塚田賞作品の魅力(9)(近代将棋昭和53年3月号)①

森田銀杏氏の連載「塚田賞作品の魅力」、第9回は2つに分けて掲載します。
今回は第15期受賞作の内、田中輝和氏の作品を掲載します。
田中輝和氏登場

第15期塚田賞受賞作者
短篇賞 北原義治
中篇賞 小峯秀夫
長篇賞 田中輝和
特技賞 田中輝和
佳作賞 竪山道助
昭和35年1月~6月号


前号に紹介したように、この年の新年号に巨椋鴻之介氏と北川明氏の二局の新煙詰が発表されました。
これより先、昭和29年に、黒川一郎氏と植田尚宏氏が、また31年に再び黒川一郎氏と駒場和男氏がそれぞれ煙詰を完成しており、伊藤看寿の「図巧」以来二百年の神話は崩れかけてはいましたが、それでも煙詰の創作は至難の技と考えられていました。従って、この期の長篇賞は、当然この二局から……と誰もが思っておりました。
ところが5月号に、田中輝和という無名の新人が、突如として煙詰四局をひっさげてデビューし、棋界に一大センセーションを巻き起こしました。
「超人誕生!」
「棋史に燦たる光芒」
こんな見出しがつくほどのビックニュースだったのです。塚田賞としては異例のことですが、七月号で結果発表するに際して、これら四局の煙詰に対して特技賞が、また第四局の「アトラス」に対してはさらに長篇賞が与えられると事前通告をしたほどです。


長篇賞 特技賞 田中輝和作「アトラス」


第15期田中氏作1

田中輝和作「アトラス」(煙詰第四局)
7九と 同玉 7八金 8九玉 8八金 同玉 8七と 同玉 7七竜 9六玉
9五と 同玉 7五竜 9四玉 9三と 同玉 8二馬 同成香 同銀 同玉
8三歩成 同玉 7三歩成 同成桂 8九香にてA図。

(A図)
第15期田中氏作1-1

A図から、7二玉 7三竜 同玉 6五桂 7二玉 7四飛 6一玉 6二歩 同玉
7三飛成 6一玉 6三竜 7一玉 7三竜 6一玉 5三桂 同と 5一歩成 同玉
5三竜 4一玉 3一歩成 同玉 2二歩成 同玉 3四桂 同成香 4二竜 2一玉
1三桂 1一玉 3一竜 1二玉 2一竜にてB図。

(B図)
第15期田中氏作1-2

B図から、1三玉 2五桂 同成香 1四と 同玉 2五と 同成香 1五香 同成香
同歩 同玉 1六歩 同玉 1七歩 同玉 1八香 同馬 同と 同玉
3六角 1九玉 1二竜 2八玉 1八竜 3九玉 4九と 同玉 5八角 同金
3九金 5九玉 4九金打にてC図。

(C図)
第15期田中氏作1-3

C図から、同金 同金 同玉 4八金 5九玉 5八金 6九玉 6八金 7九玉
7八金 8九玉 8八金 9九玉 9八金 8九玉 8八竜まで107手詰
塚田九段「よくぞ作ったり。けむり四局は驚異というべきであろう。アトラスが一番よい。煙詰の宿命で妙手はないが、しかし8九香の一手は光っている。全題完全とのことだし、とにかく偉業である」
煙詰――盤面39枚の駒が3枚になって詰上る――この最も厳しい詰将棋の制作条件に加えて、還元玉というおまけつき。しかも8九香の遠打の構想手順を含んで、当時「後世にまで語り伝えられる名作」と世間を湧かせました。8九香(A図)は、もし8八に打てば収束の金ずらしの邪魔になり、8七より近くに打つと、4九金打(C図)のとき、6八玉、5八竜、7七玉と逃れるという深遠な伏線なのです。また、これに対して歩の中合いならば、79手目3六角のところ1九歩で早く詰むようになっているのも巧妙です。
北原義治「戻り玉の趣向を折込み、四局中最高の出来栄えであろうか。図巧90番を思わせる8九香の遠打と金のズリ押しは味良く、歴代煙詰と比較しても上位を争い得る」
作者「還元玉煙詰を作ろうと思いたって一カ月、こんな苦心した事はない。はじめ38枚の駒で完成したが、あとの一枚が鉄の壁。絶望かと思ったが、ついに道は開けた。8九の位置から発して8九へもどる。前人未踏です」


特技賞 田中輝和作「銀河」


第15期田中氏作2

田中輝和作「銀河」(煙詰第一局)
8五と 同と 9六金 同玉 9七金 9五玉 8六金打 同と 同金 9四玉
8五金 9三玉 9二と 同玉 9三歩 同玉 9四歩 9二玉 8四桂 同と
9三歩成 同玉 8四金 9二玉 8三金 同と 9一と 同玉 8一歩成 同玉
8三飛成にてD図。

(D図)
第15期田中氏作2-1

D図から、7一玉 6三桂打 同と 同桂 同と 6一歩成 同玉 6三竜 5一玉
4一歩成 同玉 4四香 同と 4三香 同と 同竜 3一玉 2一角成 同玉
1二香成 同玉 1三銀 同と 同歩成 同銀 同竜 同玉 1四と 同玉
1五歩にてE図。

(E図)
第15期田中氏作2-2

E図より、同玉 1六歩 同玉 2五銀 1五玉 1七竜 同金 1六歩 同金
2四銀 1四玉 1五歩 同金 2三銀 1三玉 1四歩 同金 2二銀 1二玉
1三歩 同金 2一銀 1一玉 1二歩 同金 同銀成 同玉 2三金 1一玉
2二金まで91手詰
北原義治「大駒四枚を全部詰方に。それでよく余詰が出なかったものと感心。上段の横這い、収束ともに既成手順だが、いや味なくまとまっている」
最初は駒交換をしながら棒金で押しあげていく。25手目、8三金としておいての9一とが9三玉と逃がしそうで、味よい手となっている(実は9四歩、同玉、6七角成があって簡単)。中盤はよくある竜の横追いで、51手目、1二香成の軽妙手を経て、収束は銀と歩による単純な追い上げ趣向で終る。周辺巡りのような易しい手順ですが、淡々として気持ちよい作品です。
作者「終始端玉の趣向。表題の意味は、盤の上部を天に見立て、5一銀と3一銀を軸に斜め下に美しく連なると金と歩を星になぞらえたものです」


特技賞 田中輝和作「鵬」


第15期田中氏作3

田中輝和作「鵬」(煙詰第二局)
6五金 同歩 6六金 5四歩 6五金 同玉 6六竜 5四玉 4五と 同玉
4六竜 3四玉 2四金 同と 同と 同玉 3五竜 2三玉 2四竜 1二玉
1一と 同玉 2一桂右成 同金 同桂成 同玉 1二金 同玉 1三歩成 同成桂
同竜にてF図。

(F図)
第15期田中氏作3-1

F図より、2一玉 3三桂 同と 3一歩成 同玉 3三竜 4一玉 5一桂成 同玉
5三竜 6一玉 7一歩成 同玉 8二香成 同銀 8一と 同玉 9二香成 同玉
9三角成 同銀 同竜にてG図。

(G図)
第15期田中氏作3-2

G図より、同玉 9四と 同成銀 8二銀 9二玉 9三歩 同成銀 同銀成 同玉
9四歩 同玉 9五歩 同玉 8四銀 9四玉 9五歩 同と 8三銀 9三玉
9四歩 同と 8二銀 9二玉 9三歩 同と 8一銀 9一玉 9二歩 同と
同銀成 同玉 9七香 同飛成 8三銀 9三玉 9四歩 同竜 8二銀 9二玉
9三歩 同竜 同銀成 同玉 8三飛 9四玉 8四飛成まで99手詰
小西逸生「序盤まぎれあり取付きにくい。収束は歩の勘定で頭が痛くなる」
坂口佳津男「序盤玉が6三に入る変化、終盤安易に換えていけば一歩たりなくなる変化は、詰棋として、また煙詰としての最上局。都玉であることも花をそえている」
6五金と歩頭に金を捨てる導入部は豪快。5手目6五金に6三玉の変化は、7三竜と切って詰み。11手目4六竜に対しても4三馬の英断が必要で、序盤は力が入ります。中盤は「銀河」と似たような横追いですが、収束は何回も繰り返すところが、前作より進歩。このために数多く歩が必要で、それを管理しながら最長手順を読まされる煩らわしさが、平凡な趣向をうまく補っています。
作者「都玉が特色。39枚の他にまだ二~三枚ぐらいの駒なら置ける。収束は既成手筋だが、何度も玉が上り下りするのは新手か。表題は、1三桂から9三香まで並んだ駒の形を大鵬の翼に見立てたものです」


特技賞 田中輝和「桜花」


第15期田中氏作4

田中輝和作「桜花」(煙詰第三局)
2六と 同と 同と 同玉 3八桂 同竜 2七歩 1六玉 1七と 同玉
1五竜 2七玉 1八金 同竜 3七と 2八玉 3八と 同玉 1八竜 4七玉
5七飛 同金 2七竜 5六玉 5七竜 4五玉 3五金 同金 5五竜 3四玉
3五竜 2三玉 1三金 同と 同歩成 同玉 1二桂成 同玉 1五竜にてH図。

(H図)
第15期田中氏作4-1

H図より、2一玉 2二歩 同玉 1三竜 2一玉 3一歩成 同玉 3三竜 4一玉
5一歩成 同玉 5三竜 6一玉 7一歩成 同玉 8二角成 同玉 6二竜 8一玉
9三桂 9一玉 7一竜 9二玉 8四桂 同成香寄 8一竜にてI図。

(I図)
第15期田中氏作4-2

I図より、9三玉 9四銀 同成香 同と 同玉 9五香 同成香 同と 同玉
9六香 同成香 同と 同玉 9七香 同成香 同と 同玉 8八金 同馬
9八香 同馬 同歩 同玉 9九歩 同玉 7七角 9八玉 8八竜まで93手詰
北原義治「序盤は、四局中で最も優れている。一回転して上段へ追い込んでからは、横這い、それに端でも折衝と、前二局と全然同じ感じである。さすがのスーパーマンもこれは仕方なかったか?」
序盤、真直ぐに追い落さず、巧妙な駒捌きで4六角の周囲をひと回りしてから、上部へ追い込んで行くあたり、スリル満点です。中盤は最も単純な横追い趣向。最後のはがし趣向も単調ですが、美しい収束です。
作者「本作の表題は落花とつけるつもりでしたが、黒川一郎氏作に落花ありと棋友から聞き、ビックリ。終盤、と金と成香がみるみる消えるのは、桜の花を連想させるので」



将棋図巧第90番を掲げます。


第15期参考図巧90番


2013年の更新は本日が最後の予定でしたが、明日は第9回の続きを掲載することといたしました。
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