塚田賞作品の魅力(14)(近代将棋昭和53年8月号)②

森田銀杏氏の連載「塚田賞作品の魅力」、第14回の続きです。
今回は第24期の受賞作を掲載します。
第24期塚田賞受賞作家
短篇賞 南 倫夫
中篇賞 柏川悦夫
    山田修司
長篇賞 山田修司
特別賞 古内正孝
昭和39年7~12月号


山田修司氏がまたまた受賞、ついに五期連続の大記録を達成しました。しかも中篇と長篇の二部門同時受賞ですから、さらに驚きです。また、特別賞の古内正孝氏も、前期に続いての連続受賞は立派でした。
中篇賞の柏川悦夫氏は入選百回目の作品での受賞。北原、植田の両氏につづき三人目の偉業です。近代的なセンスあふれる格調の高い中篇をはじめ、”謎解き”である詰将棋の本質を絶えず追求して来られた矜持は、作家の鑑といえます。


短篇賞 南 倫夫作


第24期南氏作

南 倫夫作(39年8月号)
3二歩 4一玉 4二歩 同角 3一歩成 同角 7四角 3二玉 2二桂成 同角
4一角成 同玉 4三香 3二玉 4二香成まで15手詰
塚田九段「形がよい上に、なんとなく詰まし難いところがある。中心手というものはないが、一手一手の抵抗感が玄人好みであり、スキのない手順も印象に残った」
さっぱりした実戦型。金銀を使わない”貧乏図式”で、しかも持駒が香と歩だけなので易しそうですが、軽い捌きの中にも変化があります。とくに3一歩成を同玉と取ったときの2二桂成から4二竜の俗手が気づき難く、また3一同角の本手順では7四角と、それまでの思考線と逆の方へ展開するのも意外性があります。玉方の角がぐるりと一回転する趣向的な手順がさらに味をそえており、簡素な棋形とともに素晴らしい構成です。
作者「本局は私の好みの作で、終盤にかかるまで如何にして紛れを持たせる手順に仕立てるかに苦心しました。駒数、図柄といった点でも、一応成功作と思っています」


中篇賞 柏川悦夫作


第24期柏川氏作

柏川悦夫作(39年8月号)
3二飛成 1二玉 2一銀 1三玉 1四歩 2四玉 3六桂 同飛 3四竜 同飛
2五歩 2三玉 1三歩成 同馬 3二角 同飛 同銀 3四玉 2三銀 同歩
3二飛 3三角合 同飛成 同桂 5六角 4五歩合 同角 同桂 3五歩 同馬
3三銀成まで31手詰
塚田九段「柏川氏の百回記念作は、仲々意欲的な作品であり、打歩詰をひとひねりして逃れ筋に妙手を入れたのは、詰将棋の行きづまりを打開する一手法として、高く評価したい」
前半、2五歩あたりまでは作者の意図が全くつかめないまま捌いている感じ。1三歩成を省いても3二角打、同飛、同銀、3四玉と追えます。ここで2三銀と捨て、3二飛打で持駒が角に替わって7八角(参考図)とすれば4五歩合の一手となり、同角以下3五歩と打って29手詰――というは、作者の設けた陥穽、つまり”擬作意”なのです。

参考図(7八角まで)
第24期柏川氏作1

参考図では5六(または6七)馬という絶妙の受けがあって、3五歩が打歩詰になって逃れるという訳です。これを避けるのが13手目の1三歩成で、同馬と呼んでおけば、この逃れ順がなくなる――という、きわめて手のこんだ打歩詰回避の構想で、新機軸のトリック作品といえます。
ただ、このような”逃れ作品”の宿命として、本作の場合も、肝腎の1三歩成を行きがけの駄賃とばかり手拍子で指されてしまうと評価されなくなる可能性があるのは惜しまれます。もう一つ、5四歩と6五歩が妙防を生み出すための置駒であって、作意手順では不要――という純理論上の問題もあります。
ともあれ、つねに新らしい主題を探求する作者の、入選百回を記念する特別出題にふさわしい力作でした。


中篇賞 山田修司作


第24期山田氏作1

山田修司作(39年8月号)
4三桂 4一玉 5二と 同玉 4一角 5三角 5一飛 5二桂合 Ⓐ同飛不成 6三玉
8二飛成 5三玉 5二竜 4四玉 3四銀成 同銀 4五歩 同銀 同銀 同玉
4六銀 3六玉 3二竜 同歩 6三角成 同馬 2八桂 2六玉 2五金 同桂
2七歩 同馬 1五銀まで33手詰
塚田九段「山田氏の作も柏川氏と同様、打歩詰の作品だが、打開方法に新鮮さがあり、本格的な中篇である。3二竜から6三角成なども近ごろ忘れがちである詰将棋の”ふるさと”を感じさせる。こういう捨て駒の魅力は永遠に変らないと思う。したがって両作全く同等とみなし、同時受賞となった」
軽い前奏を経て5一飛となったところで打歩詰誘致のための5二桂の捨合は常識ですが(、)これを同飛不成(途中Ⓐ図)と取るのが新構想の手。

途中Ⓐ図(9手目5二飛不成まで)
第24期山田氏作1-1

これに対し4四玉なら4五歩が打てて早いので6三玉と、香を取らざるを得ません。しかし8二飛成から5二竜となってみれば何か遠回りをしただけみたいで、最初から5二飛成としておいてもよかったのではないか――と思えてきます。
ところがこれを省いて作意手順を進めると(、)参考図のようになって2七歩が打歩詰となります。

参考図(2五桂まで)
第24期山田氏作1-2

6三香が消えておれば、ここへ来るまでに3二竜捨てと6三角成捨ての荒技を連発ができて、遠く2七の地点へ6三馬の利きが届いて解決する――という巧妙な筋書きになっているのです。
この5二飛不成のように、大駒の不成の目的が打歩詰回避そのものではなく(それは変化手順にかくれてしまって)、邪魔駒消去がその目的である――というのは、いまもって斬新奇抜な構想です。この6三香の除去が、更に別の打歩詰を打開するための伏線である――というのですから、実に複雑な構成になっています。さすが構想派の大御所の巧作といえましょう。
作者「3二竜や6三角成は鮮やかな捨駒かも知れませんが、受賞の原因になるとは考えられません。序盤、大駒不成を打歩詰回避という目的ではなく、邪魔駒消去という別の形に表現した――この点に意義を認めていただいたものと思います。とすれば、この新構想のヒントを与えて下さった棋友、森田昌弘氏にお礼を申さねばなりません」
これは、当時、新手筋開発を目指して文通をさせてもらっていた筆者(昌弘はそのころのペンネーム)が、同氏の別の作品(39年1月号)に対して、不遜にも推敲意見を出したところ、それをヒントにして本作が生まれた――という経緯をいわれたものです。


長篇賞 山田修司作「天にかかる橋」


第24期山田氏作2

山田修司作(39年11月号)
1二と 同玉 2三金 1一玉 2二金 同玉 3三香成 1三玉 2三成香 1四玉
3四飛 2三玉 3二飛成 1三玉 1四歩 同玉 3四竜 2四飛合 3二角成 1三玉
2五桂 1二玉 1三歩 1一玉 3三馬 ㋑2二角合

途中㋑図(26手目2二角合まで)
第24期山田氏作2-1

同馬 同飛 3一竜 2一金合 同竜 同玉 4三角 3二銀合 1二金 3一玉
2二金 4二玉 3二角成 5一玉 8一飛 6一桂合 4一馬 6二玉 7三銀 同桂
5一馬 7二玉 7三歩成 8一玉 8三香 ㋺8二香合

途中㋺図(52手目8二香合まで)
第24期山田氏作2-2

同香成 同銀 同と 同玉 7三銀 9三玉 9五香 9四歩合 同香 同玉
8四銀成 9五玉 9六歩 8六玉 7七金 9六玉 8八桂 同と 9七歩 9五玉
7四成銀 8五玉 8四馬まで75手詰
塚田九段「長篇でも山田氏の作品が総合的にみてとび抜けている感じである。普通の七種合は今までにあったが、この様な七種合は初めての拝見である。作者の努力には頭がさがる」
北原義治氏が初めて完成した七種合(第16期塚田賞)を更に一歩進めた、史上初の”順列七種合”です。一局の詰将棋に七種類の合駒をもり込むことでさえ容易でないのに、その順序が<飛角金銀桂香歩>と規則正しく揃えるのは至難の技といわねばなりません。
しかも3二銀合までの前半の駒さばきは見事なもの。このまま右半分くらいの駒配置であとの<桂香歩>が生まれておれば、まさに”神品”といえるでしょうが、さすがの作者の腕をもってしても不可能であったようで、七種合というのは、それほど過酷な制作条件なのです。
作者「この作は、詰将棋パラダイス誌に発表した”貧乏図式の煙詰”を検討していたとき、飛合と角合で逃れとなる紛れ順を発見しこれをもとに発展させたもので、現在までの自作中では最大の苦心作です。題名はちょっと派手過ぎたかも知れませんが、いわば私の喜びの表現で”虹”の意」


特別賞 古内正孝作


第24期古内氏作

古内正孝作(39年9月号)
7一飛不成 1二玉 1一飛不成 2三玉 1三飛不成 3二玉 3三飛不成 4一玉
3一飛不成 5二玉 5一飛不成 6三玉 5三飛不成 7二玉 7三飛不成 6一玉
7一と 5二玉 5三飛不成 4一玉 5一飛不成 3二玉 3一飛不成 2三玉
3三飛不成 1二玉 1三飛不成 2一玉 2二歩 3二玉 3三飛不成 4一玉
3一飛不成 5二玉 5一飛不成 6三玉 5三飛不成 7四玉 7三飛不成 8五玉
Ⓐ7五飛不成

途中Ⓐ図(41手目7五飛不成まで)
第24期古内氏作1

8六玉 6八馬 同と 8七歩 9六玉 7四角 同銀 7六飛 8五玉
8六飛まで51手詰
塚田九段「古内氏作の飛不成19回は新記録であり、これは一つの作品価値とみてよいと思う。構成もうまく出来ている。7四角捨てのまとめもピリッとしていて、感心させられた」
きわめて簡潔な仕掛けの中で、生飛車により玉を追いまわすプロットは、不成回数の記録作品としてよりも、趣向手順としての愉しさがあります。最初は7一とで巧みに折返し、次は2二歩打でうまく折り返す。その間には逆戻りの変化もあって、不成々々で追うのは絶えず淡いスリルが感じられます。
実は、解者にとっては、終盤(途中Ⓐ図)に至ってようやく竜ではいけないことに気づく訳で、もう一度プレイバックして、この趣向を繰返すことになります。つまり一局で二回も愉しめる面白い構成となっており、希代の珍作といえましょう。
作者「自賛すべきは、むろん飛不成19回が第一ですが、それを無理なく追い回せたこと特に2筋と7筋におけるバックチェンジが巧妙に出来たことなどでしょう。欠点も種々ありますが、それは霧の中。「狐狩り」と命名してあります」
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