塚田賞作品の魅力(17)(近代将棋昭和53年11月号)②

森田銀杏氏の連載「塚田賞作品の魅力」、第17回の続きです。
今回は第29期の受賞作を掲載します。
第29期塚田賞受賞作家
短篇賞 谷口 均
中篇賞 柏川悦夫
    北原義治
長篇賞 小林正美
昭和42年1~6月号


この頃、山田修司氏の「名局リバイバル」のほかにも、北原義治氏の「詰将棋考」や、清水孝晏氏の「詰将棋楽がき帖」など、本誌には、詰将棋に関する楽しい読物が満載されていました。その影響を受けてか、戦後生れの有望な若手作家が続々と参入してくるようになりました。この期、初受賞の栄に輝いた短篇の谷口均氏も、当時の新進の一人です。


短篇賞 谷口 均作


第29期谷口氏作

谷口 均作(42年4月号)
2六金 同玉 1七角 1六玉 2六金 同歩 3九角まで7手詰
塚田九段「最近の短篇には、技術的には巧いのだが迫力がある作品は少くなっている。そんな中で本作は不動駒も多く、作品的に未熟な処もあるが、まぎれがあり金捨てから最終手の軽妙な味が面白い」
初手、各所から角を打つ紛れがあって、歩頭の2六金打捨ては好手。続く1七角打が対照的に野暮ったいような軽手です。最後に金も打捨ててしまって3九角と引く詰上りが本局のハイライト。前半に、飛車は4筋の守り駒と印象づけておいた効果でしょう。
本作で一流作家にのし上った谷口氏は、その後も短篇一本槍で精進して入選回数をぐんぐん伸ばし、今では、次の同人作家入りの最有力候補者になっています。いつまでも新鮮な感覚を保ちつづけているのも立派です。
作者「本作、3九角という、割に新鮮味のある手から逆に出発し、二枚金の打捨てでもってまとめたわけですが、5手目の金捨てが持駒を使い果すということで、次の3九角と呼応して心理的に指しづらい一手となったようです。初形は、7手としては駒数の少ない入玉実戦型(新語?)に仕上げられました」


中篇賞 柏川悦夫作


第29期柏川氏作

柏川悦夫作(42年1月号)
2二飛 4一玉 5二銀 3一玉 4三桂 同飛 4一銀成 同玉 5二角 3一玉
3二歩 4二玉 4一角成 同玉 3一歩成 同玉 6二飛成 1三香 3二金まで19手詰
塚田九段「構想の妙もさることながら、19手と短くまとめた処など、ひそかに感服している、作りようによっては長くなる危険性があるからである」
初手は2二飛打しかない。4三玉は3二角、5二玉、5四角成以下。4一玉ときまってからは、狭いところなので手は限られているのに詰み筋は見当がつきません。銀を角に打ちかえたりして捌いているうちに、3一玉の形で6二金を素抜きする手順になれば幸運。ここに至って、5二に打った銀や角が、その度に邪魔駒になっていたので、これを消去するカラクリであったことに気づきます。実戦型で捌きの作品のように見えて、順番に解きほどいていかないと開かない箱根細工のような構想の佳作です。
作者「本作、中篇としては小味な作品ですが、全体としてすっくり纏っているところが受賞の対象になったものと思われます。この図は私好みの作品で、あるいは……という気も少々あっただけに喜んでおります」


中篇賞 北原義治作


第29期北原氏作

北原義治作(42年1月号)
4六馬 2六玉 2三飛 同銀 3六馬 1五玉 4五飛 同歩 2六銀 2四玉
4六馬 ㋑3五飛合 1六桂 同馬 3五馬 1四玉 1五香 同馬 同銀 同玉
5九角 4八と 同角 同桂成 1六歩 同玉 2六飛 1五玉 2五馬まで29手詰
塚田九段「完成された図といえる。巧妙の一語につきるが、柏川作とまた違った美的な雰囲気がある」
初手4五馬は当然の手ですが、2六玉の時2三飛と守備駒の真中にほうり込むのが局面打開の妙手。続いて3六馬から2六銀と詰み形に追い込む前に4五飛と捨てておくのが本局の中心手でしょう。これは後に5九角打を可能にするための伏線手なのです。後半は4六馬寄の軽妙手に、玉方も飛合(途中図参照)で防戦。

途中図(12手目3五飛合まで)
第29期北原氏作1

収束は5九角打で歩を入手してようやく詰上ります。4六馬寄のような単純な素材にこのように技巧を凝らしていくところがこの作者のお得意とするテクニックです。
作者「前期の長篇賞作品がまさに苦心の固まりであったのに較べれば、まるで簡単にできちまった作です。着想~完成が約一ヶ月、延べ時間に運の神の味方を得るあたり、やはり僕の最も住み易いのは中篇なのかも知れません」


長篇賞 小林正美作


第29期小林氏作

小林正美作(42年2月号)
2三桂 1二玉 2二金 同玉 3一角 2三玉 1二角 2四玉 1三角成 2五玉
3四角成


途中Ⓐ図(11手目3四角成まで)
第29期小林氏作1

3六玉 3五馬右 4七玉 5六馬 5八玉 5七馬右 6九玉 6八金 7九玉 Ⓑ7七金

途中Ⓑ図(21手目7七金まで)
第29期小林氏作2

8八玉 7九馬 7七玉 7八馬右 8六玉 9七馬 9五玉 9六馬右 8四玉
7五馬 8三玉 9三金 同金 7四馬左 8二玉 9三馬 Ⓒ9一玉

途中Ⓒ図(38手目9一玉まで)
第29期小林氏作3

9二金 同飛
同馬左 同飛 7三馬 8一玉 9三桂 同飛 8二飛 9一玉 8三飛成まで49手詰
塚田九段「有田辰次氏作(5月号、53手詰)と近藤孝氏作(6月号、55手詰)、どちらも飛不成の主題で巧みな構成ぶりだが、作品のユニークな点で、本作に軍配が上る。二枚馬の趣向は新手というわけではないが、無仕掛図式で構成された点、高く評価できる。個々の手としては21手目の7七金が妙手。これで手の継続をはかった処など本作成功の因である」
盤面一杯の無仕掛図。2三桂打~2二金打で手掛りをつくります。1三玉なら4六角打(中合は銀しかできない)なので2二同玉。続いて3一角打~1二角打で、ようやく作者の趣向が姿を現わしました。1三角成~3四角成(途中Ⓐ図)と、取れば金打の詰みを含みにした、軽妙な”二枚馬追い”の趣向なのです。以下、斜めに馬二枚が稲妻のように走って6九まで玉を追い落し、6八金と打って7七金(途中Ⓑ図)と開くのが巧妙なコーナー・ワーク。今度は縦に9一まで追い上げて(途中Ⓒ図)終焉します。
作者は、指将棋も強い(アマ五段)という実力作家で、16、17期にも連続受賞をしたことがあります。16期の短篇賞の作品が二枚馬を鮮やかに捌くのが主題でしたが(4月号参照)、本作は同じモチーフを長編趣向に発展させたもので、珍らしいプロットということで当時の話題作になりました。
ところが最近出版された門脇芳雄氏の編纂になる「続詰むや詰まざるや――古典詰将棋の系譜」(平凡社刊)を見て驚きました。江戸時代の趣向詰の第一人者、久留島喜内のあまり世間に知られていない「橘仙貼璧」という作品集の第百十八番(65手詰)に、殆ど同じ”二枚馬追い”の手法が使われていたのです(参考図、詰手順省略)。

参考図「橘仙貼壁第118番」


第29期参考橘仙第118番

しかし、小林氏作は”無仕掛”で構成したところが新機軸で、秀作であることには違いありません。



柏川氏作、4手目同歩の変化が長手数となるようです。
「詰将棋半世紀」盤上流転第49番への収録時には、玉方4五歩追加で修正されています。

北原氏作は初手3八飛でも詰んでしまうと既に指摘されています。
ただし、修正は可能のようです。

小林氏作は何かで「駅馬車」と命名されているのを見たことがあります。
参考図の橘仙貼璧第118番は45手目7九馬でも詰んでしまうようです。
なお、塚越良美氏による修正案があります。興味のある方は「詰将棋博物館」でご覧頂ければと思います。
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小林正美作品

好きな作品の一つです。最後、攻方最小駒数で詰め上がるのも素晴らしい。
偶然ですが、小林氏の作品で同じく長篇賞を受賞した「鯉の滝登り」も49手詰ですね。
狙って揃えた訳ではないと思いますが。

名無しさんへ

詰上り2枚、言われてから気が付きました。

49手詰で揃えた訳ではないと思いますが、七條氏のように狙って揃える方もいるようですね。
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