続・塚田賞作品の魅力(10)(近代将棋平成7年12月号)①

森田銀杏氏の連載「続・塚田賞作品の魅力」、第10回(第60期)は2度に分けて取り上げたいと思います。
今回は短篇・中篇部門です。
第60期(昭和57年7~12月号)

この年、4月号で桑原辰雄氏が、6月号で谷口均氏がそれぞれ入選百回に達し、六人目と七人目の無鑑査作家になられました。どちらも初入選は高校生の頃。桑原氏は昭和26年7月号なので三十一年を要していますが、谷口氏は38年3月号なので十九年でのスピード達成です。
本誌ではこのお二人を招き、伊藤果・岡田敏氏に筆者と森敏宏編集長を加えた座談会を7月号に掲載しています。そこで語られた両者の創作法が対照的で面白い。桑原さんは他の人の詰将棋には全く影響されず、若い頃にメモしておいた三千ほどの素材をもとに力まかせの我流で作品化しているとか。北原義治氏が「剛毅の孤剣」と評する個性的な作風も頷けます。谷口さんはベテラン作家からも多くを吸収し、創棋会で刺激を受けたので、既成手筋を拒否した清新な感性を短編に織り込もうという創作態度です。そこから形にこだわらない華麗な作風が生まれたのでしょう。
この二人の選考委員が加わったこの期は、何故か短編が振るわず、該当作なし。中編も低調でしたが、若手のホープ伊藤正氏が若島正氏を押さえて初受賞しました。これにひきかえ長編は大作が目白押し。上田吉一氏が貫祿で八回目の受賞、初入選の杉山正氏が新人賞に決まり、新機軸の三段龍鋸を実現した阿羅人氏は不運というほかありません。
北原義治氏が加藤一二三新名人と内藤國雄王位・王座を祝った記念曲詰シリーズも受賞級でしたが、候補作リストに洩れたのが惜しまれます。

第60期「塚田賞」選考投票 集計表



短篇次点 植田尚宏作


植田尚宏作(昭和57年7月号) 詰手順
2二銀 同玉 4二龍 3二歩 3一龍 1三玉 1二金 同玉 2四桂 同飛
1一金 1三玉 2二龍 同玉 1二金打まで15手詰
3手目3一龍と歩を取ると金輪際詰みません。俗に4二龍と引き、3二合をさせてから3一龍と行くのが面白い攻め方で、本局の主眼です。つまり玉方に3二歩と突かれるので手駒は増えませんが、最後になってこの3二歩が壁駒となり、2二龍捨ての詰上りが生ずるのです。取れる駒を迂回的な手順で取らずに攻めるという、この作者には珍しいマニアックな手筋ですが、後ろに利く合駒をなくすために全ての飛金をさりげなく使っている辺りが巧妙で、初手から1二金、同玉、2四桂、同飛、4二龍、3二桂合…の紛れもあって、非の打ちどころのない作品です。
柏川香悦「3手目の4二龍があまり類のない巧妙な伏線で、以下の手順も明快」


中篇賞 伊藤 正作


伊藤 正作(昭和57年9月号) 詰手順
7三銀 5五玉 5四金 同玉 6三龍 ⑥5五玉 6四銀 4六玉 4五馬 同玉
5四龍 ⑫4六玉(途中図)

途中図(12手目4六玉まで)
第60期伊藤氏作

5五銀 3七玉 3六飛 同玉 4五龍 ⑱3七玉 4六銀 2八玉
2七馬 同玉 3六龍 1八玉 2八金 同玉 3七銀 1九玉 1八金 同玉
2七龍 同玉 2八金まで33手詰
玉方の金を取りながら、銀と龍のコンビで斜め追いをする新しい趣向手順です。龍の押し売りの度に、⑥6三同玉、4五馬、5四飛合、1三飛成、5三歩合、6四金…や、⑫5四同玉、5五金、4三玉、1三飛成…、⑱2六玉、4六龍、1七玉、1八歩…などの変化がありますが、慣れた人なら読み飛ばして作意に入るでしょう。現在、神戸市役所の欧州駐在としてミラノの在住している作者ですが、当時は大学生。筆者が”新浪曼派”と名付けて注目していた若手作家の軽作でした。
桑原辰雄「5手目6三龍と強烈なアタックを加えてからリズムに乗った龍と銀の斜め追いの趣向感覚は、ややもすればひ弱さを感ずる”趣向詰”に新鮮味を倍加した」
植田尚宏「龍の押し売りは面白い。難しくはないが、手順にリズムがあり、最後も決まっている」
金田秀信「簡潔な駒配置から、楽しくかつ美しい手順を作り上げた手腕は並みのものではない。少年期のモーツァルトのピアノ小品のようだ。屈託がなく、純粋で美しい」
北原義治「繊細な仕上げで、階段昇りが夢のように(?)実現できた」
伊藤果「表現の巧みさに感心させられた」


中篇次点 若島 正作


若島 正作(昭和57年7月号) 詰手順
3三角成 ②同玉 3四銀 2四玉 2一飛 ⑥2三桂合 同飛成 1五玉 1六歩 同玉
4九馬 1五玉(途中図)

途中図(12手目1五玉まで)

第60期若島氏作

2七桂 同飛成 4八馬 1六玉 2八桂 同龍 3八馬 1五玉
2七桂 同龍 3七馬 同龍 2五龍まで25手詰
初手3三角成の変化が難しい。②1三玉なら2五桂、同飛、2三飛、同飛、同馬、同玉、3四銀以下、②1二玉なら2二飛、同飛、同馬、同玉、2一飛(1三玉は2五桂、1四玉、1一飛成…)、1二玉、2四桂、1三玉、1一飛成、2四玉、2六香、2五合、1六桂以下。5手目の2一飛の離し打ちに、後の1一飛成を妨げる⑥2三桂の捨合が入って、途中図から4八馬以下のミニ馬鋸の収束に入ります。作者にとっては手すさびの一局でしょう。
吉田健「簡単な駒くばりから、考える楽しさのある前半。馬ノコの小趣向を見せる後半と、手順のバランスも満点。この完成品にこめられた遊びの境地には拍手を贈りたい」
谷口均「アッサリした初形から、序に変化・紛れを思いきりつけてテーマをより鮮明に浮かび上がらせる、得意の手法」
岡田敏「初手の変化が難しすぎるような気がするが、全体的に軽い味付け」



短篇の得票は、左から12・0・5・5・1・5・10・10だと思われますが、表に従いました。
伊藤氏は初受賞とありますが、「月蝕」に続き2回目の受賞ですね。
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