塚田賞作品の魅力(15)(近代将棋昭和53年9月号)①

森田銀杏氏の連載「塚田賞作品の魅力」、第15回も2つに分けて掲載します。
今回は第25期の受賞作を掲載します。
抬頭してきた新勢力

第25期塚田賞受賞作者
短篇賞 有田辰次
中篇賞 酒井克彦
長篇賞 松井秀雄
昭和40年1~6月号


五期連続受賞の空前の記録を達成した山田修司が、この期も、短・中・長の全分野で首位を争いましたが、抬頭してきた新勢力についに阻まれました。それにしても、長・中篇における山田修司氏、中・短篇における柏川悦夫氏、この両巨匠の大活躍は目を瞠らせるばかりで、有能な新人達に挑戦する目標を与え、詰将棋界を大いに刺激して、その興隆をもたらしたといえます。
ついでながら、この年の新年号から、それまでの”翌々月解答発表”を改め、”次号解説”という画期的な制度に切りかえられました。名神高速道路が開通し新幹線が走るようになって、世はスピード時代。将棋雑誌の編集にも世相が反映したのでしょうか。


短篇賞 有田辰次作


第25期有田氏作

有田辰次作(40年5月号)
4三馬 2三玉 2四銀 1四玉 2六桂 同銀 2三銀不成 1五玉 1四飛 同香
1六歩 2四玉 3四馬 1三玉 1二銀成まで15手詰
塚田九段「解いてみようという気を起させる。これは短篇に限らず大切なことである。その意味でも山田修司氏作(2月号、13手詰)、酒井克彦氏作(5月号、15手詰)と本作が特に印象に残った。本作は、全体に無理がないし作品が練れている。きわだった手はないが、一手一手にコクがあり、簡素な形で紛れを持たせたあたり、仲々玄人っぽい。奇をねらわずとも良い作品が出来る、という好見本である」
簡潔な構図で、とりつき易い形。しかも、4二馬から3一馬、2四桂から4一馬、あるいは3三歩など、いかにも詰み筋らしい紛れがいくつもあって、初手4三馬から2四銀といく重い手は、なかなか指せないものです。以下、2六桂、同銀としておいての2三銀生は、従来のような手筋から組立てていく作図感覚にはない手です。
「有田辰次」というのは実はペンネーム。千葉県で有数の指し手として知られる加藤玄夫氏が作者で、棋力のある作家によく見られる、形から詰筋を掘り出していく作風ではありますが、その独得な感覚でもって、この受賞を契機に大いに活躍されました。
作者「遅作の私としては偶然の助けもあって、割合に短時間で完成した作品です。実戦に現われたとしてもおかしくない自然な形を――という私の好みの点からも良く出来たと思っています」


中篇賞 酒井克彦作


第25期酒井氏作

酒井克彦作(40年3月号)
1六銀 2八玉 2九金 1七玉 3七飛 2七歩合 同飛 1六玉 1七歩 2七玉
Ⓐ6三角 5四歩合 同角成 1七玉 2六銀 同玉 3六馬 1五玉 1六歩 同玉
1七歩 1五玉 1四馬 同玉 2四金 1五玉 2五金まで27手詰
塚田九段「中篇ではクセのある作が多かったが、やはり山田氏作(1月号、31手詰)と本作がずば抜けていた。酒井君のは5四歩合に新らしさがあり、変化にも不成などがあって、まことに巧く出来た作品である。変にひねらないで自然にまとめたあたり、作者の成長ぶりがうかがえる」
2七歩の変則合も織り込んだ軽い序奏から6三角(途中Ⓐ図)と打ったところが本局のヤマ場。

途中Ⓐ図(11手目6三角打まで)
第25期酒井氏作1

すぐに1七玉と逃げ、1八金、1六玉、2七角不成、1五玉、1六歩、2六玉、3六とまでの偽作意を解答した人が多かったようです。
ここで本局の主眼手、5四歩打という”態度打診の中合”がとび出します。これに対し同角不成なら3七玉と逃げられるので成る一手。つまり、この場合は”成りを強制して打歩詰に誘う”という意味の中合です。
この構想は、詰将棋パラダイス誌(32年4月号)に筆者も発表したことがありますが、作品例はきわめて稀で、しかも本作の場合、5四角成としてからの手順が、さきの変化順とは全く変って2六銀の軽手や1四馬の英断を含んだ鮮やかな詰上りになるところが見事です。また変化に必要な4八歩が、5四歩の打場所限定にも役立っているのも幸運で、僅かこれだけの駒でこのような高度なプロットを実現したあたり、”完成品”ともいうべき名作です。
作者「本局のねらいは勿論12手目5四歩合の一手で、いわゆる打歩詰誘致が目的の中合で、割と目新しいんではないかと思います。作図もここから始めたわけですが、中合を見落として1七玉と逃げた場合の順が持駒も余らず、作意らしく見せられた点、一応うまくいったと思います」


長篇賞 松井秀雄作


第25期松井氏作

松井秀雄作(40年2月号)
1六飛 2九玉 1九飛 同玉 3七角 同金 1八金打 2九玉 2九金寄 同金
同飛 ㋑3九玉 3八金打 4九玉 4八金寄 5九玉 5八金寄 6九玉
6八金寄 7九玉 7八金寄 6九玉 6八金打 5九玉 5八金寄 ㋺4九玉
4八金打 3九玉 3八金寄 4九玉 4八金左 5九玉 2九飛 3九金合 同飛 同桂成
5八金打 6九玉 6八金右 5九玉 5八金右 4九玉 4八金右まで43手詰
塚田九段「今期は本作が特に良かった。今までこのような詰上りが現われなかったのが不思議なくらいである。4七桂の発見には絶賛の拍手を送りたい」
12手目3九玉となったところ(途中㋑図)で金やすりの趣向が出現。

途中㋑図(12手目3九玉まで)
第25期松井氏作1

3八金以下7八金まで送ったところで折返して二枚目の金を打ちます。あとは簡単のようですが、迷路に入るとどうしても金が一枚不足します。26手目(途中㋺図)で4八金と打ち、

途中㋺図(26手目4九玉まで)
第25期松井氏作2

33手目に2九飛と引くのがこのパズルの鍵で、合駒の金が手に入り、四枚金のチェーンができて鮮かに詰上ります。

詰上り図
第25期松井氏作3

作者「本局はまず2九玉に攻方1八飛持駒金三枚で出発しましたが、余りに曲がなく、余詰まであって約半年オクラになっておりました。偶然4七桂の配置を発見し、後は逆算で完成図を得た訳です。自分でもかなり苦心しましたので、入選した時の喜びはまた一入でした」
入玉型での”金鎖”という奇抜な詰上りが評判になり、山田修司氏の巧妙な飛竜回転追い趣向(5月号、63手詰)や、珍品詰将棋として特別出題された駒場和男氏の小駒煙詰第二号「驟雨」(同、101手詰)を抑えて、幸運にも入賞しましたが、実はこの詰上りは前例があったのです。戦前からの詰棋界の重鎮で詰将棋芸術論の草分けとして、また理論家としても知られる里見義周氏が26年に出版された自選集「闘魚」第37番(参考図、49手詰)がそれで、さすがの塚田九段も見落しておられたものと思われます。

参考図 里見義周作「闘魚」第37番
第25期参考里見氏作

松井氏もこの図を知らずに創作されたに違いなく、僅かの駒数で金やすりの趣向的手順を強調したあたり全く別の作品といえます。しかし、その珍しい詰上りが受賞のポイントとなったのですから、残念なことでした。このショックの故かどうか、センスある作者がその後あまり作品を発表されなくなったことは惜しまれます。



酒井氏作は「からくり箱」第21番に収録されています。
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