塚田賞作品の魅力(20)(近代将棋昭和54年2月号)①

森田銀杏氏の連載「塚田賞作品の魅力」、第20回も2つに分けて掲載します。
今回は第34期の受賞作を掲載します。
怪人、OT松田氏が連続受賞

第34期塚田賞受賞作家
短篇賞 OT松田
中篇賞 山田修司
長篇賞 なし
昭和44年7~12月号


塚田九段の「巻頭詰将棋」は、26年9月号(通巻18号)に「今月の新題」として登場以来、長年にわたって本誌の”顔”のように親しまれてきました。ところが、ご病気で順位戦も休場されたこの年、8月号から12月号まで、これを休んでおられます。この間、無鑑査作家ら(北原・植田・柏川・金田・駒形)の競作で、この「巻頭詰将棋」は続けられました。
また、この年の話題として、本誌7月号の別冊附録「不思議な詰将棋」、12月号の「カッコいい詰将棋」があります。前者は珍らしい作品ばかり、後者は盤面5枚以下の”スッキリ図式”の好作を揃えたもので、いずれも森敏宏氏の編。これらは後にまとめられて、「ポケット詰将棋――名作一五二番」として近代将棋社から発行されました。
この期、大型新人のOT松田氏が大作を連発してセンセーショナルに初登場。ところが長篇分野では山田修司氏の市松煙「我が家」が唯一の有資格作品という淋しさでした。同氏が中篇で受賞されたこともあって、この期ついに長篇は”受賞作なし”と決まりました。


短篇賞 OT松田作


第34期OT氏作

OT松田作(44年10月号)
8六金 9四玉 5八角 同龍 8五金 9三玉 5七角 ㋑6六角合 9四歩 9二玉
2二飛成 同角 9三角成 8一玉 8二馬まで15手詰
塚田九段「つぶさに検討した結果、本作が群を抜いている。これは短篇というより、中・長篇の構想である。新人であるとすれば、まさしく”看寿の再来”といってもほめすぎではない」
盤面は広いが、簡潔な構図。二度の限定打ち(同龍なら9九飛)が狙いで、短篇には珍しくスケールの大きな構想です。5七角に対して、6六角(途中㋑図)

途中㋑図(8手目6六角合まで)
第34期OT氏作1

という中合がとび出すのが、さらに驚き。これで2二飛捨の好手が生れて鮮やかに収束します。
作者は、7月号に百四十五手詰(斜龍追いで並び歩を発生させ、馬鋸でこれを取り払う複合趣向)の大作で初登場。その変ったペンネームとともにセンセーションを巻き起こしました。本名は佐藤完二郎といい、新潟県小千谷市の住人。珍らしい中年狂い咲き(?)の一人ですが、秘められたパワーと新感覚は詰棋界にとって久々のヒット・ニュースでした。12月号の57手詰(二度の香打換えの伏線構想)も力作でしたが惜しくも潰れ。しかしこの短篇での受賞で面目をほどこしました。
作者「本作は中篇を短篇に縮めたもの。いろいろと欠点もあり、森さんの評にある”飛車すじの角捨て、古作にあり”を知って、まこと”日の下に新しきものなし”と思いました。ペンネームの由来は、どうせ私共の将棋と来た日には”王手!” ”待った!”の連続ものですから……。最近余詰が続くので、OT・シマッタと改名したものかと、首をひねっています」


中篇賞 山田修司作


第34期山田氏作

山田修司作(44年11月号)
4二飛 5一玉 6三桂 同金 Ⓐ5九香 同と 5三香 同金 4一飛成 6二玉
6一龍 7三玉 7二龍 8四玉 9四角成 同玉 9二龍 9三金合 8三銀 9五玉
9三龍 8六玉 8七銀 同玉 Ⓑ9六龍 8八玉 8九金 同玉 9八龍 7九玉
8九金 6九玉 7八龍まで33手詰
塚田九段「やはり今期も山田修司作がとび抜けた存在だ。このように次元の違う作品では太刀打ちできない。文句なしに決定した。他では山中龍雄作(9月号、23手詰)が面白く、植田尚宏作(8月号、27手詰、飛角図式持駒金四枚)も貴重な作品。今期中篇は仲々のつぶぞろいであった」
いつもながら溜め息の出るような構想。いくら”香は下段から打て”という格言があるとはいえ、4九との利きにわざと打つとは!そして、これが30手も後の最終手において退路をふさぐための伏線――というのですからなおさらです(途中Ⓐ図)。

途中Ⓐ図(5手目5九香まで)
第34期山田氏作1

ところが、このような着想ができても、それを作品として実現することは並大抵ではありません。というのは、5九香の場合の変化は詰むが5八香なら逃れる――という手順がとてもつくり出せるものではないからです。本作の場合、5八香には、5七歩合、同香、5六歩合、同香、5五桂合という三段中合の絶妙の防手でこれを逃れるように構成したあたり、神業のように思えます。すなわち、以下、5五同香、5三歩合、4一飛成……と作意同様に追って、8六玉のとき9七金、7六玉、8七金、6六玉(参考図)

参考図(6六玉まで)
第34期山田氏作2

となってみれば、最初の5八香打に対して、さきほどの三段中合のどれを省いていても詰むことが納得いくでしょう(5八香、5七歩合のとき5五香と打つのも危い順ですが、以下5四桂合、同香、5三桂合、同香、同金、6三桂、同金、5七香、5六歩合、同香、5五桂合、同香、5三歩合……と、同じような中合を連発して僅かに逃れます)。ところが5九香打の場合だけは、どこに中合をしても作意と同様に進んで7九玉のとき、7八金、6九玉、8九龍までの詰みがあるのです。
遠打ちのカラクリはこのように明快なものですが、これを少しでもカモフラージュするために、三段中合といった頭のこんがらかるような逃れ順を設けたものでしょう。そして5九香の遠打ちに続いて、5三香の短打が対照的な手順の妙味。しかも、6三桂で蓋を開けて主眼手の5九香を放ったあと、再び蓋を閉める――といった面白い味もあります。その後、伏線の効果の現われる下段までのつなぎの手順においても、9三金合や9六龍(途中Ⓑ図)

途中Ⓑ図(25手目9六龍まで)
第34期山田氏作3

といった軽手を沿えて、飽きさせないのはさすがです。本格的な構想型中篇の秀作で、山田氏にとっても代表作の一つといえましょう。
作者「遙かに玉を望む盤上の一手に発止!と駒を打ちすえる男性的な豪快さがたまらない魅力で、色々な遠打の作品を作りました。本局は”香は下段から打て”という通念があるため、遠打の感じをアピールする構成として、玉方の駒が利いていない中段に打った場合は詰むようで詰まず、最下段のと金の利きに打ったときだけ詰む……という形を考えてみました。でき上ってみると、桂香香を序盤に使い切ってしまうのが伏線の味となり、途中の運びや紛れ順なども、ほぼうまくまとまって、私にとっては上出来の部の作品となりました」



山田氏作は「夢の華」第73番(「伏線遠打」と命名)に収録されています。
なお、後に余詰が発見されており、7四歩→7四金で修正となっているそうです。
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