塚田賞作品の魅力(15)(近代将棋昭和53年9月号)②

森田銀杏氏の連載「塚田賞作品の魅力」、第15回の続きです。
今回は第26期の受賞作を掲載します。
第26期塚田賞受賞作者
短篇賞 井上雅夫
中篇賞 柏川悦夫
長篇賞 森 敏宏
昭和40年7~12月号


この年、5月9日に全国詰将棋連盟がはじめての東京大会を開きました。会場になった上野の七條兼三氏邸には全国から百名近い詰将棋愛好家が集り、本誌の永井社長も出席して祝辞を述べられました。
“詰将棋パラダイス”と”近代将棋”――戦後の詰将棋黄金時代は、まさにこの二誌によって築かれたといっても過言ではないでしょう。


短篇賞 井上雅夫作


第26期井上氏作

井上雅夫作(40年7月号)
1七歩 2六玉 3六金 2七玉 4六金 2六玉 3六飛 2五玉 2六飛 同玉
3六金 2七玉 2五金まで13手詰
塚田九段「何といっても井上氏の作品が光っている。4六金のフクミは仲々のものであり、金の妙手を存分に見せてくれる。作者快心の一手と思う」
3六飛から2六飛で2五歩の消去をはかり2五金のソッポ行きの軽妙な詰上りですが、2六飛に対する3五玉の逃れに備えて、一旦3六金打から4六金と盤面に据えておくのが本作のポイントです。
作者の本名は井上富太氏。解答番付で横綱にもなったことのある舞鶴の実力者ですが、指棋派には珍らしく、金や竜のソッポ行きなど構想的な作品をいくつも発表されました。


中篇賞 柏川悦夫作


第26期柏川氏作

柏川悦夫作(40年11月号)
3四香 2二玉 3二香成 同玉 4二飛 3三玉 2二銀 2四玉 2七香 2六角合
同香 同銀 4四飛成 1五玉 1四竜 同香 1六歩 2四玉 1三角まで19手詰
塚田九段「今期は優秀な作品が多く非常に迷った。その中でも特に選ぶとすればやはり本作と山田修司氏作(7月号、35手詰)であろう。本作は形が自然で手順も妙味があって無理がない。とくに1四竜の一手には感服した。私の好みとしてこれに決めた」
先日、何年ぶりかで柏川氏を訪ねました。四冊目の作品集「詰」を出版して、今もなおコツコツと創作を続けておられる真摯な態度には今更ながら感服。着想してから仕上げるまで、推敲に推敲を重ね、しかもできるだけ自然な形にもって行く(作者のこれまでの数百の作品のうち、中段玉は約一割、入玉図は数えるほどです)。今もなお、上段玉ばかりで新鮮な感覚の手順を発掘し続けておられるのは敬服のほかありません。
本作も、2二歩消去から角合を得て1四竜切りの豪快な手順を、全く無理のない自然な形で実現した、柏川芸術の典型のような快作といえます。
作者「本作は偶然に発見した素材――2四玉の局面で2七香に2六角合で不詰とばかり思っていた手順で、1四竜といういい感じの一手で詰むことを発見し、割合短時間で完成した作品です。中篇としては小型軽量でしょうが、棋形・手順・詰上りなど、割と欠点のない作品と思っております」


長篇賞 森 敏宏作


第26期森氏作

森 敏宏作(40年12月号)
5三香成 同飛 6九香 6八歩合 同香 6七歩合 同香 6六歩合 同香 6五歩合
同香 ㋑6四歩合

途中㋑図(12手目6四歩打まで)
第26期森氏作1

6三歩 5二玉 6二歩成 同玉 6四香 5一玉 5二歩 同玉 5三と 同玉
6三香成 5四玉 6四飛 5五玉 5六歩 同玉 8六飛 5七玉 5六飛 同玉
1二角 ㋺2三銀合

途中㋺図(34手目2三銀打まで)
第26期森氏作2

同角成 同歩 4七銀 5五玉 5六歩 4五玉 5八銀 4六角合 同香 同玉
1三角 ㋩2四銀合

途中㋩図(46手目2四銀打まで)
第26期森氏作3

同角成 同歩 4七歩 4五玉
4六銀 5六玉 5七銀引 4五玉 4六歩 5五玉 6七桂まで57手詰
塚田九段「今期は森君のがずば抜けて良かった。一言でいうなら”完成品とはいえない快心作”だろう。正に金鵄勲章ものだ」
3手目6九香打に対して、6八から6四まで、香頭に5回の歩中合をするのが本作の主題(6八歩は角の利きがあるが、この場合は中合といってもよいでしょう)。毎回、香頭へ直接打つ以外の合駒があり、その変化はすべて異っていて難解です(詳述する根気もないし、読まれる方もないと思うので省略します)が、いずれも6三とで詰みます。
6四歩合(途中㋑図)まで来たとき、調子に乗って同香とすると6三歩合で不詰。一旦6三歩、5二玉、6二歩成と、5二歩を消去しておくのが第二主題です。今度は6四香に6三歩合なら5三と、同玉、6三香成、5四玉、6四飛、5五玉のとき5六歩打が可能になります。これによって、6四香には5一玉の一手となり、再び5二歩と打つ微妙な手順の綾まで生じています。
上部へ追い出してからは、二度にわたる遠角で銀を手に入れる(途中㋺図および㋩図)のが第三主題で、作者としてはむしろこの方が目にとめてほしい手順だったようです。
本作は遠打に対する連続合駒の記録、即ち山田修司の四桂合(38年11月号、63手詰。第22期塚田賞受賞作)をこえる”5回歩中合”の新記録作品です。作者としては6三歩合まで続けて6回にすることもできたのでしょうが、どうせそのうちに最高の7回が創られて記録は破られる――ということから、むしろ6四歩合でとめて、6三歩打による5二歩消去の第二主題を織り込んで詰棋としての価値の方を重視したのでしょう。その意味で、本作は変化読みの煩雑さだけの残る記録作品でなく、高級手筋まで組み込まれた秀作といえます。
作者「本局は渡すの数少い作品中、最も苦心したしろものだけに感慨もまた一しおです。連続中合という主題の挫折が幾度となくあり一時は実現不可能では、と思ったほどです。一つの駒に対しての連続合駒は七回まで可能ですから近いうちにこの記録は破られるでしょう。だから連続合より、5二歩消去の味と遠角の手順の方にも目をとめてほしいわけです」
作者の予言の通り、その後”7回連続合駒”の作品は、次の三局が誕生しています。
①山中龍雄氏作(本誌43年6月号。1六飛に対し2六~8六まで歩の横7連合)
②森田拓也氏作「北斗」(詰将棋パラダイス46年9月号。7九香に対し歩の縦7連合)
③七條兼三氏作(本誌52年6月号。2九香に対する歩の縦7連合)

×   ×   ×

本稿第13回(7月号)で紹介しました駒場和男氏の複式馬鋸の大作「御殿山音頭」は、実は二度目の鋸引きのとき、例えば93手目の5五馬に対し6四歩突(参考図)という絶妙手があって不詰でした。

参考図 駒場和男作「御殿山音頭」
(93手目5五馬に対する6四歩突の変化)
第22期駒場氏作補足2

即ち以下、同馬、8二銀、9二歩、同玉、8二馬、同と、8三銀、9三玉、8二竜、8四玉、9四銀成に、7四玉で逃れてしまうのです。
このことは、作者自身が詰将棋パラダイス42年9月号に「指摘者は不明だが……」ということで発表しておられます(本作は石村真、飯田岳一両氏からの通報で確認、深謝いたします)。
早速、作者に問い合わせたところ、「修正するのは容易」とのことなので、ぜひ完成図を再発表して下さい。なお、”御殿山”とは作者の故郷、栃木県鹿沼市の鹿沼城趾のことだそうです。



柏川氏作は「詰将棋半世紀」盤上流転第39番に収録されています。

次回の更新は、「塚田賞作品の魅力」とは異なるものを予定しております。
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