塚田賞作品の魅力(25)(近代将棋昭和54年7月号)①

森田銀杏氏の連載「塚田賞作品の魅力」、第25回も2つに分けて掲載します。
今回は第44期の受賞作を掲載します。
近藤、小寺両氏が連続受賞

第45期塚田賞受賞作家
短篇賞 糸川忠夫
中篇賞 小寺秀夫
長篇賞 近藤 孝
昭和49年7~12月号


前回が第43期なのに、今期はどうしたわけか第45期。これは編集部が勘ちがいによるものでしょう。以後、46期、47期と続いたので、結局”第44期塚田賞”というものは存在しなかったことになります。
番号のつけ間違いといえば、本誌にはもう一つ、面白い話があります。それは通巻号数の誤りです。
本誌の創刊は昭和25年4月号で、30年1月に臨時増刊(59号)があったほかは、確実に毎号一号づつ刊行されてきた訳ですから、この54年7月号は、本当は通巻353号という計算になります。ところが背表紙をご覧になれば判るように、今月号には352号と刷り込まれている筈です。ある時、これに気がついて、バックナンバーを一冊々々、ひっくり返してみると、ありました。昭和44年9月号が、その前の8月号と同じ234号となっているのです。つまり”通巻234号”が二度出ているために、10年前から、号数が一つ減ってしまっている訳です。30年に及ぶ長い歴史の中では、こんな誤りもご愛嬌といえましょう。それよりもこのようなくだらないことを調べている者の方が、よっぽど”暇人”と笑われるかも知れません。
閑話休題。この期は新進、糸川忠夫氏の躍進と近藤孝氏が長篇で連続受賞されたのが光っています。他では影男氏と瓶子吉伸氏の活躍も目覚ましく、酒井克彦氏が久々に復帰されたのも嬉しいことでした。


短篇賞 糸川忠夫作


第44期糸川氏作

糸川忠夫作(49年9月号)
4一角 3一玉 2三桂 2二玉 3二角成 同玉 3三歩 同銀 3一飛成まで9手詰
塚田九段「本作が妙に詰まし難いところがあり、手こずった。2一玉の変化も面白く、短手数ながらふくみも多く、これに決定」
初手4四桂から2三歩、2一角……あるいは、2一角から2三歩……といった筋が目に映る初形で、飛車筋を遮る4一角は、続く2一玉の変化が切れ模様でもあるので、打ちにくいところです。ところがこの2一玉の変化は、2二歩と打てば一発でシビレてしまいます。すなわち、同玉や1二玉は2三角成まで。1一玉、3一玉あるいは2二同銀なら、いずれも3二角成できまっているのです。3一玉に対する2三桂打も、4三桂打から2三角成としたいところだけに軽手。4手目2二玉のところは2一玉でも同じです。あとは3二角成捨てから3三歩打で、軽快な収束。ストレートに作意手順に入った人には、いやにアッサリした作品に見えるかも知れませんが、何となく詰めにくい感じのする変った味の作品といえます。
作者「本作、俗手の連発で目新しい手筋でもないのですが、種々の紛れを生んでいることが受賞の一因となったのだと思います」


中篇賞 小寺秀夫作


第44期小寺氏作

小寺秀夫作(49年8月号)
1四歩 2四玉 4六角 3五桂合 1六桂 同歩 3五龍 2三玉 1五桂 2二玉
5五角 2一玉 1一角成 同玉 3一龍 2一合 2三桂まで17手詰
塚田九段「小寺、北原両作が最終まで残った。編集部ともかなりモメたが、小寺作の桂ハネの味を買って決定。次点の北原作(10月号、27手詰)。中篇らしさからいえば、これはこれで申し分のない作品である。詰将棋のテクニックでは完成の域に達したと見るべきだろう」
1四歩から4六角は当然の着手ですが、これに対する3五桂合が気の利いた変則合駒。これが歩合だと同角と取って2五玉、2六歩以下ですが桂合の場合はそうはいきません。そこで1六桂跳が軽妙な手。同飛成なら3五角、2五玉、3七桂……と、先程の変化と同じような手順で詰めようという狙いです。1六同歩とくれば3五龍しかなく、局面は変って1五桂打から1一角成捨ての鮮やかな収束へは一瀉千里です。
本作、金銀のない”貧乏図式”のせいか、紛れや変化が少なくて、粘っこさはありません。その中で3六桂と桂を取らないで、1六桂と、歩と飛車の間へ跳び込む手が、何とも味がよく、短篇のような明快な感覚が残ります。この受賞が励みになったのか、作者はその後も続々と好作を発表し、いまも一流の短篇作家として活躍しておられます。
作者「念願だった塚田賞、僕の将棋狂いを馬鹿にしていた(?)家族も喜んでくれて、これで僕も鼻が高くなりました。これを機会に一生懸命研究にはげみ、また余詰、類似作のない立派な作品を作っていきたいと思います。そして次はぜひ短篇賞を取りたいと思います」


長篇賞 近藤 孝作「土柱」


第44期近藤氏作

近藤 孝作(49年12月号)
7一飛 5二玉 7二飛成 6二飛合 同龍 同玉 6三歩 5一玉 7一飛 6一角合
同飛成 同玉 7二角 5一玉 6二歩成 同玉 6三角成 5一玉 7三馬 6二飛合
同馬 同玉にて途中㋑図

途中㋑図(22手目6二同玉まで)
第44期近藤氏作1

途中㋑図より、7二飛 6三玉 7五飛成 5二玉 7二龍 6二飛合 同龍 同玉
7二飛 6三玉 7六飛不成 5二玉 7二飛成 6二飛合 同龍 同玉 7二飛 6三玉
7七飛成 5二玉 7二龍 6二飛合 同龍 同玉 7二飛 6三玉 7八飛成 5二玉
7二龍 6二飛合 同龍 同玉 7二飛 6三玉 7九飛成 5二玉 7二龍 6二飛合
同龍 同玉 6四飛 6三桂合にて途中㋺図


途中㋺図(64手目6三桂合まで)
第44期近藤氏作2

途中㋺図より、同飛不成 5一玉 5二歩 同玉 6四桂 5一玉 5三飛成 同桂
5二歩 4一玉 4二歩 3一玉 3二歩 2一玉 2二歩 1一玉 1二歩 同玉
4五馬 同桂 2三銀 1三玉 2五桂 同歩 1四歩 2四玉 3四とまで91手詰
塚田九段「二、三不完全作が出て三局が残ったが、本作がスケール、内容的な面から見て強く、連続受賞は当然である。赤羽作(8月号、45手詰=実戦型、香先香歩)も面白い作品で、入賞してもおかしくない出来ばえである」
角使いの作者に珍らしく、飛車を主題にした”連取り趣向”の作品。
まず7一飛から7二飛成とすれば6二飛合の一手。香合なら、同龍、同玉、6四香、6三桂合、同香成、5一玉、5二歩……で詰むが飛車を渡せばこの5二歩が打歩詰なので打てない――という玉方の”飛先飛香”、いいかえれば”不利合駒”という高級手筋です。
今度は6三歩から7一飛で角合を強要し、続いてこの角で7三馬となれば再び6二飛合の一手。これを奪った途中㋑図から、本局の趣向である”と金の連取り”が始まります。7二飛、6三玉、7五飛成の開き王手でと金を奪い、5二玉に7二龍で相変らず6二飛合の一手となる(銀は売切れ)ので、繰返しができる訳です。
ところが、この連取りには、途中に細かな綾があります。それは二度目、7六とを取るときは飛不成でなければ6四玉で打歩詰になる――という小さなワナがこしらえてあること。また四度目と五度目における6四玉の変化には、6五歩、同玉、7六銀、6四玉、6五歩、7四玉、7五銀、6五玉、6六銀引、6四玉、7五龍、同金、同銀、6五玉、6六金までという軽快な捌き手順を秘めているのも、にくいところです(これで、合駒制限のための四銀使用のわざとらしさを解消しているわけです)。
7筋のと金を全部取り切ったところで6四飛と打ち、6三桂の捨合をさせて収束に入ります(途中㋺図)。以下は殆ど説明の必要もないくらい、歩の並べ打ちで軽く流した、というところ。連取りで入手した歩で、二度目の趣向を期待した人には、ちょっとアッサリしすぎた収束でした。
しかし、6二飛の不利合駒の筋を利用して連取り趣向を構成した着想はすばらしいもので、これはまた”不利合駒7回”という記録作品にもなっています。
「土柱(どちゅう)」という題は、7筋に並んだ”と金の柱”をもじったものでしょうが、次第に浸蝕されて崩れていくニュアンスも含んで、ピッタリの命名です。
作者はこれで8回目の塚田賞受賞。一日も早く作品集をまとめてほしいと願うファンは筆者だけではないでしょう。
作者「本局、玉方の応手における飛先飛香7回は新記録でしょう。記録をねらっただけで、塚田賞とは意外でした」



期数のずれは後に修正されたようです。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

近藤孝氏「土柱」

好きな作品の一つです。
主題はたぶん北原義治氏作品あたりにヒントを得ていると思うのですが、打歩詰め誘致目的の不利合駒を繰り返し趣向に仕立てた作例というのは、あまりないよな気がします。
(私が知らないだけかもしれませんが)

『四百人一局集』によると、作者は昭和10年生まれなので、ご健在なら今年79歳のはずです。

名無しさん

「土柱」は解説を読むまで、深く考えずに楽しい手順だと思っていました。

近藤孝氏、健在であってもらいたいものです。
生没については、「四百人一局集」以上の情報は持っていません。
そのためか、最近まで大井美好氏は健在だと思っていました…(以前の記事で書きましたが、昭和60年に逝去)。
プロフィール

Author:hirotsumeshogi
少ない知識をフル活用させています。
当ブログはリンクフリーです。
相互リンクは詰将棋関係のものであれば原則受けさせて頂きます。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カウンター
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR