塚田賞作品の魅力(22)(近代将棋昭和54年4月号)②

森田銀杏氏の連載「塚田賞作品の魅力」、第22回の続きです。
今回は第39期の受賞作を掲載します。
第39期塚田賞受賞作家
短篇賞 佐々木聡
中篇賞 桧作富治
長篇賞 若島 正
    山田修司
昭和47年1~6月号


新年号から”実力問題シリーズ”が始められました。その第一回は、北原義治氏の入選二百回記念の作品。現在でも、この二百回の記録に続く人はいないほど、偉大な金字塔です。これを記念して、二冊目の作品集「独楽こまのうた」が付録になりました。百回記念で初めての作品集「独楽こまのうた」が付録になったのが37年7月号ですから、ちょうど10年。その間、ほとんど毎号欠かさず作品を発表し続けたことになります。”努力”というよりも”執念”というべきでしょうか。「詰将棋こそ、僕の青春の挽歌であった……」と語る北原氏にとって、その生命の炎を燃やし続けるものが”独楽こま”なのかも知れません。
閑話休題。この期の長篇賞は二局。いずれもこの”実力問題シリーズ”から選ばれました。


短篇賞 佐々木聡作


第39期佐々木氏作

佐々木聡作(47年1月号)
8六金 同玉 7五馬 7七玉 7八銀 同玉 5七馬 8九玉 7九馬 9九玉
9八金 同玉 9四飛まで13手詰
塚田九段「本作、形がすっきりしており、内容も7五馬から7八銀という空間への一着が面白い。近藤孝作(4月号、13手詰)も、金の運用に妙を得ている」
8六金で玉を呼んで7五馬と飛筋を消す―この簡素な形から、とても信じられないような”心理手”です。続く7八銀が、もっと広いところへ呼び出すような奇手。ところが、5七馬と開き王手をしてみると、意外にも逃げ場が少ないことに、ようやく気づきます。9八金から9四飛の逆吊し詰めも気が利いています。というより、この詰上りから作者は一気に7五馬まで、駒を増やさない逆算を発見した――というのが作図経過であったと想像できます。
作者は、このときすでに六年もの作図歴がありましたが、これが初入選。あまり力まないで簡潔に仕上げたのが成功の因でしょう。それでも初手から、8五銀、9七玉、7五馬、9八玉、9七金、9九玉、6六馬、7七歩合、同馬、8八金合……のような面白い紛れ順もあって、簡素図式の傑作といっても過言ではありません。
作者「過去において自己過信(自惚れ)と功名心の錯綜に嫌悪を感じながら、なおかつての対象物である詰将棋にしがみつき、そして才能に対する疑惑と陶酔という、半ば相反する感情の間を往来し、またどうしようもない泥沼に足をつっこみながら、なお狂人(詰キチ)たることを否定しようとしている――それが偽らざる私の姿だったのです。それが詰将棋(新扇詰、図巧、名局リバイバル等)との邂逅に因を発しているのだとすると、この受賞はいったい何を私に与えてくれるのでしょうか?」


中篇賞 桧作富治作


第39期桧作氏作

桧作富治作(47年5月号)
2四金 1二玉 4五角 3四桂合 同角 2一玉 2二角成 同玉 2三金 2一玉
3三桂 同飛 4三角成 同飛 3二香成 1一玉 2二金まで17手詰
塚田九段「近藤孝作(5月号、31手詰)と中島平一作(3月号、31手詰)も有力な作品だが、本作は3四桂の中合を巧みに生かしており、収束もあざやかである」
この形を見れば、1二角、3二玉、2一角成、同飛、4四角成の筋がすぐに浮かびますが、以下2三玉、3四馬、1二玉……で逃がれます。この誘手があるので、初手の2四金という野暮ったい手が生きているのです。3二玉は4四角成、2一玉、3一香成以下なので、1二玉。続く4五角に3四桂の中合が手筋とはいえ軽妙。さらに3三桂から4三角成の収束も鮮やかの一語です。
肩のこらない好形好手順の佳作といえましょう。
作者「本作はこれといったねらいはなく、強いて取柄をあげれば、常識の裏をかいた初手と簡潔な形、割合スムーズなまとまり具合などで、凡作の域を出ないと思っていたのですが、かえってその点が買われたのでしょうか」


長篇賞 若島 正作「夢の浮橋」


第39期若島氏作

若島 正作(47年2月号)
3二銀行成 1二玉 2二成銀 同玉 3二銀成 ㋑1二玉 2二銀成 同玉 2四龍
㋺1二玉 6一銀不成 8二歩合 2一龍 1三玉 9三龍 8三歩 同龍 7三歩合
1四歩 同玉 8四龍 7四歩 同龍 6四歩合 1五歩 同玉 7五龍 6五歩
同龍 5五歩合 1六歩 同玉 6六龍 5六歩 同龍 4六歩合 1七歩 同玉
1九香 1八角合 5七龍 4七歩成 同龍 3七銀合(途中㋩図)

途中㋩図(44手目3七銀合まで)
第39期若島氏作1

途中㋩図より、同龍 同角成 1八香 同玉 2九銀 1九玉 2八角 2九玉
3七角 3八玉 2八龍 4七玉 4八龍 5六玉 7四角 6五香合 5七歩 6七玉
6八龍 7六玉 6五角 8五玉 7四角 同玉 6五龍 8四玉 7三角成 同玉
6四龍 ㋥8三玉 7二銀不成 同玉 6三龍 8一玉 8二歩 9一玉 9七香 同と
9四香 9二歩合 8一歩成 同玉 8三龍 7一玉 7三龍 8一玉 8二歩 9一玉
7一龍まで93手詰
塚田九段「今期も山田作が有力と見ていたが、若島作という充分対抗しうる作品が現われた。この作品は構想がすばらしい。6一銀の伏線手と収束手順の結ぶあたりに力が感じられ、相当の棋力を持っている作者である」
盤面は一杯に使っていますが、見るからに爽やかな配置。まず序奏は銀を捌くことから始まります。最初は4三銀を捨て、次いで4一銀を3二へ成り込みます。これを同玉では3四龍、3三合、5三銀成、8二合、4三成銀以下の詰み。二枚の銀を原型のまま消しておいて2四龍と回る。これも2三合なら2一桂成、1二玉、1一成桂、2二玉、2一成桂、1二玉、1三歩以下早いので、1二玉とかわす一手。ここで本局の主眼手”6一銀不成”が出現します。9二龍をバックにした開王手なので銀の動ける場所は5ヶ所。それも成・不成の二通りですから合計10通りの動き方がある訳です。その中で何故”6一銀不成”でなければならないか。その解説はあとの楽しみにして先へ進みましょう。
ともかく銀の開王手には8二歩合の一手。続いて2一龍、1三玉、9三龍となって本局のメイン・テーマが始まります。そうです、8三歩の突捨てです。歩以外の合駒なら同龍と切って1五香以下簡単(香は売り切れ)なのでこの意味は易しいものですが、この簡明なロジックで、8三同龍、7三歩、1四歩、同玉、8四龍、7四歩……と、文字通り”うたかた(泡)”のように浮んでは消える歩を捉らえながら銀が蛇行していきます。まったく夢のような趣向手順で「夢の浮橋」という題名も”むべなるかな!”と感嘆させられます。
ところでこの浮橋ですが、渡り終えるところでちょっと歩調をかえないとはまります。すなわち1七玉まで来て、同じ調子で5七龍とすると、4七歩成、同龍、3七銀合、1九香に1八合で逃がれるのです。4六歩合の残っているときに、さきに1九香と打って1八合をさせておかねばなりません。44手目(途中㋩図)の3七合の意味は、1八香、同玉、3六角、1九玉、1一龍、2九玉、1八龍、3九玉、4八龍引までの順を防ぐためです。
さて、この角・銀を奪って2九銀から2八角と打って、3七角の開王手で逆戻りの龍追いに入ります。57手目4八龍に対し3六玉は4六龍、2五玉、2六龍、3四玉、1六角、3三玉(4四玉は4五歩以下)、3五龍、2三玉、2四歩、2二玉、5五角、1三玉、2三歩成以下で、ぴったり詰みます。4八龍に5六玉と決まったところで7四角打に6五香合の一手。続いて5七歩から6八龍として、香筋の龍昇りに入ります。
そして74手目8三玉(途中㋥図)が問題の局面。

途中㋥図(74手目8三玉まで)
第39期若島氏作2

ここまで来て、序盤における銀の開王手が”6一銀不成”でなければならなかったことが、ようやく判るのです。この鮮やかな趣向手順をはさんで序奏の中で仕掛けておいた伏線が収束で生きてくる――長篇として完璧の構成といえます。しかもこの大きな構想を爽やかな駒配置で実現できたあたり、作者の棋力だけでない”何か”があったとしか考えられません。若島氏にとって畢生ひっせいの代表作といって過言ではないでしょう。
作者「遅効手(6一銀不成)を含めた複合趣向作。駒数が比較的少なくまとまったので清潔な感じのする作品となり、変化・紛れの強引なところなど、小生の作風が割によく出ている。命名の”夢の浮橋”は、もちろん藤原定家の名歌から採ったもの。実は前半の趣向部は伊藤喜和氏(果四段)の夢の中に現われたとか……。合駒の歩が次々と消えていくあたり、如何にも夢での趣向プロットという印象が強く命名にその含みを持たせたという訳。完全ならば小生の代表作かも知れない」


長篇賞 山田修司作「禁じられた遊び」


第39期山田氏作

山田修司作(47年3月号)
7六金 同角 7四金 6五玉 7六銀 同玉 8八桂 同と 7五金 同玉
5三角 6五玉 6四角成 7六玉 8六馬引 ㋑6五玉 7七桂 同龍 6四馬 7六玉
6八桂 同龍 8六馬 6五玉 5四銀 同玉 6四馬 4三玉 5三馬 3三玉
2四銀 同と 2五桂 同と 1五馬 同と 3九飛 ㋺3八歩合 同飛 同龍
3四歩 同龍 2二銀不成 同玉 3一馬 同龍 2三金 2一玉 3一と 同玉
3三飛 4一玉 3二飛成まで53手詰
塚田九段「桂合いを避けるための構想はさすがで、秀れた着想を実現させる手腕は見事である。きびしく評価するならば収束手順において氏の力量が充分発揮されていないようである」
しばらく鳴りをひそめていた山田修司氏が久々に新構想の会心作で登場。当然のごとく長篇賞をかっさらってしまいました。
その新構想とは?序盤のやりとりがあって、16手目(途中㋑図)の局面を見てください。

途中㋑図(16手目6五玉まで)
第39期山田氏作1

ここで5四銀、同玉、6四馬以下、作意順の通り追える訳ですが、そうすると3九飛と回ったとき(途中㋺図参照)、

途中㋺図(38手目3八歩合まで)
第39期山田氏作2

6八龍でなく5七龍の形なので、3七桂合となって詰みません。6八龍の形ならば桂合ができないので歩(または香)合を余儀なくされ、2二銀の軽手で収束する――というものです。
そこで、㋑図に戻って、ここで7七桂、同龍、6四馬、7六玉、6八桂、同龍(8七玉は9七馬、7八玉、6九馬、6七玉、5六銀以下)、8六馬(同玉は6八馬以下)、6五玉と二枚の桂を巧妙に使って、5七龍を6八へ移動させておくわけです。
“八段目には桂が打てない”という禁手を逆用した、このような伏線手は、詰将棋の歴史始まって以来の新手であり、物理学の世界で新元素を発見するのに匹敵する業績といえます。つねに新手筋の開拓を志ざす作者の数多い傑作の中でも、ひときわひかり輝やく歴史的な名局といえましょう。
作者「序盤、二枚桂捨の伏線手で、七段目にいる玉方の龍を八段目にずらしておき、将来の桂合を回避するというネライで、新手(構想)と思います。普通、桂合をさせないためには玉方に桂をわたさないようにするのですが、この作の場合、何枚わたしてもかまわないのがミソ。表題は二上八段の命名です。持駒を含めた構図、序終の脚色など、当初夢に描いたことを盤上にほぼ表現することができました。さらに欲をいえば、龍の移動を生飛車のナラズナラズといく大回転にしたかったのですが、うまく構成できず、その点が僅かに心残りでした」



「夢の浮橋」は「盤上のファンタジア」第96番、「禁じられた遊び」は「夢の華」第82番にそれぞれ収録されています。


今回の更新で、塚田賞受賞作は70期分を掲載したことになります。残りは30期、まだまだゴールは遠いです。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

hirotsumeshogi

Author:hirotsumeshogi
少ない知識をフル活用させています。
当ブログはリンクフリーです。
相互リンクは詰将棋関係のものであれば原則受けさせて頂きます。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カウンター
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR