続・塚田賞作品の魅力(15)(近代将棋平成8年5月号)①

森田銀杏氏の連載「続・塚田賞作品の魅力」、第15回(第65期)は2度に分けて取り上げたいと思います。
今回は短篇・中篇部門です。
第65期(昭和60年1~6月号)

この年の1月号に森長宏明氏の超長篇「万里の駒」が特別懸賞出題されました。詰棋史上第三位となる905手詰の凄い超大作でしたが、惜しくも不完全。雌伏十年、これの修正に取り組まれた作者は昨秋、ついに901手詰として完成し、これを収録した作品集『詰物語』五十一番を上梓されました。森長氏は長篇作家というイメージがありますが、同書の8割は短中篇。構想作を主体にした傑作ばかりです(ご希望の方は八十円切手十六枚を同封して〒185国分寺市東元町2-4-5、詰将棋研究会へ申し込めば入手できます)。
さてこの期、またも短篇は低調で「該当作なし」となりましたが、中篇ではベテランの駒三十九(酒井克彦)氏が四回目の受賞。北原義治氏が”一の字図式”で特技賞を獲得しました。長篇部門もベテランと若手が競って野心作が数多く発表されましたが、残念なことに余詰が続出。駒場和男氏の二作(全駒⇒小駒煙と難解趣向作)に独走を許しました。
なお、59年度の「三手の詰み」最優秀作には車田康明氏の左図が選ばれています。

第4回三手詰最優秀作
車田康明作(昭和59年10月号)
第65期車田氏作


第65期「塚田賞」選考投票 集計表



短篇次点 若島 正作


若島 正作(昭和60年6月号) 詰手順
4四馬 3五桂合 同馬 1六玉 2八桂 同と 3四馬 2六玉 3八桂 同と
1六馬 同玉 2五龍 1七玉 2七龍まで15手詰
平凡に龍で追ったり、3八桂と打ったりすると1七から2八へ逃げられるので、初手は4四馬。玉方は3五に捨て合の一手ですが、これも同龍…では九段目まで潜られて捕まりません。3五同馬…で合駒は桂だったことが判明します。とりあえず2八桂と打ち、3四馬…としてみると、何のことはない、初形の3七と金が2八へ移動してるではありませんか。そこで2八が塞がったので3八桂打ちが実現し、1六馬捨てで終わり。僅かな駒で手品のような手順を成立させた完成品です。
岡田敏「簡潔な形で原形のまま3七とを2八に移動させる手順が面白い」
植田尚宏「簡単そうに見えて意外な変化があり、さらりとした点がいい」


中篇賞 駒三十九作


駒三十九作(昭和60年3月号) 詰手順
2二飛成 同歩 2三桂 ④同歩 4四角 ⑥3三桂合(途中図)

途中図(6手目3三桂合まで)
第65期駒氏作

同角成 2二桂合 同馬 同玉
1四桂 1二玉 2四桂 同歩 3二龍 1三玉 2五桂 同歩 2二龍 1四玉
2六桂 同歩 2五銀 1五玉 2四龍まで25手詰
2三桂、1二玉、1四飛、1三桂合、2四桂…や、1五龍、1三角打、2二飛成…など誘手のある形で、初手からいきなり角取りの2二飛成は信じ難いが、同歩、2三桂に④1二玉、2四桂、1三玉、1五龍、1四飛合、1二桂成、2三玉、1四龍…の変化を克服して、2三同歩のあと4四角に3三桂合の捨て合(途中図。⑥歩合は作意13手目に1三歩…で早い)があることが判ると、漸くこれが作意手順かと思えてきます。
さらに2二桂合が入り、四桂持駒になってからは、ポンポンと桂を打って歩を吊り上げながら龍で追う易しい手順。そこで作者の意図に気付きました。途中図あたりから着想した素材のポイントが歩の前進なので、それなら…と茶目っ気を出して、この歩を2一からスタートさせた訳です。
この夢のような手順を実現させた遊び心と仕上げの巧さが買われての受賞となりました。
岡田敏「2一歩を2六まで引き上げる手順に中合なども入っており、楽しめる作」
植田尚宏「2一歩の動きが良い。もちろん手順も良い」
谷口均「2一歩が2六まで吊り上がってくる作意をアッサリした初形で実現した」
金田秀信「歩頭に四桂を捨てる趣向作だがこれだけの駒数で纏めたのは、さすがにベテランの腕。初手2三桂…の紛れもいい」
吉田健「ムリなく作って”歩の散歩”が楽しかった。合駒のアヤも入って調和のとれた雰囲気である」


特技賞 北原義治作


北原義治作(昭和60年2月号) 詰手順
5六歩 同玉 5七馬 5五玉 5六香 4四玉 5三角成 3三玉 3四歩(途中図)

途中図(9手目3四歩まで)
第65期北原氏作

⑩3二玉
4二馬 同玉 2四馬 4一玉 4三香 3一玉 4二香成 2一玉 3二成香 同玉
3三歩成 2一玉 2二歩 1一玉 1二歩 同玉 2三馬 1一玉 2一歩成 同玉
2二馬まで31手詰
盤面中央に準対称形の鮮やかな一の字。この軽やかな持駒で詰将棋になっているというだけでも垂涎ものです。
手順の方は、さすがに8手目までは一本道ですが、3四歩(途中図)あたりで不詰感に襲われます。しかし⑩同玉なら、3五馬行、3三玉、4四馬引、3二玉、3三歩、3一玉、1三馬…の詰み。3二玉に4二馬と捨てるのが英断で、2四馬と出ると4一玉以下が最長手順となります。
象形図式で詰将棋の要件を満たすだけでも困難なのに、この好手順はさすがで見事なもの。いつの頃からか、軽くて楽しい詰将棋の発掘に力を注ぐ作者に、神が与え賜うた恵みではないでしょうか。
柏川香悦「この初形からこれだけの手順を掘り起こしたのは流石であり、今期の収穫であった」
桑原辰雄「初形感覚を始めとして、随所に感覚の柔らかな手順を設定し、ベテランの健在ぶりを示した一局」
谷口均「初形曲詰としては最高級の出来ばえである」
金田秀信「よくぞ発見したもの、と作者の努力に敬意を表したい。本作は北原氏の詰将棋に対する”執念”の結晶であろう」
植田尚宏「初形の良さが印象を強めているが、4二馬以外にらしい手がない」



若島氏作は「盤上のファンタジア」第26番に、駒氏作は「からくり箱」第48番にそれぞれ収録されています。
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