月号、15手詰)。作品の完成度という点ではこちらが秀れているが、いわゆる”短篇”という感じがしないのだ。どうも手数でこの”ワク”を決めることに問題があるのかも知れない」
この形で初手1三飛(同銀なら2三銀から3三桂まで)は軽手なので入りやすいが、2一玉となったところで切れたように見える。また初手に戻っても、他に手らしいものはないので、1三飛、2一玉。ここで仕方なく、2三飛成としてみると、2二合、3二銀、同銀、同龍、1二玉、2三馬まで。そこで2二合は金か飛ということになり、ようやく筋に入ったことが判ります。これを同龍と取って変化も読むとさきの合駒は金でなく飛。2二同銀の形のときに3三桂と打って同銀引とさせておくのがうまい手で、最後にもう一度1三飛と捨てて詰み上ります。
こんな狭いところで簡素な形なのに、何故か読みにくい作品です。これは、手を拵えていく創作法ではなく、ある形の中に手を見つけていく方法で生まれた作品だからでしょうか。けだし、作者は読みの棋力と詰将棋(とくに短篇)の感覚にすぐれた方で、その上に努力と幸運とで、この素材を発見されたものと想像できます。前期の中篇賞に連続しての受賞はお見事でした。
作者「前期の中篇賞の感想文に、次はぜひ短篇賞をとりたいと書いたのですが、こんなに早くもらえるとは思っていませんでした。私にとってはあまり自信のある作品ではなかったので内心当惑しています。これからは、私自身にも自身のもてる作品を作っていきたいと思います」


中篇賞 OT松田作


第45期OT氏作

OT松田作(50年6月号)
6一飛成 6二歩合 4五馬 7四玉 7二龍 6五玉 6六歩 同玉 5六金 6七玉
6三龍 同歩 6八歩 7六玉 5四馬 7五玉 6五馬まで17手詰
塚田九段「OT松田作。いつも感じていることだが、この人の詰将棋に対する感覚はすばらしい。受賞作の6一飛成として6二歩合を要求し、その頭へすてるという構想は秀抜である。作図面でより洗練されたものが加われば申し分ないのであるが……。ともかく、詰将棋に対する”目”のつけどころが違うようだ」
いつも新機軸の作品で話題を賑わす作者。名前を見ただけで、まず最初に解いてみたくなる作家の一人です。本作の場合も、発表時にすぐ挑戦して、”グワーン!”と頭を撲られたような鮮烈な印象が、いまも残っています。
初手から4五馬とブラ金にパクつくと、7四玉、7一飛成、6五玉(7三合は同龍、同玉、6四金以下)、6六歩、同玉、5六金、6七玉、6二龍のとき、6五歩と中合で逃がれます。初手に6一飛成で6二歩合を強要しておいて、同様に手を進め、6三龍とすると”二歩禁”のために歩の中合が利かない――というのが作者の描いた奇抜な構想なのです。
二歩禁を避けるために前もって歩合を発生させておく――という筋はこれまでにもありますが、通常は玉の上部でこれを発生させておく方が、あとのまとめが容易です。これを玉の下部で発生させるという着想は珍らしい感覚で、これによって、発生させた歩の頭へ龍を捨てる――つまりわざわざ自分が取られるための合駒をさせておく――という奇妙な手が生まれたわけです。
本作の場合、初手6一飛成を手拍子で指してしまうこともある(筆者もそうであった)ので、二歩禁の構想手筋であることは解いてから気づく――という弱みはありますが、それでも、発生させた歩、しかも宙ぶらりんの歩の前に龍を捨てるという奇想天外な手が出現しただけでも、解者は新鮮な驚きにうたれることでしょう。形の洗練されていないことも否めませんが、この自由奔放さがこのような新感覚の手順をつくり出す因である――ともいえるのではないでしょうか。
作者の本名は佐藤完二郎氏。新潟県小千谷市の人で、塚田賞はこれで四回目というベテラン。新感覚の構想派作家として、今後も活躍が大いに期待されます。
作者「本作は完成度から見れば相当低い段階といえましょう。とくに舞台装置が大掛りに過ぎるのが情けない。”玉方二歩の禁”の主題で作り始め、出来てみればそれは言葉のアヤか、”歩詰回避”の主題に微妙に入れ換った気がしてなりません。ともあれ、今後もボチボチやって行きたいと思います」


長篇賞 巨椋鴻之介作「流星群」


第45期巨椋氏作

巨椋鴻之介作(50年6月号)
3六金 同玉 3七歩 3五玉 4七桂 同と 2四銀 同玉 3四金 1三玉
1二銀成 同玉 1三歩 同玉 4六馬 同と 3五角 2四角合 同角 2二玉
5五角にて途中Ⓐ図

途中Ⓐ図(21手目5五角打まで)
第45期巨椋氏作1

途中Ⓐ図より、2一玉 2二歩 1二玉 1三角成 同玉 4六角 2四角合 同角 2二玉
6六角 2一玉 2二歩 1二玉 1三角成 同玉 5七角 2四角合 同角 2二玉
7七角 2一玉 2二歩 1二玉 1三角成 同玉 6八角 2四角合 同角 2二玉
8八角 2一玉 2二歩 1二玉 1三角成 同玉 7九角 2四角合 同角 2二玉
4四角 2一玉 1一角成 同玉 1二歩 2一玉 3一とにて途中Ⓑ図

途中Ⓑ図(67手目3一とまで)
第45期巨椋氏作2

途中Ⓑ図より、同銀 1一飛 2二玉 3三角成 同歩 2五香 3二玉 2三香成 4二玉
3一飛成 同玉 3二銀 4二玉 4九飛 5一玉 4一銀成 同銀 同飛成 同玉
3二銀 5一玉 5二歩 同玉 4三金 5一玉 4一銀成 同玉 3二成香 5一玉
4二成香まで97手詰
塚田九段「巨椋作と上島作。どちらも雄大な趣向を完ぺきなテクニックで構成されており、甲乙つけ難く、両作受賞に決めた。巨椋鴻之介。一昔前に活躍された方で、実になつかしいお名前である。本局は往時をしのばせる大作である」
大家、巨椋鴻之介氏が十数年ぶりに復帰。新構想の趣向作を携えての登場で、堂々と長篇賞を獲得されたのは、さすがです。”眠れる獅子”を起こそうと、折にふれてそのヒゲを引っぱってみた筆者としては、思わず快哉を叫んだものでした。
さて本作、2四銀から3四金と場づくりをする前に、3六金捨てで香筋を通し、4七桂捨ても、将来予想される飛車回りのための伏線手として指しておくのは、練達者にはそう問題ではありません。
こうしておいて、3四金から1二銀成で角をとり、4六馬、同と、3五角としたところから本局の主題が始まります。3五角打に対しては2四角合。これは2二玉のとき2六香という手を妨げるための捨合で、他の合駒なら同金以下簡単ですが、角合の場合だけ、これでは詰みません。2四同角とし、2二玉に5五角(途中Ⓐ図)と打てば、趣向の意味にようやく気がつきます。
そうです。2一玉、2二歩、1二玉、1三角成と捨てて4六角で再び2四角合を強要。この角取り→角捨ての循環のうちに斜めの並び歩を消して行こう、という趣向なのです。判ってみれば、何と単純な原理で構成されていることか、と思いますが、2五歩で香筋を消した形でなら2四角の変則合駒が成立する――という仕掛けを発明した作者の独創力は非凡といえます。
さて、並び歩を取り終ったところで、どんな終曲が用意されているのでしょうか。この作者の趣向作品は、とくに収束のすばらしさが定評で、期待に胸がはずみます。
もう一度4四角と打って、今度は1一角成で飛車を入手。1二歩に同玉なら1三角成、同玉、2三飛、1二玉、2二飛成、同玉、2五香以下ですが、2一玉で一頓挫します。もう一歩あれば2二歩で簡単ですが、調べ直してみても歩の数は間違いありません。
ここで3一と(途中Ⓑ図)は局面打開の絶妙手、容易に気付き難い手です。同玉でも切れそうに見えますが、8一飛成の巧手があり、6一合なら同龍、同銀、4二角成、同玉、4三飛以下、5一合なら、1三角成、4一玉、2一飛、3一合、同馬、同銀、5一龍、同玉、3一飛成以下という詰みがあるのです。
そこで3一とには同銀の一手、ということになり、1一飛打から角も香もさばいて、ようやく4九飛廻りを得て、例の銀捨てのフィナーレに入ります。最後は4二成香と押し込んで玉座で詰み上るまで、延々97手。不動駒僅かに3枚というきれいな捌きが展開されました。
趣向作家にも”浪漫派”や”記録追求型”など、いくつかのタイプがありますが、巨椋氏は”効率志向”の作家で、捌きを重視する作風です。本作を見ても、十年余の冬眠期間を経ての登場にもかかわらず、そのプロットの斬新さといい、全くムダのない構成といい他の追随を許さぬ見事さに、ただ感服するのみです。
作者の本名は佐々木明氏。仏文学者として多忙を極めておられますが、まだ未発表作をかなりお持ちの筈。お蔵にしないで、ぜひとも陽の目を見させて欲しいものです。
作者「この前の受賞はたしか第19期(実は18期)のこと。振り返ると茫洋たる感があります。以後10年以上も足を洗っていたのに、いつかまたこの「禁じられた遊び」に戻って来たのですから、結局よほど好きだというほかありません。この間、煙詰ブームによる大型化(どうか粗大化でないように)や、上田吉一氏をはじめとする若い才能の開花によって、長篇の世界もずいぶん変りました。私もいい齢をしてコレにかかわる以上、少くとも自分の眼に意味ありと見えるものを作らねばと思いますが、眼高手低の嘆きは年とともに深まるばかりです。
本作、昭和33年頃のノートに”完成”として眠っていたのを15年度にいじり直したもので、伏線手4七桂は装飾的なものですし、3一とのあたりを除いては難解さのない、いわゆる”趣向的な趣向作”。さばきがキレイでムダのないのが長所でしょうか」


長篇賞 上島正一作


第45期上島氏作

上島正一作(50年6月号)
5七歩 同玉 6九桂 同と 5八龍 4六玉 2八角 3七桂合 同角 同玉
2七金 同玉 2八龍 3六玉 3八飛 4六玉 3七龍 5六玉 5八飛 6六玉
5七龍 7六玉 7八飛 8五玉 8六歩 9六玉(以下32手を甲手順とす)
9八飛 8六玉 9七龍 7六玉 7八飛 6六玉 7七龍 5六玉 5八飛 4六玉
5七龍 3六玉 3八飛 2六玉 Ⓐ2八飛 3六玉 4八桂 同香成 2七龍 4六玉
4八飛 5六玉 5八飛 6六玉 5七龍 7六玉 7八飛 8五玉 8九香 ㋑8六桂合
同香 9六玉
以下甲手順を3回繰返し、
9八飛 8六玉 9七龍 7六玉 7八飛 6六玉 7七龍 5六玉 5八飛 4六玉
4八飛 3六玉 4五銀 2六玉 2八飛 1五玉 1七龍 1六桂跳 2六龍 2四玉
3三桂成 同玉 3五龍 4二玉 3二龍 同玉 2二飛成 4一玉 3三桂 5一玉
8四角 6一玉 6二歩 7一玉 7二歩 同金 6一歩成 同玉 7二銀成 同玉
5二龍 8三玉 8二龍 同玉 7三金 9一玉 8二金打まで201手詰
塚田九段「上島作。これは若島・上田両君の合作だそうだが、これまたスケールの大きい超大作だ。詰将棋も長篇となれば、このようなグループで作業するという、時代の流れを感じさせる」
ご存知、京都コンビの合作第2号。本作は若島正氏が発案した趣向プロットを上田吉一氏が構図化し、それに若島氏が収束をつけてまとめた、という作品です。
5七歩打から6九桂、2八角で桂を入手して2七金引と、キビキビした序奏のあと、2八龍、3六玉、3八飛、4六玉、3七龍、5六玉、5八飛……となって、ようやく”飛龍追い”の趣向が見えてきます。
まず最初は左へ追い、8六歩突、9六玉、9八飛で折り返して右へ追います。2八飛(途中Ⓐ図)

途中Ⓐ図(41手目2八飛まで)
第45期上島氏作1

で1五玉なら、1七龍、1六金合、同龍、同桂、1四金、同角、同と、同玉、1三桂成、同玉、2二角以下の詰みがあるので、3六玉と逆戻り。ここで4八桂、同香成とさせておいて、2七龍から4八飛と、この香を取りながら再び左へ追います。7八飛、8五玉となったところで8九(または8八)に香を打つと8六桂合の一手(途中㋑図)。

途中㋑図(56手目8六桂合まで)
第45期上島氏作2

同香、9六玉、9八飛……で、持駒を香から桂に変換しながら鮮やかな折り返しとなります。
1サイクル32手もかかるこの往復運動をあと3回繰り返すと、4筋の香がきれいになくなります。本作の面白いのはまだこれからで(、)四香をはがしてしまうと、その戻り道の165手目、これまで5七龍と寄っていたところで、4八飛(途中Ⓑ図)と手が変るのです!

途中Ⓑ図(165手目4八飛まで)
第45期上島氏作3

もしこれまで通り、5七龍と寄ると、3六玉、3八飛、2六玉、2八飛、1五玉、1七龍、1六金、同龍、同桂、1四金、同角、同と、同玉、1三桂成、同玉、2二角、1二玉、1三歩、2一玉、5五角成、2八桂成、2二銀、3二玉、3三馬、4一玉……と、4一香がなくなったとたん、この筋は逃れ順になってしまうのです。つまり、香をすべて取ってしまうと、それまでの手順では不詰となり、別の手順で収束に向わねばならない――という意外性があり、趣向詰における理想的な構成法が採り入れられています。
その別手順が4八飛から4五銀。こうして2八飛から1七龍とすると(1六金合は2七桂、2五玉、2六歩、同金、1五龍まで)1六桂跳と玉方も変化します。あとは2六龍から3三桂と成り捨て、3五龍から3二龍と切って角を奪い、2二飛成、4一玉、3三桂、5一玉のとき8四角と遠打ちし、あとは歩の小味な捌きで8三銀まで動き出し、最後は8二龍とぶち切って大団円となります。
七・八段目を二丁飛車で追う、これに似た趣向は、戦前の”将棋月報”時代の大作家、酒井桂史が元祖で、その作品集(下巻34番)にありますが、これは僅かに一往復するだけの趣向。本作は飛龍による追撃なので、その味も異るばかりか、<桂→香→桂>の駒交換をUターンのカラクリとして、五往復もさせたところは、桁ちがいに大きなスケールの作品といえます。ただ惜しまれるのは、これだけの大作に命名がしてないことで、作品集に収録されるときには、イメージにふさわしい題名をつけてほしいものです。
上田「合作での受賞は初めての経験。感謝します。若島氏の原図はもっと複雑なプロットでしたが、その一部分のみを展開したものが発表図です。原案を作図化したならば300手位になっていたことでしょう?深い読みに裏付けされた収束部は、さすがに若島氏だけあって小生などとても及びません。単なる素材を立派な作品に仕上げる感覚は見事なものです」
若島「”上島正一”なる怪しげなペンネームも、どうやら年貢の納め時がきたようですね。上田氏との合作では、いつも上田氏が構成した作品を小生がすこし推敲して仕上げるというパターンになります。本作もその例にもれず、小生がもて余していた趣向プロットを実現させた上田氏の手腕には脱帽あるのみです」



「流星群」は「禁じられた遊び」禁じられた遊び第56番、上島氏作は「盤上のファンタジア」第100番にそれぞれ収録されています。


「四百人一局集」によると、OT氏作は12手目同歩のところ7六玉で変化長手数となりますが、7七歩→7七桂(谷口均氏案)とすることにより割り切れるそうです。


上島氏作の解説で言及されている酒井桂史氏の作品を掲げます。


第45期参考酒井氏作
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