続・塚田賞作品の魅力(14)(近代将棋平成8年4月号)②

今回は中篇部門を取り上げます。
第64期(昭和59年7~12月号)

中篇賞 山本民雄作


山本民雄作(昭和59年7月号) 詰手順
①7三馬 同玉 7六龍 ④6二玉 7四桂(途中図)

途中図(5手目7四桂まで)
第64期山本氏作

⑥7三玉 ⑦6二桂成 同玉 6六龍 ⑩6五歩合
同龍 7三玉 7六龍 ⑭7五歩合 同龍 8二玉 8一と 9三玉 9四歩 同玉
8五角成 9三玉 8四龍 同歩 9四歩 8三玉 7五桂 7二玉 6三馬 6一玉
6二歩 5一玉 4一銀成まで33手詰
持駒が歩なので、馬の利き筋遮断に目が行き、①6四龍、7四歩合、同角成、9三玉、9四歩、同玉、9五歩、同玉、7五龍、9四玉、8五龍、9三玉、7五馬、8四桂合、9五龍、9四銀合…の紛れにはまると苦労します。
作意は、案に相違して、7三馬捨てから7六龍と引く手。これは④8二玉、8一と(同玉は7一歩成…8一と…6三角成…7二龍…9四歩…9二龍…)、9三玉、9四歩、同玉、8五角成、9三玉、9六龍までの変化に備えたもの(④7五歩の中合なら同龍…8一と…9四歩…8五角成…8四龍…9四歩…7五桂…6三馬まで。6二歩はこのための配置)です。
さて、7六龍に6二玉と決まったところで6六桂を消去するのが本局のクライマックス。7四桂(途中図)と跳んだときに⑥5一玉で逃げられそうですが、6一と、4二玉、4六龍、3三玉、3五龍、3四飛合、2三銀成、4三玉、4四歩…の綺麗な詰みがあります。
7三玉と戻ったときに⑦8二桂成では、7五歩合とし、同龍、8二玉、8一と以下、さきほどの手順で、6二歩が消えているために僅かに逃れるのです。
6二桂成と捨てて6六龍が二度目の<龍不近>。これは⑩7三玉、6三角成(8四玉は6四龍…7五龍…8五馬…9四歩…8一と…7一歩成…)、8二玉、8一と(同玉は7一歩成…7七龍…)、9三玉、9四歩、同玉、9六龍、8四玉、8五馬、7三玉、7六龍以下の変化に備えたものです(なお、ここでの⑩5一玉の変化は、6一と…4六龍…3五龍では6六桂がなくなっているので3四金合で逃れ。3五龍としないで2三銀成…3五歩…5二角成…4四龍…3四馬…としなければなりません)。
そこで6六龍には6五歩の中合で呼び寄せますが、再度の7六龍引きで(⑭6二玉は6三歩…6一と…で変化⑩と同様)、今度は7五歩の中合を余儀なくされ、持駒の歩が三枚になったので、8二玉に8一と以下、先程は届かなかった筋が成立し、最後は3二銀まで働いて詰み上がります。
このように、本局は9六龍と廻る変化に備えて<龍のソッポ行き>を三回も行うのが主眼ですが、これに<桂の消去>を絡ませたところが巧みな構成で、すべての駒が変化と紛れに幾重にも働いた完成品と言えましょう。
なお、9手目の6六龍は”寄る”ですから<ソッポ行き>という用語はピッタリとしないので<龍不近>なんて妙な造語を使いましたが、もっと適切な表現はないものでしょうか。
岡田敏「7六龍のソッポ行きを繰り返す味が実に面白い」
谷口均「実現困難と思われる龍のソッポ行き三回に桂の消去を絡ませて、思わず拍手をしたくなる」
柏川香悦「龍のソッポ行きと変化の広さで中篇らしいコクがある」
吉田健「龍の動きの奇想に徹底し、作品全体の完成度の高さも流石と思わせる」
植田尚宏「力で来いというところ、構想物としてはよく出来ている」
金田秀信「三度にわたる龍のソッポ行きはその効果がいずれも明解なのが良い。わずか十四枚の駒でこの内容はさすがである」


中篇次点 上田吉一作


上田吉一作(昭和59年7月号) 詰手順
5三角 4二桂合 同角成 ④同玉 5二飛成 3三玉 3六香 同龍 3五香 同龍
2五桂 同龍 2四銀(途中図)

途中図(13手目2四銀まで)
第64期上田氏作

⑭同歩 3六香 同龍 3五香 同龍 4五桂 同龍
2二龍 4四玉 2四龍 4三玉 3三金 5三玉 6二銀 5二玉 5四龍 同龍
4三歩 同龍 5一銀成まで33手詰
角打ちで桂合と替わって(④4二同歩は3二香、同金、同角成、同玉、2三銀成以下)、5二飛成、3三玉までが導入部。ここから3六香3五香2五桂と三枚の駒を打ち捨てて守りの龍を移動します。2五龍の形にして2四銀(途中図)と入るのが狙いの手。⑭同龍なら3六香…4五桂…で簡単なので、同歩の一手になります。
そこで再び3六香3五香4五桂…の三連打で龍を4五へ戻しておいて2二龍と質駒を取り、歩を吊り上げた効果で、2四龍以下の収束に向かうことができます。
つまり、2四銀と突っ込んで2三歩を2四歩の形にするために六枚もの駒を打ち捨てて龍の往復移動を図るのが本局の主題で、またその手順に趣向性を持たせているところが作者らしいところ。ストーリーが明快で、理想的な中篇秀作と言えます。
岡田敏「七連続捨駒で玉方の龍を翻弄する、リズム感溢れる手順」
桑原辰雄「キメ細やかなボリウム作品。とくに中盤七連続捨駒の妙技は圧巻で、龍捨てでまとめた手腕は手応え充分」
金田秀信「機関銃のような捨駒が凄い。宗看を髣髴させるものがあり、秀作と思う」



上田氏作は「極光21」第81番に収録されています。
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上田氏の異色作

上田氏は少ない使用駒数で狙いの構想手順を表現する効率のよさを追求するという意味で現代的な作家だと思います。
http://hirotsume.blog.fc2.com/blog-entry-94.html#more で紹介されている近代将棋昭和55年1月号の59手詰などはその典型でしょう。
(氏が「現代的」と評されるのは、決して使用駒数だけの問題ではなく、他にも種々の要素がありますが・・・)

しかし、この作品 (昭和59年7月号 33手詰) では他の作品とは対照的に、狙いの構想を実現するためには使用駒数が増えることも辞さない姿勢が見えます。その意味で、上田氏としては異色作だと思います。
ゴツゴツとした手触りに古典的な味わいが感じられます。

名無しさんへ

発表時の作者コメントには「前半の"七連続捨駒!"で守備龍を逆用するところが狙いです。変化や紛れは殆どありません」とありますね。
手順の実現を重視したというところでしょうか。
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