続・塚田賞作品の魅力(12)(近代将棋平成8年2月号)①

森田銀杏氏の連載「続・塚田賞作品の魅力」、第12回(第62期)も2度に分けて取り上げたいと思います。
今回は短篇・中篇部門です。
第62期(昭和58年7~12月号)

この年の6月、第41期名人戦の第六局目が箱根で行われ、挑戦者の谷川浩司八段が加藤一二三名人を破って史上最年少、二十一歳の新名人が誕生。これを祝って岡田敏氏が10月号に発表した曲詰「谷川万才」は漢字ばかりの炙り出しで、話題になりました。
前期に続いて、この期も短篇賞は該当作なし。これに引き替え、中篇部門は傑作が目白押しの盛況で、票が割れましたが、ベテラン若島正氏を脂の乗った若手の市橋豊作が僅かの差で抑えました。長篇部門も、杉山正氏の小駒大作(四局)や添川公司・柳田明氏らの活躍で活況を呈した中で、素田黄氏の奇作と飯田岳一氏の炙り出し「十文字」が高く評価されて受賞しました。
この年は初入選の作家も多く、その後も活躍している人々の中には、石川清文・菅谷正義・森本康秀・岡本眞一郎・橋本哲・今一代・石川英樹・林雄一・森田修平氏らの名前が見られます。

第62期「塚田賞」選考投票 集計表



短篇次点 柏川香悦作


柏川香悦作(昭和58年9月号) 詰手順
2四金 1六玉 1七金 同玉 2九桂 2六玉 2五金 同玉 3七桂左 2六玉
2四馬 6六角 2五馬まで13手詰
初手には1六金や1七桂などのらしい手があり、紐のついた2四金が却って打ちにくいのは不思議です。3手目3五馬…で簡単そうに見えて、これには2六歩の捨合の逃れがあります。1七金に同角成なら3五馬が成立するのです。2九桂と据えた後は、最初に打った金と桂を繰り換えて2四馬と開くのが予期しない収束で、新鮮な味がします。
金田秀信「難しい構想を実現させた手腕はさすが。一手、一手に含蓄があり、久しぶりに構想ものの短篇を味わった」
植田尚宏「相当な紛れとちょっと変わった手順が良い」


中篇賞 市橋 豊作


市橋 豊作(昭和58年11月号) 詰手順
1一龍 1二歩合 2二龍 1四玉 2三龍 1五玉 1三龍 ⑧1四桂合(途中図)

途中図(8手目1四桂合まで)
第62期市橋氏作

2七桂 同香成
1六歩 2五玉 4七角 3六銀合 2六歩 同成香 3六角 ⑱同成香 2六銀 同成香
同馬 同玉 2四龍 同龍 2七香 1六玉 1七香まで27手詰
平凡に2二龍、1四玉、2三龍、1五玉と追うと、2七桂に同香生とされ、1六歩、2五玉で打歩詰の形。このあと4三角成、同龍、2六馬、同玉、2四龍、2五金合…と、手は続きますが、辛うじて詰みません。
しかし、初手1一龍で1二歩合をさせておき、2三龍の後、その歩頭に1三龍と寄ると(⑧同歩は1六歩、1四玉、3二馬…なので)1四桂合(途中図)が必然となり、先程の手順でも2六歩打が可能になるのです。
そこで玉方は2七桂を同香成と取って抵抗しますが、4七角から3六銀合以下の収束手順に入って香二枚の詰上りとなります(⑱3六同歩の変化は2六馬、同玉、2七銀打、2五玉、3六銀…で2手長駒余り)。
このように、本局は取歩駒(1四桂)を発生させるために、龍の迂回で合駒させた歩の頭に龍を寄るという、OT松田作(昭和50年6月号、第45期中篇賞)の二歩禁手筋を発展させた二重伏線の構想傑作です。
金田秀信「歩合を強要し、その歩頭に龍を捨てる筋はOT松田作にあるが、本作はその上に3六銀合という変則合が登場し、収束近くの手順は絶妙である」
柏川香悦「高級手筋を盛り込んだ本格的構想作」
伊藤果「卓抜な構想作で、雲上の宗看も”満足じゃ”と頷いていることでしょう」
なお、作者の本名は森長宏明。第50期の短篇、第56期の長篇に続く三回目の受賞です。
その森長氏はこのほど「万里の駒」の完成作(901手詰)をはじめ、五十一局の自信作を収録し、自ら解説した作品集『詰物語』を上梓されました。上田吉一氏の『極光』以来の傑作集です。ご希望の方は両書とも各八十円切手十六枚を同封して〒185国分寺市東元町二-四-五、詰将棋研究会へどうぞ。


中篇次点 若島 正作


若島 正作(昭和58年7月号) 詰手順
2四飛 1三玉 1四歩 同桂 1二銀成 同玉 2三角 ⑧1三玉 1四角成 1二玉
2三馬 2一玉 1三桂 1一玉 1二馬 同玉 2一飛成 1三玉 2五桂 同角
2四銀 1四玉 2三龍まで23手詰
7手目の2三角に⑧2一玉なら1三桂、1一玉、1二角成、同玉、2一飛成、1三玉、2四銀まで。1三玉と躱すと桂を取られる上に馬まで作られてしまいますが、結局同じような手順を経て、1四桂が消えているために、8手も長くなります。
この1三玉がいわゆる玉方の<不利逃避>と呼ばれる高級手筋。僅かな駒数で爽やかに実現したところが作者の腕です。
植田尚宏「2三角に1三玉と桂を取らせる手順が面白い。これだけの駒数でよくまとまったものだ」
谷口均「易しいながらも、巧妙な構想」
岡田敏「不利逃避を簡潔にまとめた」
金田秀信「このテーマでは山田修司作(昭和38年2月号、第21期中篇賞)が極めつけだが、簡潔な形で表現できたのは驚きである」
吉田健「不利逃避のテーマをさり気なく表現したところが作者の気取りであろう。反面、何気なく通過される恐れもあるが、端正なたたずまいは、やはり出色である」



市橋氏作は「詰物語」第35番、若島氏作は「盤上のファンタジア」第61番に収録されています。

市橋氏作で言及されているOT松田氏作を掲げます。


「近代将棋図式精選」中編の部第106番に収録されています。
※図の差し替えがあるかもしれません


続いて、若島氏作で言及されている山田修司氏作を掲げます。


「近代将棋図式精選」中編の部第40番、「夢の華」第40番(「不利逃避」と命名)に収録されています。

追記(9月16日)
文中に登場した「万里の駒」は昭和60年に発表された作品の修正図なのですが、残念ながら不完全であることが後に判明しています。
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