続・塚田賞作品の魅力(8)(近代将棋平成7年10月号)③

今回は長篇部門を取り上げます。
第58期(昭和56年7~12月号)

長篇賞 伊藤 正氏作
「月蝕」



伊藤 正作(昭和56年9月号) 詰手順
1七と 同玉 2六銀 同と 1八歩 1六玉 2六と 同玉 3七銀左 同と
同銀 1六玉 2八桂 同歩成 1七歩 同玉 2八成香 1六玉 1五金 同玉
2五と 同玉 3六と 同と 同銀 1五玉 1六歩 同玉 2七成香 1五玉
1四金 同玉 1五歩 同玉 1六歩 1四玉 1三金 同と 同と 同玉
1二桂成 1四玉 2四と 同玉 3五銀 ㊻2三玉(途中図)

途中図(46手目2三玉まで)
第58期伊藤氏作1-1

㊼2四歩 1四玉 1五歩 同玉
2六成香 1四玉 1三成桂 同玉 2三歩成 同玉 3四と 同成桂 同銀 1三玉
1四歩 同玉 2五成香 1三玉 1二金 同玉 1三歩 [68]同玉 1四歩 1二玉
2四桂 2一玉 3一香成 1一玉 2一成香 同玉 3二香成 同成桂 同桂成 [80]同玉
3三銀行成 2一玉 2二成銀 同玉 3三銀生 2一玉 2一歩 1一玉 2三桂 1二玉
1三歩成 同玉 2四成香 1二玉 1一桂成 同玉 2一歩成 同玉 3二銀生 1一玉
1二歩 同玉 2三成香 1一玉 2一銀成 同玉 3二香成 1一玉
2二成香まで109手詰

詰上り図
第58期伊藤氏作1-2

三十五枚全部の小駒がびっしり敷きつめられた密集図式ですが、形に怖じけないで玉の周辺だけを見ると、着手は意外に限られています。初手1七とから始めて、できる王手を続けていると、17手目にしてと金を捨てては成香と香先の銀を進めていく<絞り込み>の趣向手順が現れました。
ところが、これが必ずしも単調ではなく、45手目3五銀(途中図の前)には㊻1四玉、1五歩、2三玉、3四と、同成桂、同銀、2四玉、2五歩、1五玉、1六歩、1四玉、2六桂までの変化があり、途中図からは㊼3四と…と寄る紛れもあって、気は許せません。このあと収束にも[68]2一玉…や[80]1一玉…など、微妙な変化があります。
そして最後は成香二枚の<煙詰>。密集形からほぐして行っただけに爽快な気分です。
本誌では初入選ですが、専門誌ではすでに大作をいくつも発表している気鋭の若手作家で、既成の手筋を使ったとはいえ、厳しい条件の<小駒煙>を見事な<密集形>で実現した伎倆は驚嘆に値します。その上、駒交換の多い小駒図式にありがちな着手や応手の非限定を最小限に抑え、最終手の表記にまで配慮した余裕にはほとほと呆れました。
植田尚宏「密集がほどけていく心地良さ」
岡田敏「小駒の煙で縦型の第一号という価値にプラス盤面密集形で文句なし」
吉田健「<密集形>と<煙>という対極のものを、しかも<小駒煙>で一体化してのけた手腕にはびっくりした」
北原義治「四半世紀以上前の僕の夢を実現してくれた」
金田秀信「作者の努力に敬意を表したい」
柏川香悦「作者の才能と努力の結晶であり、只々よくぞ…と申すほかありません」
伊藤果「本作を初見したときは啞然としました。今、詰将棋界は新しい黄金期を迎えている気がしてなりません。これからの作品を期待するだけで心臓が破裂しそうです」


次点 伊藤 正氏作


伊藤 正作(昭和56年11月号) 詰手順
2二銀成 同玉 2四龍 同銀 2三銀 同玉 2四と 同玉 1三銀 ⑩3三玉
3四香 2三玉 2四銀成 同玉 4二馬 同成桂 1四金 3五玉 4五と 3六玉
4六と 同玉 5七龍 3五玉(途中図)

途中図(24手目3五玉まで)
第58期伊藤氏作2-1

5五龍 3四玉 4五龍 3三玉 3四歩 3二玉
3三銀 同成桂 同歩成 同玉 2五桂打 同と 同桂 3二玉 2三金 同玉
4三龍 2四玉 3三龍 2五玉 2六歩 同玉 3七と 1七玉 2八と 同玉
2七と 1九玉 1八金 同玉 3八龍 1九玉 2八龍まで57手詰

詰上り図
第58期伊藤氏作2-2

9月号の全小駒密集煙「月蝕」で衝撃的なデビューを飾った作者が、10月号の二枚馬によるエスカレータ趣向の「引潮」に続いて11月号に発表した縦型の<市松煙>です。
手順は、銀銀香の駒取りから始まり、9手目1三銀に⑩2三玉、2四香、3三玉、4五桂、3二玉、2二香成、4一玉、3三桂…の変化があるくらいで、すっきりとした捌きが続きます。4二馬で質金を奪って1四金以下、下段に追い込んで23手目に5七龍…でようやく龍が出動。途中図からもう一度上段に追い戻して取り残した成桂を拾いに行き、2五桂と継ぎ桂をしてからも鮮やかな捌きを続けると、最後は入玉の雪隠詰になりました。
初形市松の煙詰は七條兼三作(詰パラS53・3、将棋墨酔3番)が最初ですが、これは五段目までの横型。縦型の市松煙は本図が初めてです。その条件を満たしただけでなく、1一玉に始まり1九玉で詰上るという趣向まで盛り込みながら、詰将棋らしい好手順に終始して好評を得ました。現在はミラノに在住する作者ですが、いつの日か復活を期待するのは筆者だけではないでしょう。


次々点 小林茂弥氏作


小林茂弥作(昭和56年10月号) 詰手順
4二角 6一玉 5二歩成 同玉 6二歩成 同玉 7二歩成 同玉 8二歩成 同玉
6四角成 ⑫7三歩合 同馬 7一玉 7二歩 6一玉 6二歩 5一玉 5二歩 4一玉
3二歩成 同玉 2二歩成 同玉 5五馬 2一玉 2二歩 1一玉 1二歩 同玉(途中図)

途中図(30手目1二同玉まで)
第58期小林氏作

4五馬 1一玉 1二歩 2二玉 2三桂成 2一玉 1一歩成 3一玉 4二歩成 同玉
3三桂成 5二玉 6三桂成 5一玉 6一歩成 同玉 3四馬 5一玉 5二馬まで49手詰
三段目に攻め方の歩が並んだ、例の持駒角香四枚の古作を連想させられる珍形。角打ちの初手にはじまり、歩四枚を続けて成り捨てて、6四角成に7三歩の捨て合が妙防です(⑫9二玉なら、9三歩、8一玉、8二歩、7一玉、6三桂、6一玉、6二歩、同玉、7三桂成、6一玉、7一桂成以下の綺麗な詰み)。7三同馬のあとは7二歩から二段目に歩を並べ打ちして右辺に追い、途中図で4五馬と歩を補充しながら中央に戻って詰上ります。歩と桂だけの珍形から、趣向的な味わいの捌きに加え、玉座還元のオチまでついて、初入選とは思えない傑作です。
岡田敏「この珍形にこの手順は驚嘆させられるものがある」
柏川香悦「この大きな珍形で、左右一杯に展開される見事な捌き。加えて玉座還元とは素晴らしい」
北原義治「若さの情熱が引き出した大発見」




追記(9月5日、七條氏の作品のみ)
市松煙の解説において言及されていた、七條兼三氏作を掲げます。



9月号では、「月蝕」の横に斎藤仁士氏作「冬の旅」が発表されていました。
全駒無防備煙の大作で、不完全が惜しまれます。

次回からは第9回(第59期)に入ります。
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