塚田賞作品の魅力(10)(近代将棋昭和53年4月号)①

正月休みも明け、本日から再始動です。
森田銀杏氏の連載「塚田賞作品の魅力」、第10回も2つに分けて掲載します。
今回は第16期の受賞作を掲載します。
第16・17期受賞作

第16期受賞作者
短篇賞 小林正美
   駒形駒之介
中篇賞 稲富 豊
長篇賞 北原義治
昭和35年7~12月号


一挙に四局の煙詰でデビューした田中輝和氏は、その後も構想的趣向作品を続々と発表し、これに刺激されて、北原義治、巨椋鴻之介などのベテランも大いに活躍、長らく停滞していた長篇の分野に、力作が数多く生まれた年でした。


短篇賞 小林正美作


第16期小林氏作

小林正美作(35年9月号)
4五桂 3二玉 3三桂成 同玉 4三香成 同玉 5四馬右 4二玉 3三馬 同玉
3二金まで11手詰
塚田九段「一手々々の手順を見ると、何の奇もない平凡な捨駒だが、答を見ずにまず自分で解いてみると、何十何百となくまぎれがあって、わずか11枚の駒のために目のくらむ思いがするであろう。それが受賞の原因となった」
宙ぶらりんの玉で、捉えどころのない形ですが、初手4三香成や3四銀の紛れがあり、4五桂、3二玉となった所でも2二金や4二香成など、続きそうな手があって、直ちに3三桂成と捨てることは思いも寄らないところです。ここからなら4三香成以下3三馬捨ての華麗な収束はそんなに難しくはない。最終手尻金で詰め上げて、はじめて最初の桂捨てが3二歩の邪魔駒消去であったことに気づきます。わずか11手の短篇に、心理の逆をつく構想を盛り込んだ佳作といえましょう。
作者「入選するのが精一杯で、塚田賞など思ってもみなかっただけに、喜びと感激も又格別。詰手順は平凡ですが、心理的な作品をねらったのです」


短篇賞 駒形駒之介作


第16期駒形氏作

駒形駒之介作(35年8月号)
3五桂 1二玉 2四桂 1三玉 2三桂成 同歩 2五桂 2四玉 3四金 同玉
3五金打まで11手詰
塚田九段「実戦型の短篇で、私は元来こんなのが好きだ。手順も味よく、桂成捨てが主眼。大衆向きのこういう好作品が多く出ることを期待している」
駒形駒之介。時代小説の主人公にもなりそうな粋なペンネームの主は野口益雄氏。「貧乏図式」と称して、金銀を使わない爽快な作品を多く発表した作家でもあります。
本作は、いかにも塚田好みの実戦型小駒図式で、打った桂を歩頭に成り捨てるあたりの味が中心。それまでの拠点であった4四金も最後にサラリと捨てて、軽快派の本領を発揮した捌きの短篇です。
作者「反難解派の旗印をかかげて、短篇、しかもコクのない作品ばかり作っているため賞とは無縁の立場にある――と自ら慰めていた私でしたが、はからずも塚田賞とは。恐らく塚田賞は生涯にこの一回だけとなるんじゃないかしら」


中篇賞 稲富 豊作


第16期稲富氏作

稲富 豊作(35年9月号)
1五金 同玉 2五金 1六玉 3六竜 2六飛合 2七竜 同飛成 1五金 同玉
2七桂 2六玉 2五飛 1六玉 1五飛 2六玉 2五馬 同香 1六飛 同玉
1五角成まで21手詰
塚田九段「稲富氏作は形が悪い。しかし驚くほど巧い手が続く。差引計算してもやはり巧い手が比重大きく、競争相手の巨椋氏(31手詰、12月号)、山中氏(19手詰、8月号)をおさえた。2六飛の合駒以後、みなよくさばけて、あざやかなもの。変化手順に新手がある」
この形では3六金を捌いて4七竜を働らかせる狙いとすぐ判るので、1五金から2五金は直感。ところが2五同玉のあと3七竜でも4六竜でも続かない。ここで3六竜、1四玉としておいて塚田九段のいわれた新手4五竜が登場します。指してみれば、あとの詰みは見えてきますが、6九馬の筋を活用しようという意識があるだけに、この4五竜は意表外の奇手になったのでしょう。
この変化を読み切れば、あとは飛合を強要して、仕掛け駒をすべて捌いて終ります。後年、近代的な短篇作家としてならした作者が初期にみせた力作でした。
作者「指棋は好まず、詰棋一辺倒で通してきた私だけに、このたびの受賞は非常に嬉しく思います。本局は難解味をねらいとして、古典風な味で仕上げました。従って近代的な新味はありませんが、まぎれが豊富で、さばきも多少はあり、中篇作品として生きていると思います」


長篇賞 北原義治作


第16期北原氏作

北原義治作(35年11月号)
3三金 同桂 4四角成 3二玉 3三馬 2一玉 1一馬 同竜 同馬 同玉
3一飛 2一桂合 1二銀 同玉 3二飛成 2二金合 1四飛 1三角合(途中A図)

(途中A図)
第16期北原氏作1

2四桂 1一玉 1三飛成 同桂 4一竜 2一銀合 1二香 同金 9九角 4四香合
同角 2二飛合(途中B図)

(途中B図)
第16期北原氏作2

2一竜 同玉 3二銀 同飛 同桂成 同玉 4二飛 2三玉 1二飛成 3四玉
3二竜 4四玉 3五竜 5三玉 4四金 5二玉 3二竜 6一玉 7一歩成 同玉
7三香 同金 6二竜 8一玉 8二歩 9二玉 9三と 同玉 7三竜 8三歩合
(途中C図)

(途中C図)
第16期北原氏作3

9五香 同金引 8四金 同歩 同銀 9四玉 8三竜 8五玉 9五銀 7六玉
8六竜 6七玉 7七金 5七玉 4六竜 同玉 4七金 5五玉 4五金 6五玉
6六歩 7五玉 7六歩 8五玉 8六金まで85手詰
塚田九段「田中輝和氏の”神風特攻隊”は素晴らしい傑作と思ったが中盤に古局との類似手順があり、煙詰の”雲竜”は余詰。切札の”角兵衛獅子”が北原氏の珍品と対決することになった。北原氏作は全種合駒の趣向作、それだけでもなかなかのモノなのに、途中で9九角打という遠角の妙手が含まれており、この一手により”角兵衛獅子”に勝ったのである」
田中輝和氏の持駒19枚の新記録作品”神風特攻隊”と並んで、「珍品詰将棋」として特別出題された全種合駒の一号局です。
一局の詰将棋に、玉を除く七種類の駒をすべて合駒として登場させる――というのは実力ある詰将棋作家にとって、長年の挑戦目標でした。これを実現して宗看、看寿の域を抜かんものと、30年10月号の詰将棋パラダイスに神戸の覆面作家氏が発表した”愛を求めて”が最初でしたが、これは惜しくも不完全。従って北原氏の本局が「七種合作品」の第一号といえるわけです。
まず壮烈な駒取りではじまり、裸玉のようにしておいて、3一飛以下、桂・金・角の合駒をさせる(途中A図)。次いで4一竜のとき2一銀合。また9九角の遠打(直ちに2二飛合なら2一竜、同玉、3二銀、同飛、同桂成、同玉、5二飛、4三玉、4二飛成以下、8八竜までの意味)に対し、4四香の中合で角を呼び寄せて2二飛合(途中B図)と、前半ですでに六種の合駒が登場します。
あとは玉を左辺から下段に追い出しながら途中で8三歩合をさせ、角遠打の構想に要した駒を再活用して、85手の長手順で収束となります。
本作は、各種の合駒が発生する裸玉的手順がベースになっており、作者の実力をもってすれば、40手くらいの小品にまとめることも可能であったでしょうが、単なる記録作品としてでなく、角の遠打とこれに対する香中合という構想的な詰将棋に仕上げたあたり、当時の第一人者の貫録といえましょう。
作者「着想は七、八年前の創作意欲もっとも旺盛なりし頃、裸玉から発展したものです(。)完成までに約五年、最後の歩合を作るのが最大の苦心でした。前半は9九角の遠打ちを中心に難解とうぬぼれ、後半の力不足も、七種の合駒が重複せず一回づつそろい(これが主眼ですが)割にスッキリ終局するので救われているでしょう?自作中でも最も上位に属する作の一つです」



北原氏作は近年、45手目6四銀以下でも詰んでしまうことが判明しました…。

田中輝和氏作「角兵衛獅子」(近代将棋昭和35年9月号)を掲げます。



第16期参考田中氏作
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