続・塚田賞作品の魅力(10)(近代将棋平成7年12月号)②

今回は長篇部門を取り上げます。
第60期(昭和57年7~12月号)

長篇賞 上田吉一作


上田吉一作(昭和57年9月号) 詰手順
5二桂成 同玉 5三歩 4二玉 3二歩成 同玉 3八香 同龍 3三歩 4二玉
5二歩成 同玉 5九飛 5八香合 5三歩 4二玉 3二歩成 同玉 3七香 同龍
3三歩 4二玉 5二歩成 同玉 5八飛 ㉖5七香合 5三歩 4二玉 3二歩成 同玉
3六香 同龍 3三歩 4二玉 5二歩成 同玉 5七飛 5六香合 5三歩 4二玉
㊶3二歩成 同玉 3五香 同龍 3三歩 4二玉 5二歩成 同玉 5六飛 5五桂合
5三歩 4二玉 3二歩成 同玉 3四香 同龍 3三歩 4二玉 5二歩成 同玉
5五飛 [62]5四桂合 5三歩 4二玉 3二歩成 同玉(途中図)

途中図(66手目3二同玉まで)
第60期上田氏作

[67]2二成銀 同玉 1二歩成 3二玉
3三銀成 同龍 同角成 同玉 2五桂 2四玉 [77]1四飛 同玉 1三桂成 2四玉
2五金 3三玉 3五飛 4二玉 3一飛成 同玉 5二歩成 3二玉 3一角成 同玉
2二とまで91手詰
まず角道を遮っている桂を捌いて5三歩と打ち換え、3二歩成から3八香と打つのが本局の眼目。これを3七や3六に打っては、5筋に回った5九飛のとき5七あるいは5六桂合、次の5三歩に6一玉と逃げられて6九飛と振れないので詰みません。3八香なら5八香合の一手となり、作者の構想が見えてきます。つまり、3筋での<遠香>で龍を一段ずつ引かせては、5筋の飛が香合を取り戻しながら一段ずつ進んで行くという趣向です。
もし、二度目に㉖5七桂合とすると、作意同様に進め、次のサイクルで㊶5四桂と打って早いのです。5六桂合も同様。従って5筋に桂合はないと考えて、続けて5五香合をすると、途中図の局面で持駒が香ですから、[67]3三銀成、同龍、同角成、同玉、3四香…で詰んでしまいます。この作者がこんな収束にする筈がない…と見直して、ようやく5五桂合に気付くのです。
そして最後も桂合が正解。[62]5四香合なら76手目の2四玉のとき[77]7九角、4六桂合、同角、同香、5四飛…の早詰が用意されています。5四桂合のときは2七銀の守りがあってこの筋は成立しません。また[67]2二成銀と捨てるのはこのタイミングが絶対で、これ以前に捨てると[62]5四銀合が生じて5三歩、6一玉…で逃れます。この辺りの行き届いた配慮はさすがです。
新しい意味付けの香の遠打ちを使って見事な反復手順を作り出したのも立派ですが、香合が途中から意表をついて桂合に変わる構成も知的快感を覚えさせます。上田芸術の典型ともいえる傑作です。
岡田敏「3筋の遠香の意味付けに新味があり、見事な趣向で、収束も文句なし」
柏川香悦「趣向の斬新さ、作品の出来ばえなどで一歩抜きでている」
谷口均「推敲し尽くされた近代的な作。殊に収束の連続捨ては短編作を見ているよう」
吉田健「久しぶりの新型プロットで、香の遠打ちの意味付けは新鮮である。いつもながらの知的なカラクリの構成は上田流の名に恥じないものと言えよう」


長篇次点 阿羅人作


阿羅人作(昭和57年12月号) 詰手順
(一)1三龍 ②2三香合 9四香 8四玉 1四龍 2四歩合 9三角 9五玉
1五龍 2五歩突 9六歩 9四玉 1四龍 ⑭2四角合 9五歩 ⑯9三玉
(二)2三龍……同様手順16手反復……9三玉 (三)3三龍… 〃 …9三玉
(四)4三龍… 〃 …9三玉 (五)5三龍… 〃 …[80]9三玉
6三龍 [82]7三香合 9四香 8四玉 6四龍 7四歩合(途中図)

途中図(86手目7四歩合まで)
第60期阿羅人氏作

[87]7三龍 同玉 6四角 7二玉
8二角成 6三玉 6四馬 5二玉 4四桂 4三玉 5四馬 3三玉 3二桂成 同と
3四香 2二玉 3二香成 1二玉 4五馬 1三玉 4六馬 2三玉 2四馬 3二玉
4二銀成 2一玉 2二歩 1一玉 1二歩 2二玉 3四桂 1二玉 1三香 2一玉
1一香成 同玉 3三馬 1二玉 2一馬まで125手詰
初手は1三龍と香を取るしかありません。②2三歩合なら9四香…1四龍で角を取って2四香合に9三角…1五龍とすれば、今度は角合の一手になり、同龍と切って7三角以下の簡単な詰み。ところが、2三香合…2四歩合…としてあれば、ここで2五歩と突き出せます。そこで9六歩から1四龍(⑭4四歩の中合は同龍、9三玉、5三龍、8三香合、8二銀以下)で2四角合をさせて9五歩と突き出せば、⑯同玉なら2五龍、3五歩合、9六歩、9四玉、3四龍、9三玉、4三龍…で早いので、9三玉の一手となります。
ここまで来て盤面を見直すと、9筋の方は初形に戻り、1筋に並んでいた玉方の歩角香が2筋に移っているではありませんか!続いて2三龍…と香を取れば、再び16手の反復手順に入る-という見事な着想なのです。
香歩角の合駒をさせながら<三段龍鋸>を繰り返し、六回目に入った途中図で、相変わらず[87]9三角…6五龍とすると、今度は7五角合で詰みません。7三角打ちが出来ないからです。そこで途中図からは7三龍…6四角と手を変えて奇麗な捌きの収束に向かいます。
なお、楽しいリズムに乗って手を進めていて、つい見逃しそうなのが四回目の4三龍に対する㊿5三角打の変化。これに対して同龍とし同角で7五角が打てないので、8二銀とし、同玉、8四香、7二玉、8三角(8一玉は6一角成…)、6三玉、7四角成、7二玉、7三歩、7一玉、6一香成、同玉、7二歩成…の詰み。また趣向手順の終わりの辺りにも[80]9五同歩…や[82]7三歩合…の変化もありますが、いずれもすっきりと割り切れています。
こんな単純な構図から、広々とした三・四・五段目に何度も何度も合駒が現れては消えるのは”魔法のランプ”のようで、オリジナリティ溢れる三段龍鋸趣向の傑作です。
なお、本図はいきなり趣向手順から始まっていますが、作者はのちに6手の序奏を加えて改良されたということです。
岡田敏「一サイクルに四回の合駒を入れた三段龍鋸には感嘆せざるを得ない」
谷口均「初夢を叶えさせてくれたような三段龍鋸は凄い」


新人賞 杉山 正作
「胡蝶」



杉山 正作(昭和57年11月号) 詰手順
4五金 同玉 5六銀直 4四玉 4五歩 5三玉 5四歩 6三玉 7四銀 5四玉
6五銀上 4五玉 5六銀上 3六玉 4七銀上 2七玉 2八歩 3七玉 3八歩 4八玉
4九歩 5七玉 6八金打 6六玉 6七金 7五玉 7六金 8四玉 8五金 9三玉
9四金 9二玉(途中図)

途中図(32手目9二玉まで)
第60期杉山氏作

8四桂 9一玉 8一香成 同玉 8二歩 7一玉 7二桂成 同玉
8三金 7一玉 7二歩 6一玉 6二歩 同玉 7三銀生 5三玉 6四銀引生 4四玉
5五銀引 3五玉 4六銀引 2六玉 3七銀 3五玉 4六銀直 4四玉 5五銀直 5三玉
6四銀直 6二玉 7四桂 6一玉 7一歩成 同玉 8一歩成 6一玉 7一と 同玉
8二桂成 6二玉 7二成桂まで73手詰
初手4五金から5六銀直と立って4五歩…5四歩…とし、斜めに銀と歩が四枚ずつ並んだところから第一趣向が始まります。それは銀が一段ずつずり上がるだけの単純なもの。2七玉まで追って、今度は銀の階段の裏側を金で追い上げ、途中図からは桂香と歩を捌いて8三金と入り、7三銀生からこの銀を3七まで引き戻すのが第三趣向。そして最後は四枚の銀が一段ずつずれた位置に並び直して7四桂跳び以下の収束に入ります。
鎖状に連なった四銀が知恵の輪もどきの動きを見せるという単純な趣向ですが、最初に並んだ銀が最後には筋違いに並び変わるのが珍しく、易しい手順ながら、盤面一杯に玉が動き廻る、古きよき時代の浪曼派を思わせる楽しい趣向詰。それを全小駒図式で仕上げたところが作者の工夫です。
作者はその後も小駒図式の大作を次々と発表し、”小駒作家”の異名をとりました。
伊藤果「小駒の世界でこれだけロマンの香りが漂うとは…」



上田氏作は「極光21」第97番に収録されています。

追記(9月5日)
長篇次々点の駒場和男氏作(修正図)を掲げます。


「ゆめまぼろし百番」第17番(「七種遠打」と命名)に収録されています。

次回からは第11回(第61期)に入ります。
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