続・塚田賞作品の魅力(11)(近代将棋平成8年1月号)②

今回は長篇部門を取り上げます。
第61期(昭和58年1~6月号)

長篇賞 添川公司作
「妖精」(改良図)



添川公司作(昭和58年3月号) 詰手順
7八と左上 5七玉 3五角 6六玉 7七と左 6五玉 7六と 5四玉 4五と 同玉
4六と 5四玉 5五と 同玉 4六角 4四玉 5六桂 5四玉 6五と 同玉
1五龍 5六玉 5五龍 4七玉 5七龍 3八玉 3七龍 4九玉 5九と 同玉
3九龍 4九香成(途中1図)

途中1図(32手目4九香成まで)
第61期添川氏作1

6九金 同玉 4九龍 7八玉 5八龍 8九玉 6九龍 8八玉
7九龍 9七玉 7七龍 9六玉 9七香 同金 9五と 同玉 9七龍 8四玉
8六龍 9四玉 9五金 9三玉 8三桂成 同銀 同龍 同玉 8四銀 9二玉
9一と 同玉 9二歩 同玉 9三歩 9一玉 8一歩成 同玉 7二桂成 同玉
7三角成 8一玉 9二歩成 同玉 8三銀生 8一玉 7二銀生 9二玉 7四馬 8二玉
8三銀生 8一玉(途中2図)

途中2図(72手目8一玉まで)
第61期添川氏作2

6三馬 9一玉 6四馬 8一玉 ……馬鋸引き…… 1八馬 9一玉 2八馬 8一玉
……馬鋸引き…… 7三馬 8一玉 7二銀生 9二玉 7四馬 8二玉
8三銀成 8一玉 8二歩 同角 6三馬 9一玉 8二成銀 同玉 7三角 9二玉
9三歩 同玉 8四金 9二玉 7四馬 8一玉 8二角成 同玉 8三金 7一玉
6一歩成 同玉 7二金 同玉 7三飛 6一玉 6二歩 同玉 6三馬 5一玉
4二銀成 同玉 5三馬 3三玉 4三馬 2二玉 7二飛成 1三玉 2四金 同成銀
1二龍 同玉 2四桂 2三玉 1四銀 同玉 2五金 1三玉 1四歩 2二玉
3二馬 1一玉 1二桂成 同玉 1三歩成 同玉 1四金 1二玉 2三金 1一玉
2二馬まで191手詰

詰上り図
第61期添川氏作3

6月号の「棋界ミニ情報」欄に紹介された改良図での受賞。8手進んだところで発表図になります。ここから、さらにと金を捌いて角を動かし、1五龍と引いて下段での龍追いに入った途中1図あたりで煙の匂いがしてきます。
9筋まで行って左辺に密集した駒を軽く捌いたあと、龍と刺しちがえた銀を成らずに繰ってると、いつの間にか、お定まりの馬鋸の構え(途中2図)になっているではありませんか!序盤に残してきた二枚の歩を単純な馬鋸の往復で手に入れ、7三馬まで戻って銀を繰り替えたあと、角を剝がして9五金を出動させて、7三飛と据えてからは馬の追撃。最後の20手は黒川一郎作「翠翹」(詰将棋パラダイス68・9)と同じ鮮やかな収束です。
それまで煙詰の最長手数は150手が限界かと思われていましたが、往復馬鋸を組み込むことによって一挙に40数手も伸ばした記録作。易しい手順ながら、あたかも妖精の舞かと思わせるような爽やかな駒捌きの、品格の高い煙詰です。
伊藤果「煙詰と馬鋸がドッキングするなんて……。まさしくこの世に”妖精”が存在すると錯覚すらしたくらいです。看寿も天上で微笑んでいることでしょう。これ以上、言葉を付け加えたくないくらいに幸せ」
桑原辰雄「煙詰そのものが看寿の昔から創作家の勲章なのに、今までの手数記録を一挙に40手も更新したとは驚嘆の他なし。今世紀中には破れない記録ではあるまいか」
吉田健「煙詰の最長記録だという半面、収束は既成手筋に流入するが、これは問題とするに足るまい。いまや煙詰もまた”手筋物”の時代にさしかかったのである」


長篇次点 本間鉄郎作


本間鉄郎作(昭和58年1月号) 詰手順
6八飛 7九玉 7八金 8九玉 6九飛 7八玉 6八金 同金 同飛 7九玉
7八金 8九玉 6九飛 7八玉 (1)9六角 8七歩合 同角 7七玉 1七飛成
⑳2七香合(途中1図)

途中1図(20手目2七香合まで)
第61期本間氏作1

7九香 ㉒7八銀合 同香 8八玉 7七銀 8七玉 8八歩 7八玉 1八龍
㉚2八角合(途中2図)

途中2図(30手目2八角合まで)
第61期本間氏作2

(2)9六角 8七歩合 同角 7七玉 2七龍 3七香合 7九香 7八銀合 同香 8八玉
7七銀 8七玉 8八歩 7八玉 2八龍 3八角合 (3)9六角 8七歩合 同角 7七玉
3七龍 4七香合 7九香 7八銀合 同香 8八玉 7七銀 8七玉 8八歩 7八玉
3八龍 4八角合 (4)9六角 8七歩合 同角 7七玉 4七龍 5七香合 7九香 7八銀合
同香 8八玉 7七銀 8七玉 8八歩 7八玉 4八龍 5八金合 同龍 同香成
9六角 8七歩合 同角 7七玉 7八金 8六玉 9五銀 8五玉 9六角(途中3図)

途中3図(89手目9六角まで)
第61期本間氏作3

[90]7六玉
7七歩 7五玉 7六歩 同玉 6五銀 [96]7五玉 6四銀 同金 7六歩 同玉
8七金 7五玉 8六銀 同桂 7六歩 8四玉 6四飛 同歩 7四金 9四玉
8五角 同玉 7五金まで113手詰
昭和55年に<無防備煙詰>などで衝撃的なデビューをしながら不完全に泣いた作者が雌伏二年後に発表した大作です。
6八飛=6九飛を二回繰り返す序奏を経て9六角には8七歩と変則合が入り、1七飛成で香を奪うと、⑳2七歩合なら6七飛、8八玉、1八龍、2八香合、7七角、8七玉、3三角成…なので2七香合(途中1図)。
次ぎは7九香(㉒8八玉は1八龍、2八歩合、6六角、7七桂合、同角、8七玉、8八歩、7六玉、9五角…)で7八銀合を強要し、7七銀…8八歩…から1八龍と角を取ると2八角合となり、作者の狙いが判明します。つまり、合駒を取りながらの龍鋸手順という趣向です!
一サイクルごとに角と香が8・7筋で歩と香を入手しながら玉位置を変える反復手順との複合趣向は見事なもの。龍が4八まで近づいた四回目には5八金合となり、9六角(途中3図)から収束にはいりますが、[90]9五玉の変化や、7七歩…7六歩…で7五桂を消去して[96]同金を防ぐなどの軽手もあり、最後まで飽かせません。
前回に紹介した阿羅人作もそうでしたが、合駒変換を基調にした新型の龍鋸趣向作で、受賞級の傑作だったにも拘わらず、対抗作が強すぎたために次点に止まってしまったのが惜しまれます。
岡田敏「合駒入り龍鋸が見事に表現されている。龍鋸に絡む香合・角合もさることながら、左辺の7八銀、8七歩の捨駒を挿入したカラクリに感心させられた。大駒をぶち切っての収束も無難」
谷口均「長編の凄さを見せつける」
北原義治「昔もんの老人には、このストーリーを表現するはまさに至難中の至難の技とも感じられた。こういうのを、儂らの若い頃には”ウルトラC”ちゅう語があったわい…なんぞと思い出される。長生きすると恥も多いが、元気な若い人達のお蔭で、珍しいことも見られるわい」



「妖精」は21年間煙詰の最長手数記録を保持していました。

黒川一郎氏作「翠翹」(修正図)を掲げます。


将棋浪曼集第91番に収録されています。

本間氏作は、15手目8七角などでも詰んでしまっているようです…。

次回からは第12回(第62期)に入ります。
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「妖精」99手目 2七馬のとき 7二歩合の変化

添川氏作「妖精」の99手目 2七馬のときに 7二歩の捨て合いをすると、その後同様に進めて歩が1枚多くなるため、本手順より早く詰むそうなのですが、この変化手順をもしご存知でしたら、本文に補足して頂けると助かります。

仮に右下に1八歩の1枚しかなければ、7二歩合をすると手順が短絡してしまうため、典型的な無駄合となるのですが、この作品の場合、2枚目の歩の入手を遅延させる効果があるので有効合のはずです。
もし、歩が1枚多くなっても本手順より早い手順で詰ますことができないとなると、大きなキズということになるのですが、そこはこの作者ですので抜かりのあるはずがありません。

作図の過程を推察するに、一歩多くなると作意より早く詰む手順があったからこそ右下に2枚の歩を配置したのであり、早く詰まないなら、右下は1八歩のみとし、全く違う逆算をしたはずと考えられます。

名無しさんへ

「妖精」についてですが、決して無視をしていたわけではなく、検討に時間が掛かりそうということで返答を保留しておりました。

柿木将棋Ⅷで検討した限りでは、確かに作意より早く詰む答えを提示するのですが、私の頭ではなかなか分からないことがあります。

考えても分からないようであれば「分かりません」というコメント付きで柿木将棋Ⅷが提示した手順を追記する予定です。

もう少し、時間を頂ければと思います。

「妖精」の変化検討

大変遅くなりましたが、明後日あたりに追記として掲載しようと考えております。

遅くなりましたが

分かる範囲で回答いたします。
99手目2七馬に対し、100手目で9一玉とせず7二歩(合)とした場合ですね。

同馬、9一玉、7三馬、8一玉、7二銀不成、9二玉、7四馬、8二玉、7四銀不成、8二玉、8三銀不成、8一玉、6三馬以下、作意と同じように2歩を手に入れて馬が戻ります。
8四金、9二玉となった局面(作意ですと144手目)で8二角成、同玉、8三歩、9二玉に9三歩(7二歩合で手に入れた歩です)が成立し、早く詰むようです。
ただ自信が持てませんので、コメント欄で書くに留めたいと思います。
ご了承下さい。

Re: 「妖精」99手目 2七馬のとき 7二歩合の変化

> 8四金、9二玉となった局面で8二角成、同玉、8三歩、9二玉に9三歩(7二歩合で手に入れた歩)が成立し、早く詰む

なるほど、これはわかりやすく明確に割り切れていますね。

この変化が正解発表時に解説されていなかったのは、「馬鋸に対する歩合は無駄合」という先入観のためか、それとも手順が容易なため、解説不要と判断されたためでしょうか。

名無しさんへ

結果稿でも触れられていませんが、それは手順が容易なためだとは考えにくいと思いますので、前者かなと推測します。

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非表示コメントさんへ

本間氏作ですが誤図ではなく、指摘は仰る通りだと思います。
このことについては補足の下の方に書いておりますので、ご覧頂ければと思います。

「妖精」の変化の早詰順

たぶん、「懐かしの記事」へのコメントということになるのでしょうが。
かねてよりの疑問について、こちらのコメント欄の記述を読んで一部解決されたが…というお話です。

■作者コメント
山葉桂(添川公司)「創作初期の頃からこれは守っており、私の「妖精」で27馬の瞬間に歩の中合をすれば変長になるとの指摘を見かけたが、1歩多いと右辺に追わずに左上で早く詰むように出来ている。お確かめを。」(「命名の由来」、全詰連HP『リレーエッセイ』)

「この詰2015」の鼎談でも参照され(會場「添川さんは絶対早詰になるように作るっていいますよね。」p.83)、私も「還元型無駄合」に関係する論稿で何度も引用させて頂いている、無駄合概念についての創作指針表明に付記された「実例」です。
この記述を頼りに、(本コメント欄のhiroさんと同様)私も、持駒が1歩多くなった場合について早詰順を考えました。

以下、本稿では
 ▲84金▽92玉(作意144手目)の所で「持駒:歩n枚」と仮想した局面
を「局面Yn」とします。作意144手目は局面Y1で、山葉氏の記述は「局面Y2には早詰順がある」と示唆しています。

(続く)

(#2:妖精に変同?)

■私の最初の考察
局面Y2からの早詰順として、私が考えたのは

82角成同玉 73馬81玉 82歩91玉 92歩同玉 83金91玉
81歩成同玉 82金 迄 (144+)13手

というもので、部分的には作意(191手)より34手短くなります。
件の72歩合をした場合、馬の往復分で22手長くなりますから、72歩合の変化は作意と比べて差引き(22-34=-12により)12手の早詰になり、メデタシメデタシなのですが…。

私が考えたのは、「▲27馬まで引いた局面で再度中合をされたら?」ということ。
その場合、攻方の選択肢としては、2度目の中合を取った後、

 A:馬鋸を接近させて、局面Y1から作意順どおり詰める;
 B:馬鋸を離隔させて▽28歩のみ取って再接近し、局面Y2から早詰順で詰める;

の2通りが考えられます。受方の(2度目の)歩中合の位置ごとに、この2通りの詰手順を作意と手数比較したものが次の表です―

   A  B
72歩 ±0 + 6
63歩 ±0 + 2
54歩 + 4 - 2
45歩 + 8 - 6
36歩 +12 -10

―それぞれの応手に対し、攻方はA・Bのうち短い方を選択する訳ですが、72/63歩合の場合は変同、ということですね。

(続く)

(#3:桜坂の二の舞?)

■hiroさんの早詰順による修正
さて、今般、このコメント欄を精読したところ、局面Y2からの早詰順として、hiroさんが提示されているのは―

82角成同玉 83歩(イ)92玉 93歩91玉 73馬81玉 82馬 迄 9手
[変化] (イ)71玉は、61歩成同玉 62歩51玉 61飛 迄 同手数

―私の早詰順より更に4手短いわけです。
そこで、先ほどの計算をやり直す(Bのみ)と―

   A  B
72歩 ±0 + 2
63歩 ±0 - 2
54歩 + 4 - 6
45歩 + 8 -10
36歩 +12 -14

―63歩合の変化は割切れたのですが、72歩合はやはりA手順が最短で、作意と同手数。

■まとめ
これが本当なら、28歩18歩の2枚が取り残される「煙らない変同」で、けっこう大きなキズだと思うのですが。

以上、シリーズ「添川煙に変同?」第2弾「妖精」篇でした。
しかし、シリーズ第1弾の「桜坂」篇(2014/07/12の記事のコメント欄)では、一見同手数の変化に早詰順があるのを見落としていた、というオチがついたわけですが。

(続く)

(#4:念の為の手順確認)

■100手目72歩合の変化手順
99手目27馬に72歩合の変化では、最短の詰手順(A)は、

(101)同馬91玉 73馬81玉 63馬91玉 64馬81玉 54馬91玉
(111)55馬81玉 45馬91玉 46馬81玉 36馬91玉 37馬81玉
(121)27馬72歩合 同馬91玉 73馬

と進め(▽28歩▽18歩が残っている以外)作意125手目に合流する、というもの(191手)。

なお、(2013/)09/20付レスにおいて、この部分の冒頭の手順が、
 同馬91玉 73馬81玉 72銀不成92玉 74馬82玉 74銀不成82玉
 83銀不成81玉 63馬 以下
となっているのは誤編集(72銀不成~81玉の8手が衍)ですね。

さて、もう一方の詰手順Bを121手目から書下すと、

(121)27馬72歩合 同馬91玉 73馬81玉 63馬91玉 64馬81玉
(131)54馬91玉 55馬81玉 45馬91玉 46馬81玉 36馬91玉
(141)37馬81玉 27馬91玉 28馬81玉 27馬91玉 37馬81玉
(151)36馬91玉 46馬81玉 45馬91玉 55馬81玉 54馬91玉
(161)64馬81玉 63馬91玉 73馬81玉 72銀生92玉 74馬82玉
(171)83銀成81玉 82歩同角 63馬91玉 82全同玉 73角92玉
(181)93歩同玉 84金92玉(局面Y2)82角成同玉 83歩92玉 93歩91玉
(191)73馬81玉 82馬 迄 193手(2手長い)

(追伸)

このコメント欄を改めて読み直してみたら、

Evidence A:
>>柿木将棋Ⅷで検討した限りでは、確かに作意より早く詰む答えを提示するのですが、私の頭ではなかなか分からないことがあります。

Evidence B:
>>ただ自信が持てませんので、コメント欄で書くに留めたいと思います。

Hiroさんの心に何か引っかかるものがあったような。ひょっとして、この2度目の中合の件?
ちなみに、3度目以降の中合は「お手伝い」にしかなりませんから、私の分析により、受方の抵抗手段はすべて読尽くせているはず。問題は「攻方にもっと早い詰手順があるか?」ですね。

兎に角、100手目72歩合の変化が割切れるためには、表の「72歩×B」の欄が「±0・駒余り」又は「-2」以下が必須条件で、「40手短縮・駒余らず」という早詰でもまだ不十分なのです。
前出の山葉コメントに先行する文章は、

「私は大矢数タイプの馬ノコで手数延ばしの歩中合をするのは無駄合とは考えておらず、中合をしたら早く詰むように作るか、中合を避けるため玉方の歩を配置すべきだと思っている。」

なのですが、本作の場合、馬ノコで取る駒が歩2枚であるため、「中合をしたら早く詰むように作る」ことは相当ハードルが高いようです。

谷川さん

結論から申し上げますと、私の力では明確な答えを見つけられませんでした。
3年前の思考はどうだったか…思い出すことができません。

2013年9月20日のコメント、「7四銀不成、8二玉」は不要ですね。
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Author:hirotsumeshogi
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相互リンクは詰将棋関係のものであれば原則受けさせて頂きます。

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